35 ヒロインの家凸
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ブウウウゥゥゥゥン……
「わくわく」
「そ、そんなに楽しいものは待ってませんよ……?」
ゆらゆらと肩を左右に揺らしてペチペチぶつかって来る僕を嗜めるのは、隣に座るわらびちゃんだ。
「うふふ、わらび様がお友達を家に招待するなど、初めての事ですわ」
運転手のメイドお姉さんがクスクスと笑った。
そう、ここは車の中。
気付いたらここにワープしていた、なんて事は無くーー
ーー十数分前。
お嬢様学校【山百合学園】にて、人を待っていた僕。
時はお昼時を過ぎた辺りの時間帯。
今日は校舎の整備だかなんだかで、僕の学校は『早上がり』の日だった。
そして同じく、この女学園も示し合わせたように早上がりらしくって。
そんなタイミングを利用しない手は無いと、やって来た僕。
事前に連絡をしていたので、目的の相手もすぐに来る筈だ。
アレ? 集合場所どこにしてたっけ?
んー……適当にブラついてりゃ見つかるでしょ。
相手を探しつつ、ふらりふらり……何か美味しそうな匂いにつられて辿り着いた先は……
『はい、ウカノさん、あーん』『ずるいですわ! わたくしもシたいです!』『あらウカノさん、口元がクリームで汚れていてよ? (フキフキ)』
『わはは、苦しゅうないぞー』
ダッ ダッ ダッ
『はぁ! はぁ! う、ウカノさん、待ち合わせはカフェではなく校門前では……?』
『おー、わらびちゃん。君もパフェ、食べてく?』
なんて事があって、わらびちゃんと校門に戻ると、既に彼女の迎えの黒塗り高級車が来ていたわけだ。
わらびちゃんと会った後の目的は特に無かったから、そのまま彼女の家に向かう流れに。
「なんとっ、カヌレ様ともお知り合いで? 確かに、その体操服は同じ学校指定の物ですが」
「そ。『仲良く』させて貰ってるよー」
「これはこれは……難ありの姉妹を難なく……共々、今後ともよろしくお願いします」
「へへ、身内公認いただいたぜ、どうするよおい? (ウリウリ)」
「ぅぅ……そ、そのメイドさんは現状を楽しんでるだけです……」
ふと。
『双子座の貴方っ。今日は思わぬ再会が待ってるかも!?』
ラジオから流れる星座占いに反応する僕。
「僕双子座なんだよねー。もしやわらびちゃんチで思わぬ再会がっ?」
「わらびお嬢様やカヌレお嬢様も双子座ですよ?」
「え、そうなの? つまり僕らは(セレス含め)四つ子の兄妹だった……?」
「と、歳が一つ違うので四つ子ではありませんっ……!」
「わらびお嬢様がおかしなツッコミを……あ、お嬢様。今日は『カヌレ様のお宅にお泊まり』に行く予定は御座います?」
ん?
「え!? えっと、その……ま、まだ分かりません……」
「なんだ。姉妹仲いいじゃん」
「え? お嬢様達、悪い事になってたんです?」
「あ、あはは……」
その後も和気藹々と会話をしていると、不意に キィ と車が止まる。
「着きましたよ」
「ふむ」
窓から目的地を眺める。
予想通りの大きなお屋敷だ。
……てか。
「ここ、『僕のアパートと近くね』?」
「そうなのですか?」
バックミラー越しにメイドお姉さんは首を傾げ、
「そ、そういえばそうですね……」
わらびちゃんは視線を逸らした。
「ま、歩いて来られる距離だし、今後はアポなし凸出来るねっ」
「せ、せめて連絡はして下さい……」




