48 夏の焼き芋パーティー
……事前情報や動物達の嗅覚を頼りに東京まで飛んだ僕。
テレビ局上階の窓をアクション映画さながら豪快に突き破る大胆なカチコミ。
こちらの軍勢は大勢の鳥達、そしてどこからか駆け付けてくれた『動物達』。
対して、急な襲撃にギョッとする社員や撮影スタッフやテレビで見た事ある芸能人達。
誰が事件の関係者だとか裏でどう繋がってるのだとかはこの時点では知らないのでいっそコイツら全員報復に巻き込んでも良かったのだが、今はまず元凶の元へ。
道中、その軍勢の多さゆえ、結果的に移動だけで壁や撮影設備等を破壊したりとウッカリが多かったが、まぁどうせこのテレビ局は『今日で終わらせる』つもりだったのでイイかと開き直り……
誰も僕らを止められぬまま、遂に辿り着いた目的地。
馬鹿となんちゃらは高い所が好きという格言通り、黒幕は一番上のフロアに居た。
オラァ! と僕が扉を蹴破るや否や、中に居た中年のおっさんはビクンと跳ねる。
何やら『警察』だの『俺に手を出したら』だの喚いていたが、先程あった『誘拐未遂事件』を追求すると、目に見えて動揺し出して。
僕は努めて冷静に、『悪事を公表しろ』と最終通告する。
した所で許すつもりはなかったけど。
だが、おっさんは開き直るように笑って、
『俺のした事は金の為じゃねぇ! 視聴者の為だ! 今まで脅した奴らも優秀だが夢先カヌレは群を抜いてる! 才能も華もある! そんな奴が辞めようとするなんてどんな損失だと思う!? あの頃の! 家族で笑い合って見ていた! 面白かった頃のテレビを復活させるんだよ!』
魂からの叫び。
どうやらこのおっさんは、金の亡者やスケベ親父では無く『本物の製作者』だったらしい。
長い年月、この世界に浸り過ぎた故に毒に染まり後戻りも潔く成仏も出来なくなった、エンタメの亡霊。
誰も救われぬ哀しき真実。
……まぁそれはそれとして。
クイッと目配せすると、二頭の【ゴリラ】が後ろからおっさんの両腕を拘束。
慌てるおっさん。
僕は近付き、ポケットから一つの【錠剤】を取り出す。
ヤメロー! だのと喚こうがお構い無しに口にブチ込み……仕事は終わった。
因みにおっさんが飲んだのは『自白剤』のような漢方【スナオニナール】。
僕のママンが調合した『ユニークアイテム』で、飲んだ者は『伝えたくない相手』に対しつい秘密をバラしちゃうのだ。
自然由来の成分だから副作用は無いぞ☆
…… その後、僕らは堂々と正面入り口から退場。
ライオン、キリン、クジャク……
一般客らは着ぐるみだのサーカス集団だのと思って見ていただろう。
近くの大きめな公園に移動し、祝勝会と称して皆で『焼き芋パーティー』を楽しんでいると……何台もの大型トラックが現れた。
一台のトラックから降り、こちらに来たのは【シフォンさん】で。
『宴会はもうお開きです。その方々(動物)を元の場所に戻しますよ』
皆は素直にトラックに乗り込み、パオーンヒヒーンゴアアアと別れを惜しみつつ、僕らは帰るべき所に帰るのだった。
「ってゆーハートフル友情ストーリーだよ。やー都会のアニマルは中身も陽キャでねぇ。楽しかったなぁ」
「相変わらず無茶苦茶な……」
抱きついたまま小さく息を漏らすアンドナ。
「馬耳東風なのは分かってるけども、君、後先考えて行動してる……?」
「後先とは?」
「君のやりたい放題な行動による周りの影響、だよ……」
「何を言うかと思えば」
やれやれと首を振る僕。
「僕が行動するより先に考えるわけないだろ。カッとなったら本能に従いその原因を叩き潰すまで初志貫徹さ。ま、冷静だったとしても同じ判断下すけど」
「蛮族過ぎるよ……今回の件でテレビ局が消えたら仕事に関わってた人達が困るんだよ……?」
「ハンッ、元々は汚い事して稼いでたおっさんが悪いんだよ、汚い金を受け取らずに済むようになったんだから感謝して欲しいねっ。優秀ならすぐ次の仕事見つかるでしょ。ま、似たような芸能の仕事も、今回の件で芋づる的にトップが捕まるだろうから再就職先が生き残れば、の話だけど」
「鬼だ……」
アンドナはブルルと恐怖に震える。
僕は泣いた赤鬼のように優しい心だというのに。
「そも、今回の件は君が気にする事?」
「それは……君が無茶ばっかして心配だから……」
「んふ、ありがと。でも、君は知らないだろうけど、僕って心も体も『強い』から」
「……強くっても、心配する人が居なくなる事は無いって、覚えといて」
「へーへー」
空返事しつつ、テレビに目をやる。
テレビでは未だに『爆発』がどうたらやっていた。
アンドナも何か思ったようで、
「爆発、なんて物騒な事は実際してないんだよね……?」
「うん。多分、爆発事故って『ことにした』んでしょ。シフォンさんの……夢先の隠蔽工作だよ。動物の件だってそう。アレだけの騒ぎだったのに誰もSNSに僕のテレビ局での活躍を上げてない。いや、上げても『即削除』なり『説得』なりしてるんだろうさ」
何も答えないアンドナ。
警察すら掌な夢先の力の凄さにビビってるんだろう。
まぁシフォンさんを見るまで、夢先っていうカヌレの苗字を目にしても、僕もピンと来なかったけど。
「全く。そんな夢先の影響力を古参業界人が知らない筈無いのに、眉唾と信じずカヌレ(わらびちゃん)を拐おうとしたのは失策だったね、あのおっさんも」
「……実際に来たのは『もっとヤバい』キミでしょ?」
「わはは、言われて悪い気はしないね。ま、僕はシフォンさんに感謝されるだろうよ。ライバルであるテレビ局を減らしてやったんだから」
「そこまでその夢先ってとこが凄いなら、他のテレビ局なんて大した影響だと思ってなさそうだけど……」
「だまらっしゃい」
僕は抱擁を解き、
「さ、事後報告も終わったからメシメシ」
「むぅ」
話は終わって無いと言いたげなのかハグを離したからなのか、納得いかぬ顔だけどスルー。
焦げっぽいオムライス、虫付きのサラダ(逃してあげた)、うっすいコンソメスープと、いつもよりドジっ子感ある晩飯だったけど特に問題無く完食し……
就寝時間に。




