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46 たかとび

「さて。二人は先に屋敷に戻ってな。僕には『やる事が残ってる』から」

「「えっ??」」


姉妹は同時に反応する。


「な、何をするつもりです……?」

「危険な事、じゃないよね? この先は警察……いや、『夢先家』に任せてくれないか?」

「警察と同列以上に語られる夢先家の方がよほど剣呑だな? ま、兎に角ここは僕に任せ」


↑↓


「て」


と言いながら ヒュ 彼は手に持っていた【木の枝】を突然振るった。


「ッ!」


その矛先には、先程まで気絶していた男二人。

手には、それぞれキラリと光るナイフ。

不意打ちで私達を襲うつもりだったのか?

気付かれた事に一瞬動揺していた男達だったが、すぐにニヤリと開き直り、


「へ、へへ。お嬢ちゃん達、大人を舐め過ぎたようだな?」

「いい子だから、その綺麗な肌傷付けられたくなきゃこの場から消えなっ」


なんという小物ムーブ。

そんな脅しにも、彼は眉一つ動かさない。


シン……


と、不気味なほどの静寂な路上。

夢先の人間が『人払い』しているとはいえ、この世に居る人間がこの場の私達だけと思ってしまうほど。

だが、このビリビリとする空気の震え。

周囲の虫や動物が、民家の植物が、彼に共鳴するように怒りを漏らしている。


『あの時と同じ』。

彼の『力』。


世界のいきとしいけるものを従える力。

まるで御伽話や神話の豊穣神。

いや、力、などという特別な意識は無いだろう。

それが彼の『普通』で、彼という『存在』なのだから。


本来なら、これだけ『格の違い』を肌で感じれば脱兎の如く逃げるのが生き物としての本能。

彼を敵に回す事は、即ち『万物』を相手する事と同義。

だというのに、それすら気付けぬニブい感性の男二人は、


「で、いつまで俺らに木の枝突き付けてんだ?」

「チャンバラがしたいなら別のガキでも誘って」


カラン


……無機質な金属音。

ダッシュボードに【何か】が落ちた音。

音の出所は、男達が持つナイフ。

それが、今は『半分に折れて』いた。

いや……正確には『斬られて』いた。

先程の一振り。

彼の振るった【木の枝】によって、だ。

木の枝自体は普通のソレ。

しかし彼が手にした場合、それは名刀と化し、『このような結果』となる。


「な、何が起きた!?」

「て、テメェら……!」


ゴンッ! ゴリッ! ガゴッ!


「「ヒィ!?」」


情けない声を出す男達。

突然上下左右に激しく揺れるハイエース。

彼の友人であるパンダが車を持ち上げ、タイヤを一つ一つ引き抜いていたのだ。

逃げる事すら許されない。

子供相手にはイキれても、興奮した言葉の通じぬ(一部を除いて)獣相手には為す術なし。


「キキッ!」

「あっ! さ、猿か!?」

「いつの間に! スマホが!」


と、ここで新メンバー。

小さな猿……恐らくはリスザルが器用に男らからスマホを奪い、彼に渡す。


「ありがと。お、ロック掛けてないとか危機管理がなってねぇな。(スイスイ)……ふーん。【藤井テレビの社長】【堀井プロ芸能事務所社長】、ねぇ。依頼主かな?」


「お、おい、やばくねぇか……?」

「ちっ……仕方ねぇ。こんな住宅街じゃ『騒ぎになる』が……!」


カチャリ

男の一人が背中から何かを取り出そうとする。

チラリと確認出来るのは、黒く反射する、重そうな、金属の円筒。

彼は。

彼も、それに気付いているだろうに。

ニヤリと微笑み、木の枝をギュッと握り直して……


「「ヒュル!!」」


が、彼の楽しみはお預けに。

唐突に、男達二人が白目を剥き、笛のような息を漏らして再び気絶したのだ。


「ウカノ君、そこまでに」

「あん? シフォンさん、急に現れて『そこまで』ってなに? また気絶したフリかもしれないよ?」


唇を尖らせる彼。

母は『外していた眼鏡』を掛け直すと、


「暫くは大丈夫です。急に暴れたとしても、既に取り押さえる準備は出来ています。この先は我々にお任せ下さい」

「ちぇー」


納得したように返事する彼。

こんな事で『腹の虫が収まる人』でないと、知っていた筈なのに。


ピィ!

不意に、彼は短く甲高い指笛を鳴らす。


「キー!」


数秒程で【巨大なワシ】が下降して来て、


「とお!」


その場を跳躍した彼の手を、ワシがキャッチ。

彼は『飛んだ』。


「……あまり、騒ぎを起こさないで下さい」

「へっ! このまま黒幕どもを野放しに出来るかってんだ!」


フヨフヨと上昇していく彼は、去り際にチラリ、私達に目をやって、


「覚えときな! 僕は『いつだって』君ら(ヒロイン)の前じゃカッコつけるよ!」


そう叫び、一気に飛び去った。


……パンダは彼に手を振り、イノシシはクルクル回ってお見送り。

その後、どちらも『用は済んだ』とばかりに何処かへ去って行く。


…………相変わらず、無茶苦茶な彼だ。

『いつだって私達の前じゃカッコつける』?

勿論、『覚えてる』よ。


喜び 嫉妬 愛憎。


会う度に凡ゆる感情がグチャグチャに掻き乱されるのに。

『好き』という気持ちは少しも揺れる事は無い。

あんなキザで来る口に近い言葉も『格好良い』と思ってしまうほどに、今の私は惚けている。


どうしようか。

次にあった時、彼の前で『感情を抑えられる気がしない』。


「むしってもむしっても生える雑草のようにしつこい子ですね。箱庭の者と言われれば納得しますが」


そう、母は呆れた顔で呟く。

その『しつこい』という感情は、私達姉妹に対しても言われてるような気がした。

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