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【六章】61 会長と学園祭



「学園祭?」

「……本当に知らなかったんだね」

「それが明後日にあるって? そんな伏線あった?」

「校内の慌しく忙しない浮き足立った雰囲気を見れば言われずとも勘付くだろ普通。いや、普通に担任の先生は言ってたと思うが」

「ボーッと生きてるからねぇ。君が忙しかったのもソレ?」

「まぁ、それもあるかな」

「んー……じゃあ園芸部である僕も何かしなきゃだね」

「一人だからそもそも部じゃあ……」

「インパクト考えたらこの学校をナウシカっぽく『腐海に沈める』とか」

「それは園芸部のやる出し物のスケールじゃないからやめてくれ」


場所は屋上。

木(数十時間で立派に伸びた)の木陰。

綺麗に生え揃った芝生の上に寝転がる僕。

僕のお腹の上には同じく寝転がるカヌレの頭。

そんな昼休み。


「なら僕は静かに祭りを楽しめばいいのか」

「そうだね。君には大人しくして貰った方が私としても楽だよ」

「人をトラブルメーカーみたく言いやがって。僕は植物のように穏やかな人間さ」

「その代わり、暴れた時の君はゴジアオイのように周囲を焼き尽くすからタチが悪いんだよ……」

「珍しい花を知ってるね、いい事だ。なら大人しく、文化祭の出し物は毒物臭物危険物なんでもごされな珍しい植物を展示して皆に植物の素晴らしさを教えようか」

「危険物展示は普通に排除されるよ……?」

「生徒会長権限でどうにかしろよー(コチョコチョ)」

「あははっ、やめてっ、くすぐらないでっ」


しかし、夏に学園祭か。

普通は秋頃なイメージだけど。

あれ、修学旅行とか体育祭も秋だっけ? 秋にイベント多いな、なら学園祭前倒しでもいいか。

田舎の成人式は夏が普通らしいし。


……ん?


ふと。

寝転がる僕を、熱っぽい瞳で見下ろす彼女。

フゥフゥと息も荒く、その顔は、発情した時の『あの子』みたいで。

ふむ……キッカケは、今のくすぐりかな? ワキワキと色んな部分を揉み解したから。

まぁ、二人きりの空間だ、そういう気持ちになるのも自然。

でも、今の所、カヌレとは『一度もエッチな触れ合いはして来なかった』から、スムーズにヤれるかどうか。

共同作業はよく言ったもので、プロレスと同じく、こういった行為はお互いの信頼と経験で成り立つものだから。


「んっ……」


しかしその心配は杞憂のようで、カヌレはまるで『慣れてる』かのように、スムーズに、僕の唇に照準を合わせ、重力に従い顔を下ろしてくる。

互いの吐息が混じり合い


キンコンカーン


「ッ! (ビクッ)」

「っとー、時間切れかぁ。いや、考えたら授業だの気にしなきゃ時間切れも何も無いか。このまま二人でここに居よ?」

「……魅力的な提案だけど、『今の私』はここの生徒会長だからね。行こっか?」

「ぶー」


抵抗するも強引に手を引かれて僕は立たされ、屋上を後にする羽目になった。



ガヤガヤ


カヌレと共に廊下を歩いていると、授業開始時間だというのに皆廊下でわちゃわちゃ作業をしている姿が目に入る。


「おーいカヌレ、みんなサボってるぞぉ?」

「君がドヤ顔で言うんじゃないよ。言ったろ? 明後日学園祭って。昼休み後はその準備の時間になってるんだ」

「ぶー、ならドサクサに二人で堂々とサボれたじゃーん」

「生徒会長が堂々とサボれるわけないだろ……」


ペタペタと絵の具で看板の仕上げをする生徒達。

コスプレをして喫茶店のリハーサルをする生徒達。

カンカンと工具で小物を作ってる生徒達。


「全く。みんながここまで頑張れる原動力は何かねぇ」

「様々だろうさ。本気で挑む者、皆で集まって何かがするのが楽しい者。あとは」

「好きな子にアピール出来るチャンス、とか?」

「……まぁ、それぞれさ」


ちらほらと伺えるそんな光景。


『そ、そこ俺も手伝うよ』『ほんと? ありがとー』

『これ、味見してくれない?』『お、おう、いいぜ』

『あ、あのっ、当日私と一緒に……!』『ん? 何か言ったか?』


普段は話せない意中の相手と物理的に距離を縮められる、そんな期間。

青く甘酸っぱいリンゴのような時間。


「全く。君がも少しチョロく無かったら、僕らはこの期間、付かず離れずなもどかしい関係だったかもしれないのに」

「わ、私の問題というより、君の強引なオフェンス(攻め)の問題だからっ」

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