56 ミックスヂューチュ
農作業後にファミレスに来た僕達。
「ねーセレス、セレスも高いお店行きたかったっしょ?」
「運動後なんだから軽いのでいい」
「軟弱者め。アンドナは不満よね? 手伝わされてファミレスとか。それこそフグ刺しくらい奢って貰わなきゃ、だよね?」
「わ、私も今はあまり重い食べ物は……ほら、シーザーサラダとか美味しそうだよ」
「次はセレスに媚び媚びかっ」
「ほらウー君、さっさと注文する(ピンポーン)」
ママンに促されたので腹いせに一番高い肉メシとデザートを頼んでやった。
女性陣はパスタだのドリアだの女子力の高いメニューを選んで可愛さをアピール。
注文を終えて、
「話は戻るけど、家族に擦り寄る必要なんて一ミリも無いってのにっ。二人の仲を深めるのに重要なのは二人の気持ちだけだよっ」
「確かにそれは重要だけど、物事はそう単純じゃないよウー君。他者との繋がり、ましてや身内の繋がりは無視出来ない問題さ」
「へっ、僕は縛られない生き方をするのさ。その内ヒロインと共に遠い場所に行って完全に消息断つから覚悟しとけよっ」
「ママの目から逃げられると思って?」
「ママンが探しそうな場所なんて大体予想が付くぜ」
「お、落ち着いて二人ともっ。ほらウカノ君、ドリンクバーにでも行って飲み物取ってこよ?」
「んー? しゃあねぇなぁ。ほら、行くぞセレス」
「えっ、私じゃなくて!?」
「なんで私が」
渋々ながらも立ち上がるセレス。
『プランさんと二人きりにする気!?』とアンドナが目で訴えるもスルー。
仲良くなりたいらしいからええやろ。
……セレスとドリンクバーに辿り着いて。
「よーし、みんなの分も持っててあげよう。こういう時の定番はミックスジューチュだよね」
「ガキ。大抵面白くない結果になるやつ」
「コーラに見せかけてコーヒーと炭酸でシュワシュワさせるのはどうだろう?」
「既に商品としてある。紅茶のも」
「なら敢えてアンドナだけ面白ジューチュでママンには普通のコーヒー渡して『お前のリアクションはどうでもいい』作戦はどうだろう?」
「それが一番効くかも」
「はぁ、全く。何が楽しくて母親をギャフンと言わさにゃならんのだ」
「母さん、やっぱりアンタの前じゃイキイキしてる」
「君が普段からママンを満足させてればあそこまで息子LOVEを拗らせ無かったのに。はよ息子離れさせておくれ」
「それは一生無い」
「なら今日は一人の女を見せてやったけど、次は二人の別の女をママンに紹介してやろう。流石に失望されるだろうね。あ、でも『頭を悩ませる手の掛かる子ほど可愛い』とか言われそう」
「……、二人ってあの姉妹?」
「そうだよ」
「ゴミが」
「君の感性はまともで安心するね」
「アンタはあのアンドナとか名乗ってる女、普通に『気付いて』るでしょ」
「何の事?」
「はぁ」
呆れ顔のまま自分の分の飲み物だけを手にドリンクバーを後にするセレス。
なんだあいつは、まぁいいや。
三人分の飲み物を持ってテーブルに戻ると……
「はーい、みんなのママこと異世界の創世神プランさんですよー。そしてこちらは息子が連れて来たサキュバスのアンドナちゃんでーす」
「えっ? えっ?」
「おっと、アンドナちゃん、メニューで体操着の校章隠して。はいイェーイ」
ママンがスマホで生放送を開始していた。
「おうコラ」
素早くママンの持つスマホのカメラ部分を手で覆う僕。
「ああん、なにするの?」とぶりっ子な声を漏らすママン。
「何やってんだオメーは。プライベート映すなっつったろ」
「いやーこういう貴重な場面に出くわすと動画投稿者としての疼きが止められなくってね。ほら、コメントも好評でしょ?」
僕の指の下部分には視聴者のコメントがズラリと現在進行系で積み重なっていって。
僕が戻ってくる前は、
『ママのゲリラ配信キター!』『まだ産める』『俺を産め!』
などというコメントで溢れていたが、
現在は、
『サキュバス!? なんかあの女優に似てね!?』『画面暗ーい』『王子の生声キター! 姫はー!?』
なんてお祭り状態。
生放送『終了』ボタンを押した後、
「おうババア、僕が家出た理由忘れたのか?」
「思春期特有の複雑な心理、だよね?」
「僕の心の機微のせいにするな。アンドナの顔まで出しちゃって。どうすんだ?」
「わ、私の事は平気だから(アンドナ)」
「そりゃ『カヌレ』ちゃんって事にしとくから大丈夫だよ。元々知り合いだしね。本人には後で説明するから」
「どこまで身勝手で迷惑な奴なんだ」
「お前が言うな(セレス)」
「ったく……」




