53 メガハート
「さ、続きしよっか?」
「……もう、無理」
「水差されたくらいで萎えやがって。じゃ、五分だけピロートークだ」
「もうそんなピンクな空気でも……なんで五分?」
「朝ご飯があるからね。よいっしょ」
「んっ……」
またがる彼女を抱き寄せ、さらりと髪を撫でる。
「ピロートーク中って女の子の髪の毛撫でてるイメージだけど、合ってるかな?」
「……良いと思うよ」
くすぐったそうにアンドナは目を細める。
「チューといえば今更だけど、サキュバスとのキスで主従的な契約完了とか生気吸収とかあったの? 体調変わらないけど」
「最初の話題がそれ……? ……あったとしても君には効かないだろうね……一応初めに言っとくけど、さっきまでの私は演技だからね? 君の好きそうなキャラを演じただけだからね。君が凄いシたそうに誘ってきたから応えただけだからね」
「そーかそーか(なでなで)」
「んにゃーっ、絶対信じてないっ」
「どちらにしろ僕らはウィンウィンな関係だからね。君はサキュバスクエストを順調に達成してるし、僕は三大欲求を満たせる」
「……そういう感じで言われると、なんか事務的な関係みたいでモヤる」
「男女関係なんてそんなもんさ。僕らは既にチューという『実績』を済ませた。ならば『次』に進もうと意識が向かうのは必然。十代の若さと勢いがある僕らは、一度性欲のタガが外れると後は脆いよ」
「そんな分析通りに行くと思わないでよっ。もう気軽に『私から』チューなんてしないからっ」
「二コマで即落ちしそうなセリフだなぁ」
予定通り五分ほどそんなピロートークを交わし、「あ、汗かいたから」とアンドナの着替えを待ったその後は、先延ばしにしていた朝食タイム。
「食べたらすぐに実家に行くの?」
「んー? 十時までで良いって言ってたからのんびりしてるよー(パクパク)」
「そう。もし実家に泊まるんなら連絡してね。ご飯の用意とかあるし」
「は? オメーも来るんだよ」
「(ブッ)なんで!?」
アンドナが味噌汁吹いた。
「そりゃあママンに紹介する為に決まってんだろぉ? 僕のすけってね」
「そ、そこは普通に紹介してよっ(フキフキ)」
「サキュバス的にそういう紹介のが自然だと思うのになぁ」
「て、てか、冗談じゃなくホントに私も行かなきゃなの……?」
「なに? 朝の陽の光を浴びると死ぬ悪魔設定あるの?」
「その設定を出すには手遅れだよ……」
「別にウチのママンに取って喰われなりなんてしないよ。めちゃくちゃイジられるだろうけど」
「だからヤなんだよぉ……」
朝食を済ませ、片付けを終えてから戻ると、スマホにセレスからメッセージが。
『汚れてもいい服の準備を』
一体何をするつもりだ? と僕らは顔を見合わせた。
あと、やっぱスマホの遣り取りで済んだじゃねーか。
……そうして、家を出る時間。
アンドナに学校の体操着を貸してやり、着替えた彼女と共に玄関に。
僕は普段着でもあり動ける格好でもあるTシャツとハーフパンツ姿だ。
「サキュバスって紹介しなきゃなんだから久し振りにツノだの付けて行きなよ」
「ええ……でも外で人に見られると恥ずかしいし……」
「悪魔のアイデンティティを恥じるなよ。ほら、ツノと尻尾用意して」
「もぅ……」とブツクサ言いながら手持ちの鞄からツノを出す彼女。
「尻尾は?」
「そ、それは……ほら、それ用の穴空いてるズボンじゃ無いから出せないっていうか」
「しゃあねぇなぁ。あっ、ツノ付けさして」
「え? う、うん」
今更だが、ツノのデザインは長細いクロワッサンみたいなタイプで。
確か耳の少し上辺りに左右生えていた。
「んじゃ」
そおっと、ツノを近付けると……カチンッ まるで磁石のようにくっ付くツノ。
「おもしろー」
「遊ばないでよ……」
「んー、んむっ」
「むづ!?」
ツノを掴んだままの不意打ちのチュー。
ギョッと、アンドナは目を見開く。
軽い挨拶感覚の軽い触れ合わせ。
「んっ。家出るとしばらく出来なくなるからね。キス納めだよ」
「……(ぎゅ)」
「おや?」
「ふー、ふー。ち、遅刻したら、怒られたりする……? (目がハート)」
「こいつ、今レベルのでスイッチ入りやがったっ」
すぐにスケベしたくなるんだからこの子は。




