33 愛が重い
「そう。君やわらびちゃん『ら』皆で『一つの家で暮らす』野望の話」
「皆!?」
「ああ、素敵な野望だろ? 広い庭が欲しいよなぁ……僕らの子供達や色んな動物達が思いっきりハシャげるような……牧場くらいの庭が良いなぁ」
「こ、この子、当然のように私達に『二人』に子供を生ませて同じ家に住まわせようとしてるっ」
二人じゃなくて『三人』だけどもね。
「だからカヌレ、わらびちゃんと喧嘩中なら早く仲直りしてね。ギスるのはダメだよ。そしてその瞬間、この野望は実行開始だから」
「簡単に言ってくれる! ……複雑なんだよ、私達の事情は。というか、君が思うほど仲悪くも無いから。良くも無いだけで……」
「ほらー。ずるずる引き伸ばしてもね、こういうのは若い時にパパッと解決しとこっ」
「……君の野望なのに、君は介入するつもりないんだ」
「無いね」
僕はスパッと斬り捨てて、
「これは『君らの問題』だ。面倒くさいって意味じゃない。僕のお陰で解決してしまったら、今後似たような事があっても『僕がいないと解決しなくなる』。それは、君ら姉妹が仲良くする上で健全じゃあない」
「……甘やかさないんだね。それが君なりの優しさなんだろうけど。ーーまぁ、君が関わったら『より複雑になる』から元より手を借りるつもりは無いんだけど」
「なぁに、『場』を作るくらいなら考えておくよ、近いうちにね」
「なんかモヤっとするなぁ……」
「ほら、心がスッとするお茶のお代わりだよ」
新たな透明のコップに工芸茶を投入し、お湯をコポコポ。
花が開き切る前にカヌレに渡す。
「もぅ、誤魔化して……ん? これは……綺麗だね。さっきの太陽のような色の花とは違い、アメジストを思わせる紫の花……妖艶な夜の空のようだ。(コクッ)んっ……香りも濃厚で、大人の女性子の芳香、って感じ」
「アレ? こんな花のやつ作ったかな?」
「ちょっと、急に不安にさせないでよ……」
と、まぁ精一杯これでもかと持て成した所で、
「ママンてば、『異世界では創造主たる女神をしてた』だのなんだのと痛い前世を自称しててね」
「え? 急になんの話?」
「紹介だよ。頭のおかしな母親の話。いずれ会うだろうしさ。でね、彼女は世界に『愛』を振りまいてたって言うんだ。創造した世界を愛してた。善にも悪にも。振りまいても余るくらい、自分の愛蔵は無限大なんだと」
「ああ……君の母親なら『言いそう』だね」
「で、ママン曰く、その有り余る『愛』は僕ら兄妹に遺伝されたらしくって」
「……うん」
「正確には僕に『多めに』、らしくって。ーー故に、僕は『愛多き男』になったってわけ」
「……君、そこまで『人好き』じゃ無いでしょ」
「せやね。植物や動物は大好きよ。ただ、どうやら僕は『特定の人間』には尽くすタイプだったらしい」
「つ、尽くす……? た、確かに、色々と君は……」
「もしコレがママンの言う『愛を振りまく』って意味ならそうなんだろう。けど、僕はまだ満足出来てない。尽くし足りない。本気で一人に注いだら『相手を壊す』ーーそんな結末が見えてしまう」
「……それで、かい?」
肯き、
「僕の愛は、一人には重過ぎる」
「……なるほど」
ん?
「今の、信じたの? わけわからんおばさんの妄言だよ?」
「信じるよ。『君の母親が言うなら』。今までで一番しっくり来た」
「僕の説得には難色示してた癖に……ええい! あの女の言う事は信じるなっ」
「母親に対して言うセリフじゃないだろ! ……なら、今言った『君の愛が多すぎて重い』って感覚も冗談かい?」
「それはホント」
「なら、『それでいい』んだよ」
むぅ、なんか納得いかない。




