41 欲望に忠実な方の妹
ガチャリ
「ふぅ。戻りましたー」
「んー。……ん? …………うん」
部屋に入って来た彼女は、まず僕を見てほくそ笑む。
それからベッドに腰を掛け、僕の手の上に自らの手の平を重ねて来て、
「なんだか眠くなって来ましたね。お昼寝……というには少し遅いので、一緒に仮眠、しません?」
「いいよー」
僕らは向かい合ったまま寝転がる。
さりげなく手も恋人っぽく絡ませて。
「君は寝ないのー?」
「眺めていたいので。先に眠っても構いませんよ」
「んー」
ZZZ……
パチリ
「……何分ぐらい寝てたー?」
「一五分くらいですかねぇ(フゥフゥ)」
「顔近いなー」
鼻息で前髪が揺れる、唇との距離が一センチくらいしかない。
「んー……やっぱり君、目が宝石みたいに綺麗だね」
「そうですか? んふ、ありがとうございます。因みにこれ、ご存知【魔眼】なんです」
「まがんて。確かにそう思ってたけどさ。なに? オスを魅了する的な?」
「そーなんですよ。『目を合わせたオスは身動き出来なくなる』んです。夢先家の女には代々、そういった妖しい光を放つ瞳が備わってですねぇ。だから普段はコンタクトとか眼鏡を掛けてるんです」
「今僕眼鏡掛けてない君をガッツリ見てるけど?」
「ウカノさんは『夢先家以上の魅了の力』を持っているので無効化されてるんです」
「やはり僕は『持って生まれた選ばれし者』だったか……。てか、君らの家系がモテるのってそれ魔眼云々じゃなく、普通におっぱいデカくてツラが良いからやん?」
「元も子も夢も無い事を……えいっ」
コツンと、悪戯っぽくオデコをくっ付けてくる彼女。
「ーーそれはそれとして、君、『誰?』」
今更ながら、僕は目の前の女の子に問い掛ける。
見た目はわらびちゃんだ。
さっきまでと同じ制服姿、同じ眼鏡。
しかし、纏っていた空気が違う。
目元? も悪戯好きな小悪魔っぽいというか。
「誰、とは?」
「まさか、新たな三人目の姉妹……? これ以上同じ顔のヒロイン増やすつもりか……?」
「ふふ(ニコッ)」
「いや、待って。あー、君とは会った事はあるよね」
「えっーー『憶えて』るんですか?」
「ほら。『お祭り』で、わらびちゃんが帰る時に」
「…………ああ、なる程。あの時の」
「だよね?」
「流石ですね」
少し納得いってない空気を漏らしつつ、彼女はペコリと軽く頭を下げ、
「改めまして。『普段の』わらびです」
「普段の?」
「はい。普段はこっち、なんですよ。他にも『何人か居て』、場面場面で使い分けてるんですけど」
「んー」
僕は顎に手を添え、
「多重人格みたいなもん?」
「それとは少し違いますかね。あの私と今の私達は感覚や記憶を現在進行形で共有出来ていますし。人って、人に合わせてキャラを変えたりするじゃないですか? アレの一段上、みたいに捉えて貰えたらと。『仮面』、ですね」
「ふぅん、まるで『女優』だね」
ムクリと僕は体を起こし、
「それで君は、さっきのわらびちゃんと『どんな違い』を見せてくれるのかな?」
「ふふ。私の方は、『欲望に忠実』、ですよ」
ポンポン
彼女も体を起こし、自らの太ももを叩く。
誘われるがままに、林檎が地面に落ちる摂理のように、僕はそこに後頭部を落とした。
「あー、漫喫以来だねー膝枕。相変わらず(下乳で)顔が見えねーや」
「ですねー」
「君の欲望ってのは、僕への御奉仕かな?」
「かもしれませんね。『気持ち良くしてあげたい』という思いが溢れてます」
「期待してるぜ」
「では、ちょっと横に向いてくれません?」
「おー、まさか『アレ?』」
コロンと顔をわらびちゃんのお腹方面に向け、ワクワクしながら待っていると、
「行きますよー」
「(ズブリ)はぅ!」
ゴリュッと、耳に棒状の異物が挿入された。
カリッ コリッ ゾリッ
「んー……綺麗なお耳ですねー。やりがいがないと言うかー」
「溜まらない体質なのかもねー……ぅぅ……耳掻きは気持ちいいから好きだけど、この『命握られてる感覚』は慣れないな……」
「ふふ。ようやく優位に立てた気がします」
顔は見えないが、彼女はとても楽しそうだ。
なんかヤられ放題で納得いかないっ……けど、反撃しようにも動いた瞬間 ゴリッ! となりそうで怖い。
「ふーっ」
「オフッ」
「んふふ……楽しいですぅ……(チュ)」
くぅ……耳にチューまでやられてゾワゾワさせられるとはっ。
最早これは前戯じゃないかっ。
「ふ、ふんっ、スケベな状態のわらびちゃんという肩書に偽りはないようだなっ」
「そこまでは言ってないのですが、まぁその認識でも良いでしょう」
ふと、疑問。
「そいえば、何でこのタイミングで仮面を被ったの?」
唐突すぎるキャラチェンジ。
唐突すぎるカミングアウト。
何か心境の変化でもあったのかしら?
わらびちゃんは質問に対し、『何を分かりきってる事を』と言いたげに唇を尖らせたように呟き、
「私もウカノさんとイチャイチャしたかったんですよ」
「なるほどね」
訳すなら、イチャイチャしやすい性格に切り替えた、かな。
僕は首を回しわらびちゃんを下から見上げる。
「それに」と、彼女はどこか清々しく微笑んで。
「私達は近いうちに『消える』ので、今のうちにって感じですね」




