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338 職員とエコなエンジン

人魚、だという少女。


チラリと、私は豆さんの(湖に浸かっている)下半身に視線を向ける。

私の視力がおかしくないのであれば、その下半身は普通の少女のそれだ。

今の所は、だが。



「ええと……そういう姿に成れる『異常そ』……アイテム、ですか?」

「……いや。生まれながらの、じゃな。今はこうしてヒトの脚を見せているが、泳ぐ時はちゃんと『主のイメージする人魚の姿』に……いや、今は泳ぐ時もこのままじゃった。特に泳ぐスピードも変わらんし」


生まれながらの、人魚。

『組織』の『海外支部』曰く、大昔には実際居たという記録もあるが……。


「まぁ豆ちゃんの力はそれだけじゃないんだけどねー。超能力(PK)まで持ってるんだぜ?」

「だから軽々しく申すなと申しておるっ」

「さ、PKサイキック……?」

「魔術だの妖術だの、人によっては色んな呼び方はありそうだけどね。まぁ、それは実際に見せて貰えば分かるよ」

「緊急時でも無いのにほいほいとヒトに見せんわっ」

「ケチー」


どこまで本当の話なのだろう。

私は既に、『組織』の活動でも『この島の中』でも、『鬼』という『異常存在』を確認しているので今更疑いなど無いが……。


「それで、『他の異能力者に会いたかった』っていう君の長年の望みは、この島に来た事で叶えられたわけだけど、少し働いてみてどんな気持ちだい?」

「さての。実際、我の細かな心情なぞ貴様は興味なぞなかろう?」

「そだねー。ほーん、そーなんだーとしかならないかも」

「それに、我が最初にそれを伝える相手がいるとすれば、それは『ここに連れて来た恩人』じゃ」

「えー、誰ー? その子、まだ会いに来てないんだ?」

「貴様と同じ気紛れな奴じゃからな。気長に待つとする」


「豆様、少し休憩致しましょう。私はお茶の用意をして参ります」


「うん? うむ……そうじゃな。頼んだぞメイ」

「お二人はどう致しますか? 軽食などご用意出来ますが」

「僕達? どーする山下ちゃん」

「……ご、ご迷惑でなければ」

「だってさ。ゴチになるよーメイちゃん」

「では、一度失礼します」


ウエットスーツのままペコリと頭を下げたメイさんは、そのままスイスイと陸に向けて泳いで行った。

やっぱり、メイドって言うくらいなんだから普段はメイド服とか着てるのかな……。


スイー


ふと、一隻の手漕ぎカヌーが、私達の前を通り過ぎて行った。


漕いでいたのは、着物を着た女性と、やたら短いミニスカと胸元が強調された……制服? を着た少女。

学生であろう少女には、ツノと大きな尻尾というおまけ付き。

アニメか何かのコスプレ? それとも、そういう種族?


ぶるり……


そんな事を考えていたら、自然と身体が震えた。

慧音さんを前にした恐怖とは別の、単純な『寒気』。

湖の上という事もあって、肌寒い環境ではあるものの、今だけ一瞬、『冬』を思わせるような冷たい風が通り過ぎっていった。

まるで、今すれ違った彼女達が『運んで来た』かのような……


そんな、別の人達に気を取られている私を置いて、『二人』は話を進める。


「今更じゃが慧音けいね。主は何が目的で『湖の住人』をぼうとした?」

「んー? そんなん力仕事の為に、よ。ここの子達にこのアヒルさんボートを引っ張って貰おうと思ったんだ」

「なんじゃあ? そんな事の為だけに、皆を『脅した』と?」

「『お願い』だよー? 断っても良いんだよー?」

「よく言うわい」


確かに……慧音さんのお願い(ソレ)は、一般人目線でのヤクザのソレ(脅し)と変わらない。


「ただの運搬目的ならば我が普通に呼ぶわい。主は『口を開くな』」

「扱い酷くなーい?」

「主はもう少し『周りの扱い』を考えろ。さて……『おーい、出てこーい』」


キィン


軽いマイクのハウリングを思わせるような、少しの耳鳴り。


チャプン


背後で水の跳ねる音。

反射的に私は振り返り……肌が粟立った。


スイー スイー


水面から静かに顔を出したのは…………背びれ。

あの『三角』の特徴的な背びれは、もしや?


「うわぁ! サメだぁ!」

「何をワザとらしく騒いどる。主にとっては食材にしか見えんじゃろう」

「サメ肉は匂いがねぇ」


状況的に……豆さんが今の掛け声で『湖の生物』を呼んだのだろう。

まるで、超音波でコミュニケーションをするイルカのように、掛け声に『特殊な音波』を混ぜた?

『組織』からすれば、他生物と遣り取りが出来る能力というその一点だけでも『異常存在』として『保護』対象だ。

まぁ……同じ『音』の能力でも、慧音さんの能力は未だ『未知数』な部分が多く、その能力は決して『コミュニケーション』などという生優しいソレでは無いだろうが。


「というか、サメではなくシャチじゃ」

「シャチぃ? 流石の僕も、シャチ見てヨダレたらさんわ。あ、でもこの機会にシャチグルメをこの湖の名物にしない? シャチバーガーとかシャチフカヒレ? の姿煮とか」

「どんな機会じゃ。そういうものは我の目の届かん『地域』の『獣たち』でやってくれ」


シャチ……か。

海のギャングと名高いこの魚類に、根源的恐怖を抱く一般人は多いだろう。

殆どがテレビなどで得た印象だと思うが、船に乗っている時にこの背びれを見たら、碌でもない結末を想像する筈だ。

この見えている背びれが、普通のシャチのそれであればまだいい。

『組織』で『サメを相手』に訓練した私なら、同じ要領でまだ対処出来る。

だが、ここは『異常存在』溢れる島の一画にある湖。

ただのシャチである筈が無い。


「うむ、よく来てくれた。話は伝わっているであろう? 頼むぞ」


豆さんがシャチにそう声を掛けると ゴッ とシャチがボートの後ろ側に顔をぶつけて、

「よっこいしょ」と豆さんが『シャチの背中に跨る』、と同時に、


スイイ


シャチのパワーのみで、私達の乗る足漕ぎボートが進み出した。


「おー、良い感じ良い感じ。因みに、もっと早く出来おせる?」

「出来ると思うが、そこの山下が振り落とされかねんぞ?」

「競艇のモーターボート並みの推進力出せるってこと? いいね、やっちゃって。耐えろよ山下ちゃん?」

「む、無理……」


振り落とされたら助かる気がしない。

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