55 サキュバスとふぐ
……車は、とある田んぼの側で停車した。
「(ガチャ)ふぅ。さっ、降りた降りた。ちゃっちゃと終わらせるよー」
てなわけで、冒頭に戻る。
「もー、こんな太陽がサンサン照り付けるクッソ暑い中カマも使わず手で田んぼ周りの草むしりー? 草刈機使ったとこで米の味は変わらんでしょー。なんなら他の人呼んで手伝って貰おうよー」
「往生際が悪いよウー君。植物は『見てる』んだよ。人も植物も愛情が大事って知ってる癖に」
「刈られる草の気持ちは無視かい?」
「必要な犠牲さ。しかし、奪った命は無駄にはしないよ。そもそも、生命というものは巡り巡っているんだ。無駄な死など無いよ」
「まーた宗教くせぇ事を。どうにかしてよセレス」
「普段家じゃ私が相手してるんだからもっと苦しめ」
「クソみてえな妹だなっ。ねーアンドナ、君も農業は効率の良さが大事と思うだろ?」
「えっ? えっと……やっぱり手作業の方が丹精こもってて美味しくなるんじゃないかな……?」
「裏切り者めっ、分かりやすく媚びやがってっ」
「ふふん、アンドナちゃんは良い子だね。お母さんポイント5を進呈するよ」
「受け取り拒否しとけよアンドナ。ソレは溜まってもロクな特典が無い負債だぞ」
「酷いよウー君っ。あ、そういえば、君に溜まった五千ポイント特典『プランさんと一ヶ月間旅行』はいつ使う?」
「やっぱり溜まってもテメェが得するだけじゃねぇか!」
騒ぎつつも手は止めず……何とか午前中に農作業は完了。
まるで『無駄毛を抜いて貰ってスッキリした』とでも言いたげに、緑色に輝く稲が風に揺られてサワサワとお礼のダンスを踊っている。
「じゃ、来週はこの子達の稲刈りだからまたよろしくね」
「なにィ!? 稲刈りは普通秋だろっ」
「実はこの子達、夏に黄金色に輝く『新種』でね。真夏が食べ頃なのさ」
「それに何のメリットが……食欲の秋に食べ頃なのが良いんだろうに」
「夏仕様で炊かなくても冷たく美味しく食べられるお米だよ。冷水に入れて数分でモチモチに膨らむんだ」
「それはもう米じゃねぇな……需要あんの?」
「既に予約で一杯さ。名前も【ウカノノマナザシ】ってのにしてね」
「勝手に人の名前を忍ばせるな。僕の視線がなんだって?」
「君のママに対するクールな視線に因んでるんだよ」
「これ以上箱庭家の恥を広めるな」
「お前が言うな(セレス)」
「さっ、お昼時だしご飯食べに行こー」
米の銘柄を有耶無耶にされたりしながらも、僕らは車に乗り込み、そのまま市内まで移動。
今までママンには色んな高級店に連れてって貰ったから、今日はどの店だろう? 運動後だからガッツリな高級焼肉が良いなぁ、なんて考えながら辿り着いたのは……
「さっ、好きなの頼んでいいよー」
「(プクー)」
「おや、フグの真似かな? 可愛いよ」
「高級店ぢゃないっ。ただのファミレスぢゃんかっ」
「いいぢゃないかたまには。高いお店ってのは店員も客も静かな場所ばかりだからね。雑談をするならこういうとこが一番なんだよ」
「本来高校生が放課後にダベる場所だぜ? 僕らは現役だけど」
「私もワンチャンイけるっしょ」
「キッツ」
「一言でサクッと罵倒されるのが一番傷付くなぁ」




