表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/369

34 おやつ


コンコン


「ん?」


屋上の金属扉を叩く音。

しかしここは僕らの空間だ。

無視無視。

すると、扉の向こうからボソリ。


『合言葉は?』


ッ!?

あっちから振って来ただと!?

普通はこっちから訊ねるもんなのにっ。

これじゃあっちのペース……ええい乗ってやるっ。


「や、やまっ」

『かけうどん(冷)』


なにぃ!?

ノータイムで返答した上になんだこの『今食べたいもの』言っただけみたいなセンスはっ。

普通は『かわ』とか『うみ』だろっ。

こ、こんな僕好みのセンス……そうそう居ないっ。

と、いうか『この声』はーー。


『ウカ、居るのは分かってるから、早く開ける』

「なんだセレスか」


扉を開く。

その先には、いつもみたいにクールな表情のアイマイミー(僕の愛妹)。

ついでに、


「ウワッ、ホントに屋上占拠してたっ」「不良だ……」


モブガールズも一緒。


「うーん、本来ならなんぴとも招きたくは無いんだけど、特別に今だけ、君らだけは許そう」

「偉そう。ほらどいた」


僕を押し除けるセレス。

全く、このおてんばには敵わないな。


ーー僕はベンチに戻り、成り行きを見守っていたカヌレの横に座り直す。


グイッ 「えっ!? ちょっ!」

カヌレを引き寄せ、僕の太ももの上に寝かせる。

所謂膝枕。


「え、なんで急にイチャつき出したん? 見せびらかし?」「ウチらに喧嘩売っとるな……?」


膝枕に特に意味はない。

カヌレも特に暴れないのでこのまま。

僕はセレスに顔を向け、


「で、なんか用?」

「別に。様子を見に来ただけ」

「そ。ま、見ての通り、僕らはここでノンビリ戯れてただけだよ。この子達(鳥)も含めてね」

「うわっ! なんかデッカイ鳥三羽もいるっ」「ツメでかっ、眼恐っ! 餌見るような顔向けられてるっ」

「そう。いかがわしい事してなくて安心した」

「いかがわしい事って?」

「乳繰り合い」

「昼休みの時間じゃあ満足に乳繰り合えねぇだろ」

「確かに」

「どんな会話してんだこの兄妹……」「セレスちゃんを清楚と思い込んで憧れる男子が泡吹きそう。いや、喜ぶか?」


あっ、セレスを見て唐突に思い出した。


「そいえばだけど、もう家からオカズタッパー持ってこないでいいかも」

「なんで」

「それがね、なんとこちらのカヌレ、僕と同じアパートに住んでましたっ」

「えっ、カヌレ……」「アンタまさか……」

「ぐ、偶然だからっ」


ざわつくモブガールズ。

一方の妹ちゃんは、


「知ってる」

「なら言えよー」

「で、それとオカズタッパー、何の関連?」

「そりゃもうご飯の心配は無いって事。カヌレと食べるからねっ」

「カヌレ……もう部屋を行き来する仲にまで……」「ホントに喰ってるのはご飯かぁ? この肉食獣めっ」

「君らは私をなんだと……」


セレスはため息を吐き、


「私は楽だから良いけど、ママがどんな反応するか。本人が直接オカズここに持ってきそう」

「あー、ありそ。なら今度カヌレも家に連れて直接ママンに言わなきゃだね」

「えっ! 私も家に!?」

「そ。カヌレの安産型ナイスバディを見せればママンも納得してくれるよ」

「どんな判断基準なんだい……?」

「もう家族への挨拶の段階……こりゃあ通学しながらお腹ポッコリなカヌレが見られそうだな?」「ふしだらな生徒会長め……」

「そんな状態にはならんっ」


顔を真っ赤にして否定する彼女。

制服姿の妊婦カヌレーーそれはそれで背徳感があって見てみたいものだ。


「子供の名前は何にしよっかーカヌレ?」

「は、話に乗らないでいいから……」

「そーだなー。夢先さんちの名前である『スイーツ縛り』と、箱庭さんちの『豊穣関連縛り』を合わせてー。ぅんっ。【シュークリーム】君なんてどうだろう?」

「長いし語感が最悪だよっ! い、いや、シュークリームに罪は無いけどっ」

「シューってのは仏語でキャベツって意味でね」

「まだシューくんの方が呼び易いんじゃないかな……」

「ふぅん。君は『男の子が欲しい』んだぁ」

「そ、そういう意味じゃなくって!」

「私達は何を見せられてるんだ……真面目な話、カヌレのファンは過激だから在学中は大人しくしといた方がいいかもね」「確かに。今でさえピリついてんのに」

「カヌレったら何か周りを怒らせるような事したの?」

「わ、『私は』何もしてないっ」

「ウカ。アンタ最近、周りになんて呼ばれてるか知ってる?」

「なんだろう。『食べ放題チェーン〇〇みな太郎』かな?」

「思ってたのより酷いの自分で出してきたっ」「自覚はあるのか……」

「似たようなもの。【食虫植物】」

「おー、カーニヴァラスプラント(英名)か、良いね。由来は察しがつくけど、一応おせーて?」

「中庭で大人しく木の妖精のように佇んでいたのは『油断させるため』。甘い香りで【餌】を誘っていた。本性が『肉食』だと誰にも悟らせず。それで食虫植物」

「だってよーカヌレー。僕がウツボカズラだったんなら僕の中に堕ちた君は今頃胃液でドロドロだぜー(ペチペチ)」

「ぁぅー……」


膝枕のカヌレのホッペをペチペチ。


「コイツら隙あらばイチャつくな……」「てかウカノくんはもう中庭には戻らないの? さっき見たら『大きな木も畑も消えてるし』。あそこの果実は重宝してたんだよねぇ」

「ああ、それはウカノ君が今後ここを緑化チラッ……あれっ? 何かさっき植えた苗、もう伸びてない?」

「そりゃそうでしょ」

「竹の子じゃないんだから……」


キーンコーンカーン


「っと。もう昼休み終わりだねー」「行ぐべ行ぐべ。今日は『早上がり』だ」


先を行くモブガールズ。

セレスは振り返り、僕らも続くよう視線で促すが、


「(先に行ってて)」

「(むぅ)」


兄妹固有スキルの視線会話。

ダメ押しにシッシと手を扇ぐと、彼女はムスッとした顔でその場を去って行った。


「君らもありがとね。また後で」

「「「グァッッッ!!!」」」


飛び去る翼の者達。


「……私達も行こうか」

「んー」


…………


「動かないの?」


それはどっちが呟いた台詞だったか。

風の音で掻き消え、定かではない。


「そーいえば」


僕はなんとなしに、


「カヌレは『なにキッカケで僕を好きになったの?』」

「……あー」


ハッキリと、今まで訊ねていなかった事。

僕にとってはそこまで優先度のある話題では無かった。

過程より結果を重視する僕にとっては。


「『一目惚れ』、かな」


「中庭で? イケメンな僕を見て?」

「『違うけど』、ま、いいだろうその辺は。今度こそ、行こうか」


ムクリ、カヌレは体を起こし、「んー……(コキリ)」と伸びをした。

太ももの上が軽くなり、僅かに寂しさを覚える。

同時に、


「なんか不意にムラッとして来たわ。チューしない?」

「えっ!? だ、ダメだよっ、そんなっ、脈絡もなくっ……」

「ご飯食べて食欲満たした後は睡眠欲と性欲という三代欲求も満たしたくなるんだよ」

「そんなついでみたいな流れはイヤッ」

「シチュを大事にするタイプだったか。意外に乙女だねぇ」

「……からかった?」

「君が目を瞑ったらその瞬間ねちっこいのブチこんでたけど? (ペロリ)」

「へ、蛇みたいな舌舐めずり怖いよっ」

「一口、一口味見だけ(ソロソロ)」

「お菓子じゃないんだからっ! こ、来ないでっ」

「トリックオアトリートー。お菓子(お前を)くれないとイタズラしちゃうぞー」

「ハロウィンにはまだ早いよっ」


逃げるカヌレ。

追う僕。

お昼が終わればオヤツの時間が来るのは当然の流れである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ