277 会長とドライブ
タルトちゃんとジージョさんの二人とお別れをし。
プロメさんともここでお別れ。
「今更だけど、あっち(実家)に戻ったら、二人のプロメさんが居る事になるの?」
「んーっ、今の私は……というかあっちに居る方もそうだけどっ、結局は全身『魔力の塊』だからっ、どっちかが『植物園』に吸収されるだけだよっ」
「うーん。自己統一性とかアイデンティティとか死生観とか、精霊組(おばさん達)は達観してるなぁ。しっかし、吸収されるだけの存在になるなんて『メスと交尾時のチョウチンアンコウのオス』みたいだなぁ」
「どういう例えだ!」
そういう扱いは嫌らしい。
乙女心かな?
ピピピッ
「ん? スマホ?」
僕のスマホに、魔界の中だというのにメッセージが届いた。
電波って人間界と同じモノなのかな?
送り主は……
「なんだ、ツルギさんからだ。『プロメちゃん一緒に帰ろー』だってさ」
「誰が帰るか! 『死ね!』って送っといて!」
「僕が言ってるみたいになるじゃん。『ヤダだって』と。送しーん」
(実況していた)ツルギさんの事だ、僕らが去ったあの後、あのヒエヒエになった場(闘技場)を上手くまとめて去ったのだろう。
周りの動揺とか、良い感じに取り繕ってくれたかな?
「じゃあ今度こそ帰るからね! もう喚ばないでね!」
そんな『振り』にしか聞こえない捨て台詞を吐きながら、プロメさんは子ドラちゃんをワキに抱えて去っていった。
はぁ……気が抜けたら、なんか疲れたなぁ。
「疲れた疲れたー。でもカヌレ、今度こそ二人きりだね。次はどこ行くー?」
「さ、帰るよ」
「北の魔界ってのも気になるなー。案内してくれよ」
「明日から学校あるからね。連休も終わりだ」
「今日は君んとこの城で一泊しない?」
「会話しようよ……」
根負けしたカヌレは僕を睨みながら、
「素直に帰るって、さっき約束したよね?」
「ああ。したぜ。因みに、これからどこに向かう予定だったの?」
「それは……まぁ、北の魔界のお城だけど……」
「なんだ、どっちにしろ行くやん? じゃあ行こっか?」
「ううむ、なんだか都合良く運ばれてるな」
丁度、その学園都市から歩いてすぐの距離に『国境』? 『検問所』? があるらしく、素直について行く。
テク テク テク
「今日実際に『乗って』思ったけど、竜車はいいね」
「そう? まぁ男の子はああいうのが好きなんだろう」
「でもね、贅沢言うなら、折角の魔法世界なんだから魔法的な移動手段も使いたいぜ。ワープとか魔法大砲とかないの?」
「大砲……? いや、それ系は無くもないけど、急ぎでも無い限り、利用者は北も南もそこそこって感じだね」
「そこそこって事は、基本は?」
「南はやっぱり竜車が主流で、北に限っては今の人間界と変わらないよ。電車、バス、車の社会だ」
「えー、北つまんなーい。良い意味で中世に置き去りになってるのは南だけって事かよ」
「ここ(南)も文明レベルはそこまで酷くは無いぞ? スマホに似た魔法デバイスだってあるし。けど、基本は『アナログ』な感じかなぁ。南は『伝統を重んじる』のさ」
「ハ◯ポタみたいな世界観?」
「まぁ、それでいいや」
そんな話をしていると、高速の料金所みたいな場所が見えて来た。
カヌレはそこに居た従業員と何か話していたが、「行こうか」とすんなり、ゲートを通過。
特にお金を払ったり証明書を見せたりはない様子。
まぁお姫様だから顔パスな可能性もあるかもだが。
「ここからお城までは?」
「バスでも電車でも、色々あるよ」
「んー…………おっ? あそこにあるのは『レンタカー屋』さん?」
「まぁ、そうだけど……って、まさか?」
「ドライブしよーぜっ」
「また気まぐれな……」
はぐらかされると思ったが、意外にも、カヌレはスタスタとレンタカー屋さんに歩を進めるので、僕もついて行く。
「どれに乗りたい?」
「えー? 選び放題ぃー? じゃあそこの赤いMINIみたいやかわいいやつー」
「コレを」
「かしこまりました」
あれよあれよと手続きは済んで…………わずか数分後。
ガチャ
「さ、乗ってウカノ君」
「おー、助手席開けてくれるなんて、エスコートされてるみたいで良い気分……っておいおいっ、君が運転席かよー」
「何故この流れで運転出来ると思った?」
「運転は男の仕事じゃないのかよー」
「私にはそういった固定観念は無い。そも、前に『免許先に取れる君が運転してくれ』と自分で言ったのを覚えてないのかい?」
「なんか言った気がするなー」
免許取ったらラブホがどうたらって。
今回は運転を諦めて、助手席に座る僕。
「(ギシリ)……ん? そーゆー君にはもう免許があるってのかよ? 君もまだ年齢いってなくない?」
「北の魔界は私の『私有地』だよ?」
「あー悪いんだー。傲慢な権力者だー」
「なんてね。ちゃんと『魔界』の免許は持ってるよ。こっちは早くに取れるんだ」
「いーなー」
キュキュキュキュルルルル……
ブルルンッ!
カヌレは手慣れたようにエンジンを掛けた。
「へー、今の車ってキーを回す感じで起動しないんだー。最先たーん。おっちゃん時代に取り残されてるなー」
「そこまで新しいタイプでも無い気が……。魔界にも、AT車だけじゃなくMT車もあるけどね。シートベルト締めて」
「魔界の車らしく何百キロも出すのかい?」
「いや、普通の速度だよ。いくら事故で死ななくても、車が丈夫でも、ルールはルール。皆守ってるよ」
「律儀だなぁ」
ブゥゥゥンンンン
車は発車した。




