296 職員と軽い女
今日は朝から変なイベントに巻き込まれたりして、その件で考える事が多かったが、現在は友人のユキノとの昼食中。
そのユキノだが、不意に、少し前この学園で起きた事件についての話題を出して来た。
やって来たテロリスト達を一瞬で制圧した、美少女双子ヒーローの話。
その双子は自身らを箱庭と名乗り、学園で少し寛いだ後帰って行ったわけだが……
「で、その箱庭様がどうしたの?」
「【アレ】は、今日来たセポネのガキだ」
「……なるほど」
セポネ。
朝会に乱入してきた『異常存在』。
圧倒的存在感とエルフのような美貌。
やって来て早々、私達に『私の作った観光地に招待する』と言い放った変人。
……ユキノが言ったその事実を私の中で反芻するも、特に驚きは感じない。
母にしてあの子あり。
エルフから産まれるのはやはり美しいエルフ。
当時の私はスルーしていた(若しくは『させられた』)が……
箱庭、と名乗ったあの双子の、周囲を惹きつける魅力や人を超えた身のこなしは『組織』基準では充分に『異常存在』だ。
「で、片方の……当時もかは知らんが、髪の長い方のウカノってやつは、今の私の上司……みたいなもんだ」
「ウカノ……あの人、そんな名前だったんだ……って。ユキノの上司?」
「みたいなもん、だよ。色々あってな、いいように使われてる現状だ。まぁ、それに関してはアイツに『デカイ恩』があるから文句は言わねぇが」
「じゃあ、セポネ……さんの事も知ってたの?」
「や、母親の事はウカノから話には聞いてたが、見たのは今日が初めてだよ。それか……実は既にどっかで会ってたのに『強烈過ぎて』記憶から消してる可能性もあるかもな」
「あ、ああ……脳の防衛反応、的な」
「まぁ、単純に初対面だろう。そんな不可思議な事はそーそー置きねぇと思ってるし」
いや……
こういった『異常存在』は、基本的にその『存在を隠す性質』がある。
それは、単純に『秘匿したいから』だったり、
『本人(本体)の意思とは無関係に』だったりと理由は様々。
オンオフの出来る透明人間と、出来ない透明人間、と言えば理解りやすいか。
どちらにせよ、『異常存在』を一般人の目から秘匿したいという『組織』からすれば、『異常存在』のそれは、願ってもない特性。
表に出たがるような『異常存在』ばかりであれば、『組織』も手が回らず、世の中はパニック必至だろう。
まぁ、過去。
とんでもない『出たがり』な『異常存在』のおかげで、世界は大パニックになったらしいが。
それは私が生まれる前の出来事だが、『組織』で大きな『やらかし』が発生し、とある『異常存在』が世界へと広がってしまった。
結果、現在の『空の色』は、当たり前のように『青』という色になり…………いや、今この話はいいか。
話を戻そう。
ウカノ、という存在の話や、自身の話を教えてくれたユキノだが……
「でも」
と。
私は口に出し、話を進めようとするユキノに急ブレーキを掛ける。
あまりにも自然な流れ過ぎて、流される所だった。
何故。
ユキノは今、そんなプライベートな話を私にした?
「どうした?」
「い、いや……」
この女は、そんなに口の軽い女だったか?
少なくとも、そんな軽いイメージは無かった。
ポロッと漏らしたのも、ただの気まぐれ、かもしれない。
しかし……
これらが事実であるならば、今のユキノはとんでもない立ち位置の女、という事になる。
神秘も神秘、『異常存在』も『異常存在』な母子との繋がりがあるユキノは、『組織』に目を付けられれば、どんな目に遭わされるか……
一連の話が全て、ユキノの冗談だという線……なら杞憂で済むが、それこそ、そんな意味もない会話をする女でもないだろう?
「まぁ、私が言いたいのは、だな」
カチャカチャと、ユキノは食べ終わった弁当箱を片付けながら、
「アイツらは変な一味だから、関わるのはやめとけってこった。なんで、当然として、奴らの運営する例のヘンテコな『施設』にゃ行かねぇ方がいい」
ああ……なるほど。
ユキノが伝えたかったのはココか。
同じだ。
『触らぬ神に祟り無し』と、私が、彼女に伝えようとした事と同じ。
私も、彼女に『プランの言う観光施設へは行くな』と進言しようとした。
事実を知った今はもう、その心配が『余計なお世話』でしかないわけだが……
さて……どうしよう。
私には、どうしても例の『観光施設』に行かなければならない『理由がある』。
それら、『組織』の為では無い。
辞めた私に、『組織』に尽くす義理などない。
『個人的な理由』で、だ。
理由……いや、『因縁』に近い。
「ユキノは、さっき『行くつもりがない』って言ってたよね?」
「ん? ああ。知人がいるとは言え、私も、変なのに巻き込まれたくないし」
「ユキノは、その『観光施設』にいつでも行ける『スタッフ的な立場』なの?」
「どうだかな。ウカノに話を通せば行けるだろうが、そのつもりがねぇ。アイツに、更に変な貸しも作りたくねぇし」
「なるほどね。じゃあ、私も『そうしよう』かな」
「……そうしよう、ってのは、お前も『行かない』って事で良いんだよな?」
「うん」
頷く私。
ここは、そう答えておく。
真っ赤な嘘。
今回の御招待、私は受け入れさせて貰う。
ユキノはこの感じじゃあ宣言通り来ないだろう。




