67 サキュバスとWii
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その後、車は僕をアパート前で下ろし、
「あれ? わらびちゃんもここで降りないの?」
「な、何故さも当然のように……ま、まさか部屋で何か……?」
「いや、カヌレに用でもないかなって」
「……と、特にありません」
「ウカ、母さんが家に帰って来いってうるさい」
「こないだ相手してやったばっかだろっ、塩でも撒いとけっ」
「ではウカノ様、またー」
車は走り去った。
さぁて。
「んー……はぁ」
伸びと同時にコキコキ鳴る体。
今日一日お勤めご苦労様でした、僕ちんっと。
OLならば頑張った自分へのご褒美に高級アイスでも買うのだろうが、今更コンビニに行く気力は無い。
チラリ カヌレは……まだ帰って来てないな。
体感、いっつも居ない感じがするけど、今は更に学園祭でいそがしいんだろう。
明日の朝、労ってやらんとなぁ。
カンカンカン カチャカチャ ガチャ
「うぃー、たーいまーっと。今日も僕が先か」
そりゃあそうだ、鍵も電気も閉じていたんだから。
……ふと、思う時がある。
このまま待っていても、彼女が来なくなる日がいつか来るのでは、と。
連絡先すら知らず、知ってるのは名前とキスの味くらいな彼女。
それはそれで割り切ってる良い感じの関係に見えなくもない。
けれも、別れは、いつだって唐突なもの。
その日が来たら、僕は変わらずおちゃらけた自分で居られるだろうか。
彼女と過ごす前の自分はどう生きてたかなんて、もう思い出せないというのに。
「よし。たまにはこうしてシリアスな感じ出さないとね。で、だ。扉の前にあったこのダンボール……中身は何かなっと」
ビッとガムテープを外し、中を確認。
「あーはいはい。そいえば注文してたねー。配達早いなぁ」
「(ガチャ!)はぁ……! た、ただいま!」
「おかー」
颯爽帰宅なアンドナさん。
肩出しのオフショルダーフリルシャツがエッチ。
「んー? 今日はツインテなんだね」
「え? あっ! ま、まぁたまには、ね」
「そ。似合ってるよ。テキトーに寛いでてー(ゴソゴソ)」
「なにやってるの?」
「これ、テレビに繋げようかなって」
「ゲーム機? わざわざ買ったの?」
「Wii。昨日一昨日ゲームに触れたら久しぶりにやりたくなって」
「そっかぁ。じゃ、私ご飯作ってるね」
「よろー」
実は実家に実機があるんだけど、それを借りるのもなんだし、何よりママンのいる虎の巣に帰るのが、ね。
えっーっとWiiセッティングは……そうだ、結構面倒いんだった。
テレビにセンサーバーをつけたりしないとだし。
レトロゲーだからそこは仕方ない。
Wiiがレトロゲー扱いってマジ?
「よし、こんなもんかなー」
「終わったー?」
キッチンの方からアンドナの声。
「んー。で、今から◯マブラ進めて十人以上の隠しキャラ増やしていく作業するねー」
「……ふぅん。頑張ってねー」
条件をネットで確認しながらという現代っ子ムーブをしながらピコピコとゲームを進める。
「ねーねー。ねえってばー」
やっぱりこのゲームはみんなとの対戦がメインだから、一人プレイのストーリーモードとかは作業感が否めない(面白くはある)。
……三〇分ほど続けて、三分の一ほどのキャラを出現させた所で一段落。
「ふぅ。こんなもんかな」
「(ぶすぅ)」
「ん? 隣居たんだ。どしたの、ホッペ膨らませて」
「知らないっ(プイッ)」
「面倒臭い彼女始まったな」
「ご飯出来たよっ、ほらっ、ピコピコやめてっ」
「なんでもピコピコ呼びする母ちゃん始まったな。んもー、『分かってる』よー? かまって貰えなくてムッとしてるんだよねー? (ギュー)」
「むぅ……抱き締めるくらいで簡単に絆されると思ってるっ」
「贅沢になったなぁ。えいえいっ(コチョコチョ)」
「あはははっ! ずるいずるい! 反則! あはははっ! し、仕返しっ!」
抱き合い揉み合いながらゴロゴロとカーペットの上を転がる僕達。
身体を重ねる機会が増えれば必然、この程度の触れ合いは朝飯前。
そんじょそこらのセクハラ(愛情表現)じゃあ、もうアンドナは動じない。
感度ばっかり上げやがって。
「はぁ、はぁ、ふぅ…………もう。そーやって強引に誤魔化す癖、良くないよ? 真面目な話の時もすぐ巫山戯るし」
「肉体言語が手っ取り早いんだよ。僕を前にしてシリアスな空気が五分と続くと思うなよ? さ、ご飯食べよー」
「君はそういう奴だよ……」
今夜はカレーつけ麺&オクラとイカ明太子の和え物。
今更ながらこのサキュバス、日本の食文化に慣れすぎである。




