59 ダム決壊
遊びに来た僕達が最後に向かったのはカラオケ。
「ホラおばちゃん、グ◯ーブの名曲入れといたよ。好きに歌ってておくれ」
「ホントに入れてる……要望通り歌うけど、ちゃんと聴いてておくれよ?」
「おー(シャンシャン)」
「適当にマラカス振りやがって。んんっ……あーあー(チューニング)」
「さ、ママンが歌ってる間に次の曲入れとこうぜ。アンドナ、何デュエットする?」
「デュエット前提なんだ……私、そこまで最近の曲知らないんだよなぁ」
「別に好きな曲でも良いよ。それがセレス、君が先に歌う? てか君って僕らと以外でカラオケ来るん?」
「人をコミュ障みたいに言うな。生徒会メンバーでたまにカラオケ行く」
「そっかー、お兄ちゃん安心したよ。普段口数少ない君がマイクを持つとアイドル並みにキャピキャピし始める姿にさぞや皆驚いたろうな」
「捏造するな」
「自覚ねぇんだな。じゃ歌ってる姿録画しといてやるよ。なんなら久し振りにデュエットしようか?」
「これ、『歌えるでしょ』」
「……えっ? せ、セレスさん、私と……?」
「歌えるよね」
「ま、まぁ……」
「なんだぁ? 急に女の子同士イチャつき出して。圧掛けてるように見えるけどまぁいいさ。二人のデュエット、期待しとくぜっ」
「おーい、聴いてるー? (ママン)」
……とまぁ。
こんな感じに、僕ら若者は無理してキャピるおばさんに付き合い貴重な休日を浪費していく。
ま、いつもは家で過ごしてるアンドナとこうして外で遊べたのは良かったかな。
カラオケが終わった後は……
「もー、おばちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ?」
「お好み焼きはおやつでしょ? 別腹だよー。大阪で定番らしいお好み焼き定食は知らん」
アミューズメント施設内の鉄板焼屋に移動。
店員に案内され、鉄板の前に座る。
ファミレスの時同様、アンドナは僕の隣。
「粉もんねぇ。セレスは何焼く?」
「もんじゃ」
「相変わらず好きねぇ、満足感無いでしょやアレ。アンドナは?」
「そ、そこまでお腹減ってないし……ウカノ君が食べたい物をちょっと貰うくらいでいいかなっ」
「んー、じゃあ焼きそばっ。あとイカとホタテも焼こっかなっ」
「じゃー注文するね。店員さーん」
注文後のひと仕事やった感なこの空気は嫌いじゃない。
「ふぅ、今日は楽しかったね。また近いうちにこうして集まろうよ」
「やだよ。これ以上息子の貴重な休みに干渉しないでおくれ? セレス一人で我慢して」
「毎週母親をアンタのアパートに送り込んでやる」
「君ら兄妹は母親をボンビーか何かだと思ってるのかい? 全く……可愛い息子をこんなに夢中にさせるだなんて、アンドナちゃん、恨むよ?」
「ヒェッ」
「だからビビらせるなっつったろ。んー……帰ったら流石に普通の量のご飯は厳しそうだね。今夜は軽めの麺系とかにしよっか? アンドナ」
「この後も麺系食べる気なんだ……」
「ん? 今夜? その様子だと普段から夕食も一緒なのかい?」
「布団も一緒さっ。ネッ?」
「ぅぅ……」
「飲食店で生臭い話はヤめろ」
「クスクス。オスを知らないセレスちゃんにはまだ早い話だったね」
「(グググッ)」
「おおいっ、加熱中の鉄板に僕の顔を押し付けようとするのはやめてくれぇ?」
「お待たせしましたー」
店員さんがズラリとテーブルに焼き物のタネ入りどんぶりを並べる。
厨房で綺麗に整えてくれたタネをぐちゃぐちゃに混ぜて鉄板に流し込み焼く……外人にゃあ思いつかない日本のジャンクフードだぜ。
「さっ、焼こ焼こ。鉄板のこっち側はお好み焼きで、セレちゃんとこでもんじゃ、ウー君のとこで海鮮焼きそばね」
「(ジュー)ウカ、場所取り過ぎ。もんじゃと混じる」
「(ジュー)おーい、君こそこっちに侵攻してくんなよー、あんかけ焼きそばにする気は無いからな? この麺で引いた境界線は越えるなよ?」
「(ジュー)あっ(ドバー)」
「げぇ! もんじゃのダム決壊させやがったな下手くそセレス! こっちに来てる来てる!」
「アッハッハ! 私は別に構わないよ? もうある程度固めに焼けたし」
「(ザクザク)まぜまぜ」
「おいっ、ヒトの麺をヘラで刻んでもんじゃに取り込むなっ」
「パクパク」
「アンドナ、早く食べるぞっ。この妹は放っとくと全部食い尽くすっ」
「別に私は構わないけど……」
「こちらの席にどーぞー(店員)」
「はーい。……んー? わっ、またいる!」「先回りされてる感が……」
「おや、ウー君らの友人ちゃんらか。隣の席とはまた偶然だな。んー、これも何かの縁だ(ごそごそ)コレ、受け取って貰えないかな?」
「えっ? お姉さん、コレって……!」「あの超人気植物園【グリーンボックス】のチケット……!?」
「私はそこの職員でね。是非、都合の良い日 にウー君らといらして」
「うおおお!!」「プ・ラ・ン! プ・ラ・ン!」
流れで今後の予定を決められてしまった。
後であの子らにチケットを渡さなきゃだ。
……それから。




