327 サキュバスと鉢合わせ
カヌレやモブガールズに向けた書き置きもせず、チェックインしたホテルを一人抜け出した僕。
同行者は子ドラちゃんだけだ。
「さて……どーすっかなぁ?」
「グア?」
「子ドラちゃん、なんか食いたいもんあるー?」
「グアッ」
「クレープかぁ。原宿デートみたいのがしたいのね?」
「グアッ!」
市場に着いた僕達は、クレープ屋を求めプラプラ。
市場の中身は日替わりなので、前回見つけたクレープ屋さんにもう一度あり付けるとも限らない。
でも、まぁ。
クレープ屋さんみたいな定番なのは……
おっ、あったあった
このように数歩歩けば見つかるので、何も問題は無い。
「くださーいな」
「らっしゃい! なんにしやすっ?」
「僕はカルマペトラのココゼット漬けをたっぷり入れたやつね。子ドラちゃんは?」
「グアー……グアグアッ」
「なにぃ? ジンルイモドキのレアステーキ入りだぁ? クレープの中身が惣菜系だなんて言語道断だっ、サンドイッチでも食ってろっ」
「グァ……」
「でもまぁ、僕は人の好みは否定しないぜ。存分に貪るがいい」
「グァ!」
「承りやした〜」
店員さんからクレープを受け取り、僕らは食べながら、のそのそと市場の中を進む。
因みに今の子ドラちゃんは、荷車を解いたプレーンな状態であり、その上、四つん這いスタイルではなく二足歩行スタイル。
そんな子ドラちゃんの肩に乗る僕は、いわゆる肩車な状態だ。
ちょっとした戸愚◯兄気分。
「(まむまむ)うーん、カルマペトラって感じの味だね。ホイップクリームとの組み合わせがいい。外の世界じゃあ味わえない味で例えが難しいね(まむまむ)子ドラちゃん、ジンルイモドキは美味いかい?」
「グァ! (スッ)」
「いや、『一口どうぞ』ってしてくれるのはいいけど、食わんでもいいよ。その肉は何となく僕の口に合わん気がするし。逆に僕のを一口どうぞ」
「(パクッ)グア!」
「わはは、そーかそーか」
お?
僕はふと、足を止める。
「子ドラちゃん、面白いもんが露店で売ってるぜ?」
「グァ? グァー」
「そう。このビンの中身は薬さ。どんな薬だと思う?」
「グァー……グァ!」
「毒薬? おいおい、ボキャブラリーがねぇなぁ。そんなつまらんモンをここで売るわけないやろ? ほら、他の候補は?」
「グァ?」
「うーん……普通なら惚れ薬だのなんだのという発想が出るけど、子ドラちゃんは漫画とかまだ読んだ事ないもんなぁ。そりゃピュアな答えしか出ないか」
「グァ!」
「ま、でもこの薬、実際も大したもんじゃないよ。飲めば、自分以外の相手の『■■のカウントが見えるようになるだけの薬』だからね」
「クァー?」
「それを見て何が楽しいのかって? それなー。創作で見る分には色んな妄想出来るけど、リアルに見えてもね、ってやつだ。ここには様々は種類の『カウントが見える薬』があるけど、その中でも【コレ】は特に需要が『無い』ね。ま、『扱いようによっては』面白い使い方が出来なくもないけど」
「グァ?」
「僕はね、昔話とか逸話によくある『不思議なアイテム一つで村や人間関係がメチャクチャになる話』が大好きなんだ。桃から生まれる人間だったり、打ち出の小槌だったりね。いや、アレはハッピーエンドか。まぁハッピーエンドな話も好きだけどもね」
「グァ……」
「ああ、ごめん、モモもイッスンも知らんよね、今度聞かせるよ。ま、兎に角、こんな(カウントが見えるようになる)薬でも使い様って事さ。いくつか『外の世界』に流れてるっぽいし、すでに『面白い人間ドラマ』が生まれてるかもね」
「グァ? グア!」
「よく分からんけど取り敢えず返事したろっ、みたいに鳴きやがって。……おっ? こっちの商品もオモロイぜっ。これは『ヒトの胎児の形をした高性能な嘘発見器』でぇ、こっちは『飲めば若返るけど寿命が五十年減る薬』でぇ、こっちは『異世界に飛ばされるリアルすごろく』でぇ、こっちは『人の形をしてるだけの花」でぇ、これは『壊すとこれ祀ってる村をループさせる御神体』でぇ、これは『何の変哲もないただの死体』でぇ」
なんて感じに、二人でデートを楽しんでいると…………
『彼女』は唐突に現れた。
「ウカノ君」
「あれ? アンドナ?」
サキュバス。
僕の家に夜な夜な現れる、姉妹にそっくりなサキュバス。
その格好は、出会ったあの日のようなエチエチ淫魔スタイル。
そんな彼女が、どうして今、この場所に?
来るなんて言ってたっけ?
いや、そもそも『僕が行く』なんて話も彼女にしてなかった。
遊び倒した後に『外』に出れば、『昨日』に戻れるわけだから、別に家(アパートの部屋)を空けるってわけでもないし。
んー、まぁいいか、細かい事は。
三人で楽しめばいい。
なんなら、ここに来た女の子達のメンツと合流してもいいわけで……
なんて。
考えていた僕だったが。
先に口を開いたのはアンドナの方で。
彼女の口から発せられたのは、そんな僕の希望とは、真逆の答えだった。
「お別れを言いに来たんだ」




