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280 会長とそばとユグドラシル

カヌレとの魔界ドライブデート!


カヌレが運転する車は高速に乗り、その道中、SAサービスエリアに到着。


ブラブラと、人間界とは違う要素を楽しみながら様々なお店を冷やかしてまわる僕達。


気になる食事処も多く、どこに入ろうかと悩んでいたが……


カヌレのオススメで、選んだのは、なんの変哲もなさそうな蕎麦屋。



注文を終え、料理を待ってる間、僕は卓上にあったルーレット式おみくじ器に手を伸ばす。


飲食店によくある、いや、あったアレ。

今は絶滅危惧種らしいが、自身の星座の部分に百円を入れるとおみくじ結果の紙が出てくるというアレだ。


これも日本から輸入したんだろうなぁ。


「えーっと……アレ? 聞いた事も無い星座だらけだが? ドラゴン座? コキュートス座?」


「そりゃあ黄道十二星座なんてこっちじゃ通用しないよ。えーっと、君の誕生月の場合は……このユグドラシル座かな?」

「そもそも、魔界からも星って見えるのかい? まぁいいや。んー……あっ、ココって百円使えんやん」

「はい、1プラン

「うわ、気にしてなかったけど、母ちゃんの名前が単位とかやめてくれよ。使うけど(チャリン)」


カチャンッ シャー ポロッ


お金を入れ、レバーを引くと、おみくじ器の上部にあるルーレットが回る。


確か、球が入った数字も占いに関係するって話だが、こっちはいいや。

気になるのは出て来た紙のおみくじだ。

おみくじ自体は、少し長めなインディカ米くらいの巻き物のような小さな紙。


「(クルクル)えー、なになに? 恋愛運は……ぶはは、女難です。しつこい女に気を付けろだって、ぶはは」

「笑えないんだが……」

オマタセシヤシター

「お、来た来た」


トンッ


テーブルに置かれた鴨(?)南蛮そばと天ざるそば。

僕の頼んだ天ざるの方の天ぷらは揚げ立てらしく、いまだにジュクジュクと衣が音を立てている。

見た目は普通の、食欲そそるソレだが……


「ふむ、ツユの香りが独特だね? 動物系とも魚系とも違う感じの……」


「そうだね。人間界にある鰹とか昆布は無いから、代わりに【マーメイド】とか【フェアリーの羽根】から出汁を取ってるらしいし」

「なんか物騒だなぁ。あと、天ぷらのネタ(具)もよく見たら変わってるね?」


「カボチャとかエビとか、普通のネタもこっちじゃ採れないからねぇ。まぁそばのツユのベースは流石に醤油『味』だから、醤油味に合わない癖の強いネタは無いよ」


「まぁ、大抵のモノは天ぷらにすれば食えるからなぁ。んじゃ、頂きまーす。俺はそばにはちとうるさいぜ?」


パキッ


あっ、普通に手に取ったけど、割り箸もあるんだなぁ。

タレにワサビ(?)とネギ(?)を初っ端から入れてぇ、そばを麺にどぷどぷつけてぇ……


「うるさい、というわりに、マナー講師が怒りそうな食べ方してるね」

「知らないのか? マナーってのは店と客のお互いが気持ち良く過ごす為にあるんだぜ」


ズルルルッ


「うん、うん……(モグモグ ゴクン)」


いい喉ごしだ。

喉ごしがなんなのかよく理解してないけど、スルリと喉を通っていった。

で、肝心の味だが……


「まずはそば。見た目こそ灰色の麺で、ポツポツとそばの実っぽい黒いガラが混じってるけど……これはそばの実っぽい『なにか』を使ってるね? 風味が違う」


「ああ、そうだね。【ソウル・バニッシュ】の実、略してソバ、だ。まぁちゃんと注意書きには『そばインスパイアの食べ物』と書いてあるけど」


「そんな『二郎系』みたいな。実の名前もなんか物騒だし。まぁでも美味いぜ? つなぎも使ってるからかツルツルだし。つなぎと言えば、定番は山芋だけど……」


「うん。山芋もこっちには無いから【ホワイトスライム】を擦って使ってるっぽいね。そのネギとワサビも、似た香気と風味を出す代替品でまかなってる」


「『そういうモノ』と思えば気にならないねっ。さて、お待ちかねの天ぷらは……(サクッ サクッ)……ふむふむ……これはイカ? こっちのはさつまいも? (パクッ)ししとう?」


「悪くないだろ?」

「うむ。【異世界ざるそば】として人間界でも売り出したい所だ」

「だからダメだって。あー……」


ちゅるちゅる


髪をかき上げお上品に鴨(?)南蛮そばを啜るカヌレ。


「そっちも美味しい?」


「うん。食べる?」

「食べるー。僕のもどうぞー(カヌレの支払いだけど)」


ちゅるちゅる はむはむ


ふんふん、このツユはざるそばのタレを薄めたのとはまた違うな。

メニューによって分けてるのか、この温そばは仄かに柚子っぽい香りを感じて爽やか。

鴨肉? も、しっとりした食感で、旨味も凝縮されてあって美味い。


「うーん、確かにコレは、日本でも食えるからとスルーしなくて良かったぐらいの料理だ。別料理ではあるけど」


「勧めた甲斐があったよ」


「しっかし、オーナーもこっちの食材で再現するの苦労したろうね。面倒だろうけど、人間界から一度に大量にそば粉なり醤油なり持ち込めば済むだろうに」


「コストがね。二つの世界を繋ぐ『出入り口』は、『一般魔族』には物理的に狭い。それなりの金額を払えば、トラックで行き来出来るくらいの出入り口は通れるけど」


「金取ってんのかよ」


「そりゃあ取るさ。コスト、と言ったろ? 説明はしないけど、『出入り口』を開いたり維持するだけで、貴重な魔法アイテムをガンガン消費するんだ。最小の出入り口を通るだけでも、海外旅行するくらいのお金が掛かるんだよ」


「云十万って感じかー。考えようによっては、別世界への旅行費としては安いね?」

「そうなんだよ。コレも企業努力の賜物ってやつさ。昔のコストは、それこそ今の数十倍って話で……」

「んー?」


サクリ

僕は、若筍っぽい味と食感の天ぷらを食べた後、


「もっと、異世界の行き来なんてスマートなもんかと思ってたよ」


「ん? どういう意味?」


「ほら、君らの母親ことシフォンさんらサキュバス一行が、昔、魔界ここから人間界あっちに行った所から、全てが始まってるわけじゃん? もしかして、サキュバスって特権階級だった?」


「ああ、その辺は…………確かに、どうなんだろうね?」


「知らんのかい」

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