297 職員とブラザー
学園での昼食の最中、自身の『立場』を教えてくれた友人のユキノ。
学園を巻き込んだ、とある『観光施設』への無料招待。
「私は行かないが、お前は?」
行くか?
行かないか? を訊ねてくるユキノに、私は『行かない』と答える。
「お前も『行かない』って事で良いんだよな?」
「うん」
頷く私。
ここは、そう答えておく。
真っ赤な嘘。
今回の『観光施設』への御招待、私は受け入れさせて貰う。
ユキノはこの感じじゃあ、宣言通り来ないだろう。
正直、『私の目的』の為ならユキノというサポートはあった方が良いだろう。
ユキノが既に『あちら側の関係者』であるならば、客が入れない場所へも、足を踏み入れる事が出来るかもしれない。
だが……
それは、ユキノの『あちら側』での立場を危うくする行為だ。
……しかし、まぁ。
前に『組織』の音声記録端末で聞いた、
例の『観光施設内の探索ログ』
を参考にするのであれば……
『観光施設』の運営側は、そこまで『秘密主義』でもないように感じたし、
だからこそ、
ユキノが私をスタッフルームなどに案内してくれたとしても、彼女に『罰則』などは与えなさそうな雰囲気、だった。
が……念には念を、だ。
「なるほどな。なら、ウチらはどっちも行かないって事でいいな。けどその場合、学校は休みになるのか? サボっていいのか?」
「さぁ。今回のお誘いが『社会科見学』の一環扱いなら、授業扱いになるよね。素直に学校で自習じゃない?」
「それも面倒いな……」と、ユキノは◯ッキーのキャラ水筒のお茶を飲んだ。
弁当箱もそうだが、その歳になっても彼女は特に(キャラグッズに)抵抗感は無いらしい。
それから。
昼食後も、私は『観光施設』の調べ物を続けて……
学校も終わり、帰宅部の私は帰宅してきた。
「ただいまー」
…………
アパートの部屋の奥からの返答は無い。
「ふぅ」
五畳のリビングにまで辿り着き、カバンをポンと投げる。
いつもならこのあと寝転がる所だが、ダラけている暇などない。
私は、テーブルの上にあるノートPCの電源を入れ、これからの計画を練る。
具体的には、『観光施設』の周り方の計画を。
効率的に細かく回るか、目星をつけた場所を重点的に攻めるか……
……なんだか。
コレだと、まるで私が小旅行を楽しみにしてるイチ女学生のように見えるかもしれない。
いや。
このまま全てを忘れ、見過ごし、普通の女学生に戻る道もあるのだろう。
危険を伴う仕事だ。
そのほうが、『あの人』的にも良いのだろう。
だが……
それは、『コレ(全て)』が終わってからで良い。
『兄』が戻って来ないと連絡があったのは、ついこの間だ。
兄は、私に黙って勝手に『観光施設』の入場券の抽選に応募していて、しかも当ててしまっていた。
当然、私は兄を止めた。
私と違って、ただの一般人だ。
『基本的に』。
『組織』の方針として、『異常存在』の調査に一般人を利用する事は……ない。
そも、『組織』は一般人を守る為に存在する。
その一般人を利用するなど本末転倒だ。
しかし……『組織』は、個より全を選択する。
一人の犠牲で多くが助かる選択肢があるのなら、迷わずその選択をする。
『組織』は、どこから『嗅ぎつけた』のか、兄がチケットを当選させた情報を手に入れ、兄に、現地調査の依頼をした。
いや、嗅ぎつけたなんてレベルの話では無い。
『組織』の情報収集力は、私が身を以て知っている。
職員の家全員に盗聴器を仕掛けている? 違う。
『組織』にはそんな小手先すら必要なく、『異常存在』を用いた『探索手段』があるのだ。
大方、『組織』は兄の前で『私の名前』を出したのだろう。
『妹の仕事の手助けをしてくれ』と。
兄は、私の仕事を朧げな認識でしか知らなかった。
まぁ、私も兄に、濁しまくりで伝えていたのもあったが……詳細に話すつもりなど無かったし、なにより、当然ながら他言無用な仕事だったし。
兄自身も、私の仕事に疑問はあろうが、『研究所の仕事』、という事で納得してくれた……と思う。
『少女が危険な仕事をまかされる筈がない』
という『まともな倫理観』を持っていた兄だからこそ、私の仕事も止めなかった。
そうして、兄は馬鹿正直に『組織』からの依頼を承諾。
『組織』の(使用)用語や規則も難なく覚えた。
当然、それ自体外部に広めていい情報では無いが、どちらにしろ、『組織』は全てが終われば兄に記憶処理をし、全てを忘れさせていただろう。
その後、兄は件の『観光施設』へと向かい…………
帰って来なかった。
それからの流れは既に(脳内で)言及した通り。
私は、兄を助ける為に『無茶』しようとした結果、『組織』から追い出され、何の力も持たないただの女子高生に。
「……よっ」
腰を上げ、冷蔵庫に。
ガチャン
中は……
「はぁ……」
スカスカ。
少し前までは、兄がいた頃はこうじゃなかった。
大学生だった兄は、勉学やら研究やらで忙しかったというのに、毎日、ご飯を作り置きしてくれていた。
今の私はもっぱら、外食か弁当だ。
私はペットボトルのお茶を取り出し、ガボボとラッパ飲み。
「ふぅ……」
そんな、今はどフリーな私が、これからすべき行動は何か?
『その場所』は、色々な意味で『選ばれし者』以外を拒む魔境。
訪れるのに必要な条件は、『運』なのか『それ以外の何か』なのかも不明。
財力やコネで行ける場所でも『無い』。
いや、『無かった』。
もう諦めていた……そんな時に、朝学園にやって来た、あの『施設責任者』。
これは運命か?
それとも罠か?
『組織』に勤めていた者としての意見は……
「……さて、続き続き」
私は、再びPCの前に座る。
『観光施設』の調べ物の続きだ。




