44 お嬢様とセオリー
「(パチリ)…………ッ!? だ、ダメですっ……! (ドンッ)」
「ぐはぁ!」
突き飛ばされた。
パワー自慢(なんならマッサージ効果で威力アップ)な姉妹の突きは僕の軽い体をグルグルと二回後転させた。
それでも落ちなかったのはデカいベッドのお陰。
「ーーハッ! す、すいません……! で、でも……やっぱり私は相応しくありません……!」
「『私にテメェは相応しくねぇ』か。このアマ、唆る煽りをしやがる……!」
「曲解です! う、ウカノさんには『相応しい相手』がいるはずです……!」
ダダッと逃げるように部屋を後にするわらびちゃん。
ベッドに一人残されるかわいそうな僕。
「やれやれ」
ベッドから降りた僕は、やれやれ系主人公のようにポリポリ頭を掻きつつ彼女を追い掛ける(徒歩で)。
全く、退屈させない子だよホント。
や、正確には『姉妹』、か。
揃って僕を愉しませてくれる。
姉の方が言っていたな。
『(要約すると)妹はやばい』、と。
その数時間あまりで、彼女はいくつの新しい顔を見せてくれた?
本音と理性の顔。
イチャつきたい気持ちと我慢する気持ち。
天然にしろ、計算にしろ、確かに『やばい』子だ。
その奇行全ても『僕の為』だってんだから自然とニヤけてしまう。
「……ん?」
何となく屋敷の出入り口を目指していると、ロビーにて、(まだ居た)彼女らの母親ことシフォンさんとすれ違う。
「わらびが涙目赤面して走って行きましたよ。何をしたんです?」
「するのはコレからだったよ」
「まだ夕餉前なのですが」
「お腹空いたら戻って来るかな?」
「犬じゃないのですから」
「兎に角、ロマンチックに追い掛けてプレイボーイのように捕まえてやるよ。屋敷から出て行ったのかな?」
「方向的にはそうなのでしょうけど」
リーリー
「ん?」
ふと、肩の辺りから『虫の音』。
人差し指を肩に置くと、ちょこん、と何かが乗った感覚。
【鈴虫】だ。
……ふむ。
「こういうの、『腹の虫が鳴る』って言うんだっけ?」
「『虫の知らせ』では?」
どうやら、この子の知らせは本当だったようで。
「た、大変です! わらび様が車で拐われて……!」




