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340 職員とチピチピチャパチャパ

相も変わらず、湖の上にいる私達だったが……


「おっ、気付いたら、あんだけ苦労して(足漕ぎボートで)漕いで来たのに、もう岸に着きそうだよ。流石(私達のボートを押して運んでくれた)シャチ君、はやーい。……おや?」


なんて、慧音さんが呟いた直後だ。

彼女の視線は、右手側に向けられた。


パシャパシャ! パシャパシャ! パシャパシャ!


数十メートル先の水面が、まるでそこだけ豪雨が降ってるかのように激しく跳ねている。


……小魚の群れが、何かを訴えように暴れている?



「なにあそこ? 小魚達がチピチピチャプチャプしてる? イワシが大型魚に追い掛け回されてるみたいな感じ?」

「いや……アレは……」


顎に手を添えて何かを考えてる様子の(湖の管理者)豆さん。


「ん? よく見ると、ピチピチしてるとこの中心に『ボート』見えない? 餌やりでもしてんのかなぁ」

「いや……ここの者らは餌付けされても反応しない筈じゃが…………おい(ペチペチ)少しあちらに行って貰えんか? 思う所がある」


豆さんが(跨っている)シャチにそう指示すると、シャチは特に反抗もせず進行方向を変えた。


「すまんが、主らも付き合ってくれ」

「なぁに? 『勝手に餌やるな』って注意しに行く感じ?」

「『それで済めばいい』んじゃが……『困っている』可能性もあるじゃろうし」

「ボートの中の人が立ち往生してる的な? さっきまでのウチらと同じだねっ」

「主らはただの怠慢じゃろう……兎に角、『行けば分かる』やもしれんな」


何やら意味深な表情を浮かべる豆さんには、既に向こうの状況が分かっているのかもしれない。



スイイ スイイ


「おーい、大丈夫かい『彼女』ー」


彼女。

近付いてなお、視力の悪くない私でもまだ男女か不明な距離間だが、慧音さんがそう言うのならボートの乗り手は女性なのだろう。

言われてみれば、辛うじて、女性に見えなくもない気がして来る。


「……エ? ワッワッ!」


わずかに聞こえて来た声で、私もようやく相手を女性と認識。

それに、目を凝らすと……あの服装は、私と同じ『山百合学園』の制服……?


ブィー!!


彼女は、私達の存在を認めた瞬間、焦ったようにボート(エンジン付き)を走らせ出した。


「お、なんだ? まるで逃げるみたいじゃないか」

「慧音のような得体の知れない輩が近付いて来たら致し方なかろう」

「んだとぉ? どう見ても安全そうなキュートフェイスの僕のどこが怪しいってんだ?」

「雰囲気とかじゃろう」

「失礼な話。にしても……ボートの故障とかで立ち往生してたとかじゃないんなら無視してよくね?」

「いや……(ペチペチ)飛ばして追いついてくれ。山下よ、振り落とされるなよ」

「え……?」


ギュン!


座席に叩きつけられる背中。

カハッ と、一瞬息が止まる。


「あははっ、このスピード感サイコーっ。でももっと戦闘機の中みたいなGを浴びたーい」


慧音さんはそう言うが、その場合私はすぐに気絶するだろう。


「エッ、ワッ、ハヤイッ」


シャチの推力はモーターボートを凌ぐようで、追い付くのはすぐだった。


ドパァン!


モーターボートの手前で急停車したシャチの勢いで、水面が爆ぜ、高く舞い上がった水がキラキラと虹を作った。


「わっ! ひゃあ!」


その水はボートに乗る彼女にも降り注いだが。


「おお、すまんすまん。後でタオルを渡す。その前に……ちと、主に聞きたい事があってのぅ」

「ひっ、ひっ……き、聞きたい事、ですか?」


顔を制服の袖で拭いながら答える山百合学園生。

特徴……という特徴は無い、眼鏡を掛けた女学生だ。

普通。

わらびさんやアマンさん、ユキノ達を見ていると麻痺するが、こういった普通な感じの女生徒が大半なのだ。


だからこそ、違和感。


こんな普通っぽく……どちらかと言えば気弱そうに見える女生徒が、『逃げる』などという選択肢を取れるか?

普通は、シャチに乗った少女や、言わずもがな慧音さんのような存在が迫ってきたら、逃げる判断より前に『固まる』。

動転して、逆に開き直ったか、生存本能がそうさせたのか……

とりあえず、話を聞かないと分からないな。


パシャパシャ! パシャパシャ!


慧音さんが言っていたように、イワシのような小魚の群れが、彼女のボートの周りを跳ねている。

まるで、彼女に着いて来たように見える。

餌付けには乗らないという豆さんの言葉には信憑性があるから、そちらの線で彼女に媚びている行動でもないだろう。

まるで、必死に何かを訴えかけているかのような魚達の飛び跳ねよう。


いや、訴えと同時に感じるこれは…………『怒り』?


「聞きたい事は……そうさな。主、『釣り』でもしたか?」

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