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36 めいどりーみん

わらびちゃんと車から降り、


「っと。中にお邪魔する前に……(ピュールル)」


指笛を鳴らせると チチチッ すぐに一羽のスズメが僕の肩に止まる。


「(コショコショ)お願いね?」

「チチッ!」


勢い良く飛び去るスズメ。


「い、今の遣り取りは? まるで漫画のエルフがやるような光景でしたが……」

「ふふん、ま、すぐに分かるよ」


立派な門をくぐって屋敷の敷地内へ。

眼前に広がるのは、整えられた綺麗な庭だ。


「(スッ)うーん、良い土を使ってますなぁ(イジイジ)」

「あの……?」


しゃがんで土をイジる僕に、庭師らしきメイドさんが怪訝そうな目。


「ここにカボチャ植えて良い?」

「う、ウカノさんっ、いきなり農業を始めるのは……!」

「丁度アパートの中庭が手狭に感じてたからなぁ。甘くてホクホクだよ?」

「で、でしたら他のスペースを提供しますから……!」

「来客が庭にゴロゴロしてるカボチャ見たら驚いてくれると思うんだがなぁ」

「そ、そんなインパクトは要らないと思います……!」


寄り道しつつ、僕らは屋敷の中へ。

……ふむふむ。

んー、なんていうか、前に家族で行った高級ホテルのロビーみたいな感じのエントランスホール。

他人の家だからいいけど、自分の家なら広すぎて落ち着かないな。


ヒソヒソ ヒソヒソ


……おや?

お嬢様と一緒に帰って来た妖しい美少年を、仕事中のメイドさんらが物珍しそうに見ていた。

いかにも『試されてる』って感じの空気っ。


「おかえりなさいませ、わらび様。何やら外が賑やかでしたが……そちらはご友人の方でしょうか?」


僕らの前までやって来てメイドさんは、一際キリッとした人だ。

若いが、メイド長とかそういう上のポジの人だろう。

僕を値踏みするような目付き(被害妄想)。

わしゃお嬢様に付き纏う害虫か何かか? (反論出来ず)


「え、ええっと、この方は……」


わらびちゃんがメイド長に『僕について』言い淀んだ、その時だ。


ダダッ ダダッ ダダッ


むっ、この荒々しく風のように迫って来る駆け足……二つの意味で早いな。

そして『完璧なタイミング』だ。


「な、何事でっーーキャッ!」


エントランスに飛び込んで来た『白い毛玉』の勢いに、メイド長(仮)が尻餅をつく。

あちゃー。


「こらっ、驚かせちゃダメでしょっ? めっ」


しゃがんで目線を合わせオデコをつつくと、「クゥン」と耳を垂らす【白いオオカミ(ホワイトファング)】。


「う、ウカノさんっ、この子は……?」

「さっき『スズメに頼んでた件』だよ。この子を呼んで【ブツ】を運んで来て貰ったんだ。はい、ソレちょうだい」


咥えていた編みカゴの取っ手は唾液でベタベタだったけどしゃあない。


「ごめんねメイドさん」

「え? はぁ」


僕は彼女の手を引いて立たせて、


「それでコレ、お詫びとお近付きのしるしに」

「コレは……野菜や果物、ですか?」

「そ。みんなで食べて」

「……ご丁寧に、ありがとうございます」


べチャリ 唾液まみれのカゴでも気にせず受け取るメイド長。


「わらび様。ユニークなご友人ですね」

「あ、はは……」

「今後ともこのウカノ君をよろしくねっ(目元で横ピース)」


すると、メイド長は目を見開き、


「……お待ち下さい。『ウカノ』様、とおっしゃいましたか?」


ジッと、メイド長は僕の顔を注視して、


「失礼ですが、姓は箱庭、でしょうか?」

「そだよー」


オオカミを撫でながら答えると ザワッ エントランスの空気が揺れる。


「おー? なになにこの空気。僕ってば結構有名人だったり? えー? おいー? (グリグリ)」


肘でわらびちゃんをウリウリすると「ど、どうなんでしょう……」と彼女は苦笑。


「なるほど……奥様はこれを」「ゆえに私達に悟られぬよう……」


周りのメイドさんらは意味深に呟いている。

最近こんなんばっかだな?

メイド長は僕に頭を下げ、


「失礼しました。ウカノ様のお話は『プラン様』から伺っておりまして」

「えー? ママン? あー、はいはい、把握」


顔の広いママンの事だ、大抵の金持ちとは親交があるのだろう。

そしてママンは僕が大好きなので、隙あらば息子自慢。

この屋敷に把握されてるのが僕自身の実力による知名度云々じゃなくてガッカリだ。


「お引き留めして申し訳ございません。ごゆっくり、おくつろぎ下さい」


言って、メイド長は頭を下げた後、場を去った。

他のメイドらも、何事も無かったように仕事を再開し出す。


「ふむ。ま、どちらにしろ夢先家に対する僕のファーストコンタクトは成功したんじゃないかな? 只者じゃないと思われた筈だよっ、悪い方向にねっ」

「な、何故そんな嬉しそうに……好い印象を持たれる方が普通良いのでは……?」

「バッカ、そんな普通な優男なら『ふんっ、ツマラナイ殿方ですね、お嬢様には相応しくありません』て思われるでしょ? 初めは悪印象の方が良いんだよ、印象良くなった時の振れ幅が段違いだからね」

「わ、我が家のメイドさんは客人に『相応しくない』なんて言いませんよ……?」


挨拶も済んだんでーーオオカミちゃんをワシャワシャしてお礼を伝えて帰って貰いーーその後は念願の彼女の部屋へ。


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