37 女の子の部屋のベッドにダイブ
ガチャリ
「おー、フツー」
「い、言ったじゃ無いですか……」
白を基調とした広い部屋だ。
僕やカヌレの住むアパートのリビングとキッチンを合わせたような広さ。
「でも、漫画とかゲームとかあるの見るに、君『は』ミニマリストじゃないんだね」
「さ、流石にあそこまでの断捨離は……趣味という趣味はありませんが」
「とうっ! (ピョン)」
「えっ!?」
バフンッ
最早通過儀礼と化した初手ベッドへの顔面ダイブ。
「な、なにをっ!?」
「僕はコレをしにココに来たと言っても過言では無い」
「ね、寝るのが目的ですか……!?」
「そりゃ男女どちらかが異性の部屋の行く目的なんて寝る以外無いだろ」
「べ、別の意味に聞こえます……!」
ムッツリなわらびちゃんのベッドには、姉やアンドナと同じエッチな香りが染み付いていた。
やはり、一番濃いのはマクラ。
フンフン、なんだろね、コレ。
淫靡だとか蠱惑的だとか情欲だとか、そんな語彙で片付けられない、男の原始的な本能を刺激するような匂い。
「ふごふご」
「せ、せめてコロコロを、コロコロをかけさせて下さいっ……!」
僕が寝てるのにも関わらずコロコロクリーナーを使い出す彼女。
僕をも転がして満遍なく自身の髪の毛を除去していく。
「終わったー?」
「え、ええ、まぁ」
「なら遠慮なくゴロゴロ出来るねー」
キングサイズのベッドをゴロゴロして新たな髪の毛を撒き散らす僕。
「僕の髪の毛『使って』いいからねー(ゴロゴロ)」
「な、何に使うというんですか……!?」
「家も出かけりゃベッドもデカい。メイドさんも含めりゃ大家族だねー(ゴロゴロ)」
「ち、因みに、ここは『別邸』なんです。本家は別にあって……私達姉妹の進学を機に、両親が建ててくれまして……」
「別邸でこの広さかー。てかまた『微妙な場所』に建てたねー。お互いの学校が近いわけでもないしー、カヌレも家出ちゃってるしー(ゴロゴロ)」
「そ、それは……色々理由があって……」
「(ピタッ)てか一人なのにこんな広いベッドの意味ある?」
「い、今更ですね……どうなんでしょう……それを当たり前のように使ってましたので……」
「やっぱり二人で使う前提だよねっ。ほら、隣来た来たっ(ポンポンッ)」
「ええ!? ……、……な、ナニもしません……?」
「どこまでの範囲を『ナニ』と言ってるのかは分からないけど基本はハグだよ」
「基本が強い……! ぅぅ……、……や、やっぱりダメですっ」
「少し考えたな?」
まぁ今は勘弁してやろうと僕は仰向けに寝転がり、そういえばと首だけ動かして周りをキョロキョロ。。
「んー、君の部屋は画鋲痕まみれじゃないね」
「ど、どういう意味ですか……?」
「深い意味は無いよ。因みに君、盗聴に興味はある?」
「どういう意味ですか……!?」
「深い意味はないよ(ガッカリ)」
「な、何故落ち込んで……?」
僕を盗撮するくらい好きな異常な女の子は居なかったんや。
「あーゴロゴロー(コツン)て。何か当たった……タブレット?」
寝ながらいじる用だろうか?
ベッドの上……タブレット……ふむ。
「(ソワソワ)す、すいません、私、少しトイレの方に……」
「ん? そこにコップがあるじゃろう」
「そ、そこまで限界ではありませんっ……」
「ねーわらびちゃん、コレ(タブレット)触っていい?」
「えっ? ま、まぁ良いですけれど……」
「君がどんなエッチな性癖を持ってるか知りたくてねぇー」
「へ、変なデータは入ってませんから……!」
言って、わらびちゃんはそそくさとトイレに向かった。
「(スイスイッ)ふんふん」
あるのは有名なゲームアプリくらいで、特に面白そうなのは何も……ん?
目が止まったのは、画像保存アプリ。
いくつかの風景写真や萌えキャラ画像の中に……気になるいくつかのイラスト。
「ふたごのマゾクの、だけど……『見た事ないヤツ』だな」
双子の姉妹が一人の男の子をシェアする物語。
アニメ化も控えた人気作。
前に、漫喫でわらびちゃんと語り合った作品だ。
そこの本棚をよく見れば、マゾク全巻やフィギュア等のグッズも並んでるし、わらびちゃんもこういう画像を集めるくらい好きなのだろう。
……しかし、だ。
僕は、見逃してる公式画像は無いと自負している。
作者がSNSに上げた絵という可能性? を、僕はすぐ否定する。
作品に出会ってすぐ作者を検索したが、過去作など無く、特にSNSもやってない人だからだ。
別名義でやってたんならお手上げだが……兎に角、謎多き人物。
なら、僕の知らない絵師さんが描いたファンアートか?
にしては、凄く原作絵に近い。
コレだけ上手い人なら、ネットでも有名になってる筈。
そんな人を、僕が見逃すか?
「もし見逃してたってんなら、わらびちゃんに教えて貰わなきゃね。……おや?」
これはお絵かきアプリか? 絵描いたりとかするんだなぁ。
なんとなしにアプリを立ち上げると……描きかけであろうイラストが表示されて。
「……ふたごのマゾク?」
上手い。
原作に忠実なタッチとキャラの雰囲気を捉えた生きた表情。
本誌同様四コマバージョンもあるが、独特の笑いのセンスも作者そっくり。
となれば、さっき見た(見た事の無い)イラストも、わらびちゃんが描いたヤツかもしれない。
つまり……これはーー
プルルルル!
と、不意に鳴るスマホ。
わらびちゃんの鞄の中から聞こえる。
まるで、何かを察した僕を怒ってるかのような、けたたましい電子音。
ベッドから腕を伸ばし、鞄を開けて……
「(ピッ)はい、もしもしー」
『あっ、〈先生〉今いいですか?』
「先制? ダメです」
『ダメなんですか!? もしかして、お取り込み中とか……?』
「後攻以外認めません」
『高校? ああ、まだ学校でしたか、すいません。改めて連絡しますー』
ガチャ
切れた。
何だったんだ???




