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◆二部◆54 サキュバスと草むしり


ザクッ ザクッ


「もー、これくらい機械で済ませられるでしょー。小学校の体験学習じゃないんだからぁ」

「この子は文句ばっかり。農作業は手でするともっと美味しくなるって母さんいつも言ってるでしょー?」

「オカルトだってー。仕事場以外ではンな事言わんでくれよ? 母親が変な宗教ハマってると思われて僕らにも迷惑掛かるんだから」

「もう手遅れだよー」

「他人の振りするわ」


……以下の遣り取りで、僕らが実家に行った後『やらされてる』事の想像はつくと思うけれど、それでも一応……



アパートから徒歩五分で辿り着いた僕の実家。

普通の二階建て一軒家。

カヌレやわらびちゃんちを見た後だとそのショボさに悲しくなる。

ウチもそれなりなお金持ちなんだけどなぁ。

インターホンを押す前に。


「いいかいアンドナ。この家の中じゃあ隙を見せたら喰われると思いな」

「さっき取って喰われる事は無いって言ってなかった……?」

「ウチの家族は気分屋だから」

「ウカノ君が三人いるって凄い疲れそうだね……」


ピンポーン


『はーい、今開けるよー』


反応が早い。ずっと鳴るのを待ってたのか? クリスマスの日の子供みたいに。


「(ガチャ)おかえりー」


僕らを迎えたのは、アニメのような翡翠色髪で、成人前くらいな『見た目年齢』の、見てくれ『は』良い女性。

美人なのは当然だ。僕が息子なのだから。

そんな彼女の格好は、いつものシンプルな服装+エプロンという組み合わせでなく、先日見たシフォンさんのようなつなぎの作業着。


「あれ? 君は……」


ママンはチラリと僕の側に居る女の子に目を向ける。


「ええっと、その……」

「セレスから聞かされてない? 僕のコレよ」

「ママに中指立てるとは良い度胸だね?」

「間違えた、コレよ(小指立て)」

「ふぅん」


ママンは意味深に目を細めて、


「随分と『面白い子』を連れてきたじゃないのぉ? ウー君」

「話が早くて助かる。サキュバスだよサキュバス 」

「『見たら分かる』よ」

「そりゃツノ見たらな」

「じゃあ改めて。ウー君ママことプラン・ドリアード・ユグドラシルです。宜しくね」

「よ、宜しくお願いします。私の事は、あ、アンドナと『呼んで下さい』(ペコリ)」

「君が『それでいいなら』従うよ(笑)」

「ママンなんで旧姓で自己紹介したの」

「格好良いから以外にある?」

「自分で言うのはカッコ悪いぜ」


挨拶も済んだ所で、家の中へ……と思いきや。


「早速だけどすぐに出掛けるよ。車に乗って」

「なーに? 遊びに行くの?」

「それは『仕事』が終わった後ね。君達にも働いて貰うよー」

「はぁ? 客だが?」

「その前に箱庭の人間じゃろうがい。そこのアンドナちゃんもさ、我が家と仲良くなりたいなら媚び売っといて損は無いよ?」

「が、頑張ります……!」

「了承するなよー、ったく。で、どこで何するって?」

「まぁ、今は兎に角車に乗りなさんな」


車を指差すママン。

その方向には【軽トラ】。

色々察したわ。


「んー? てかもうセレスが助手席に乗ってるじゃん。僕らの席は?」

「そりゃあ後ろよ」

「荷台への乗車は違法でしょうが。あ、荷物がある場合は落ちないように支える要員ならいいんだっけか」

「そそ。てか田舎の農家ならその程度暗黙の了解よ」

「いやそもそも荷物何もねーけどな。田舎特有の法律の舐めっぷり」



僕らが荷台に乗り込んだ所で、軽トラがすぐに出発。


ブロロロロ……


お世辞にも乗り心地が良いとは言えない田舎のポルシェ。

少しの段差でガタガタ揺れ、冷たいゴツゴツな鉄の床がケツを痛くさせる。

揺れる度に キャッ と小さく漏らして僕にしがみ付くアンドナが癒し。


道中、すれ違った街の住人らに手を振ったり小学生に羨ましがられたりしつつ……気付けば、すっかりと田舎の風景。

田んぼ、畑、山。

政令指定都市も、少し車を走らせればこんなもんだ。

夏の香りと爽やかな風が心地良い。


……車は、とある田んぼの側で停車した。


「(ガチャ)ふぅ。さっ、降りた降りた。ちゃっちゃと終わらせるよー」


てなわけで、冒頭に戻る。

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