291 職員とエルフ
朝の集会。
場所は学園のホール。
セーラー服姿の美女……生徒会長がステージに立ち、朝の挨拶をしている。
「皆、休み明けだからと言ってだらけず、今週も学園生に恥じぬ日々を送って……」
生徒会長の凛とした姿に、きゃーきゃーと小さく黄色い声を漏らす『お嬢様』たち。
こんな『女子高』では王子様扱いもやむなし。
ここはお嬢様学校『山百合学園』。
こんな現代にも関わらず、周りは漫画のような『ですわ口調』なお嬢様だらけ。
その身に纏うセーラー服は、清楚さとお上品さを兼ね備える。
「くぁ…………かふっ」
不意に、隣から聞こえる欠伸。
夢先わらびさん。
不思議な空気を持つ、スレンダーな黒髪美人。
「わらび、だらしないですわよ」
そんな彼女に小さく声を掛けるのは、これまた有名人なアマンさん。
ピンク髪ツインテールという特徴が目立っているのもあるが、彼女は女優としても有名で、お嬢様方からは一目置かれている。
まぁ、彼女が出演る作品は、なんというか、『大人向け』なのだが……
そんなシーンを堂々と演じてる姿は、温室のお嬢様方からすれば、何か惹かれるものがあるのだろう、私にはよく解らないけど。
そんな彼女は多忙だから、学園に来る頻度もまちまちで……
来たと思えば、女子を品定めするようにネットリ視線を送ってる……ように見えるのは、流石に偏見か?
「どうしたんですか」
「どうした、とは?」
「いや、珍しく学園に来たと思ったら、急に友人みたいな空気を出されても困惑するのですが……」
「酷い物言いですわね。ウカノさんという繋がりがあるではないですか。あとはついでに種族的な意味で」
「ついでの要素の方がまだわかりますが……というか、その要素の方を軽々しく口にしないで下さい」
「どうせ真に受ける者など、この良い子ちゃんだらけの学園には居ませんわよ」
「……生徒に手、出してないですよね?」
「むふっ、答え次第では何か制裁を?」
「別に何もしませんが。私には貴方の交友関係など関係ありませんので」
「ふふ、本当に他人に興味が無い方ですわね」
なんやかんやで、仲が良さそう。
わらびさんは……なんというか、キャラはアマンさんとは正反対。
なのに、雰囲気はアマンさんとどこか近しいものを感じる。
彼女は基本、学園でも物静かで、誰ともツルむ様子がない。
たまに視界に入っても、スマホをいじってたり、本読んでたり……ホント、義務的に学園に来てるって感じ。
有名人な元芸能人の姉と双子だとかで、本人も容姿はすこぶる良い。
部活なり何なりをしてる様子は(私の知る範囲では)無い。
学園の生徒らは皆お嬢様でおおらかだから、イジメだとか陰口とかはないが……
兎に角、わらびさんはさっき説明した通り、アマンさん同様、妙に目を引く。
近くに居たら、つい、見てしまう。
それは、他の女生徒も同じらしく、たまに彼女をポーッと見ている生徒も見る。
わらびさんと仲良くなりたい、という生徒は少なくない。
その媚びない一匹狼のような生き方への憧れもあるのだろう。
だが、本人にその気(友人を作る気)がなさそうだから、周りも指を咥えて見ているだけの様子。
クスリ。
アマンさんは口に手を当てて息を漏らして、
「いえ……周りに興味が無い、というより、興味はウカノさんだけ、でしたね」
「……事あるごとに彼の名前を出さないで下さい。そんなに私をイラつかせたいんですか」
「まぁ、私も貴方に対して興味などは薄い方ですが……思えば『仕事仲間』でしたね。『作家』と『演者』という間柄。貴方の生み出す『作品』は好きですわよ」
「どうでもいいです」
「だからか、『貴方という作品』にも興味があります。『この世界』を舞台にした貴方という『キャラクター』とでも言いましょうか。気になるますわね。貴方が今後『自身をどうするつもり』なのか」
「そういう演技めいた話し方は『サムい』という感想しか出ませんね」
「ウカノさんも、こういったキザなセリフ、普段から言うでしょう?」
「彼はウケ狙いなのでまだマシです」
「まだエミュ不足でしたわねぇ」
「…………(ジッ)」
おっと。
生徒会長が言葉を止め、壇上から二人を見ている。
こそこそ話しとはいえ、ただでさえ目立つ二人、流石に見つかったようだ。
「今後は学園で話し掛けないでください。変に周りから関係性を勘繰られて目立ちたくないので」
「その注意に『意味』はあるんですの?」
「はぁ。また遠回しな言い回しですか」
「いえ、直球です。貴方を見ていると、まるで『去る予定でもある』かのように見えるので」
「………………。どういう妄想ですか。貴方は私を知らないでしょう」
「さて。貴方の事は知りませんが……わたくしの『妄想したシナリオ』通りであれば、貴方が……いえ、一人の女が『その結末の為ならそう行動しても』、違和感は覚えないので」
キィン ……マイクのハウリング。
「そこの者達。何か言いたい事でも」
生徒会長の言及。
周囲の視線が、二人に注がれる。
「はぁ……目立ったでは無いですか、面倒くさい」
「うふん、わたくしは目立つのが好きなので。いいんですのよ? 今からステージに上がって歌っても」
「勝手にすればいいでしょう」
「よろしいでしょうか?」
その声は。
マイクを通さずとも、隅から隅まで、やけに広がる澄んだ声で。
その声は。
『ステージの方』から、聞こえた。
「……この『親子』は、どうしてこうも……」
「うふっ、今日はたまたま学園に来た甲斐がありましたわね」
冷静なのは二人だけ。
ホールにいる皆は、いまだフリーズ。
……エメラルドグリーンの髪色の、妖精のような美人なお姉さん。
外人さん? コスプレイヤーさん? それとも……本物のエルフ?
そんな女性が、ステージに、生徒会長の後ろに立っていた。
「だ、誰ですか貴方はっ。ステージに上らないで下さいっ。というか、部外者であれば、許可なく学園への立ち入り禁止はですっ」
狼狽える生徒会長。
……生徒会長には逸話がある。
以前、警備の隙を突き、学園を占拠しようと飛び込んで来た武装集団を、生徒会長と『もう一人の生徒(?)』で制圧……
なんて事があった。
その時ですら、生徒会長は眉一つ動かさずに『対処』した……
というのに。
その彼女が、『不審者』に警戒し、近付けないでいる。
しかし、その気持ちは、この場の誰もが理解出来るだろう。
『神秘』と『存在感』。
スラっとしたお姉さんから、まるで『大樹』のような荘厳さをヒシヒシ感じる。
だからこそ、ステージから離れた我らも、あの不審者の神秘さと存在感がバッチリ分かるのだ。
だからこそ、すぐ側にいる生徒会長は、どれほどの『威圧』を感じているんだろうか。
その腰が引けている様は、まるで大樹を見上げているかのよう。
圧倒的存在感だった生徒会長が、今や『モブ』。
我らモブと同じ、有象無象。
あのエルフ以外は、全員がモブという存在感で…………いや。
それは言い過ぎだった。
まだ、この学園にも希望はある。
そこにいる、唯一冷静な、わらびさんとアマンさん、という希望が。




