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274 会長と滑り台

時間は少しさかのぼって。

あの後。


ってのは、カヌレがタルトちゃんを地面に叩き付けた『あの後』、って意味の話で……



………………

…………

……



グチャッッ


そんな、スイカが割れたような音が、闘技場に響く


『予定』だったろう。


ファサッ


実際は、そんな柔らかな音。


そりゃあ、硬い地面じゃあなく『世界樹の草クッション』だからね。


「……ウカノ君、決闘に横槍を入れられる展開は、君も嫌いだろう?」


「わかるー。漫画とかだと萎えるよねーアレ」


「そう。白黒ハッキリ着かず両者ともモヤモヤが残り、第一美しくない。なのに、何故タルトを助けたんだい? この程度で死ぬ女でも無いよ」


「いや。『言うならこのタイミング』だと思ってね」

「タイミング?」


「僕の為に争わないで!」


「……で?」

「スッキリしたからもういいかな」

「はぁ……」

「カヌレちゃんも、若がずっと大人しくしてくれてるなんて思ってなかったでしょ! (プロメ)」

「わしゃ落ち着きのない子供かっ」

「子供より聞き分けない癖に!」


プロメさんと話しても埒があかない。

スルーだスルー。


「にしてもカヌレ、頭を叩き付けるというエグい行動フィニッシュブローがお互い被るなんて、やっぱり僕ら相性バッチリだねぇ」


既に懐かしさすら感じる、(モレク)王子様との戦い。

本来はそっちがメインのバトルだったのにね。

彼はいま何処いずこへ。


「そういうおべっかは要らないよ。……まさか、この女に変な情とか感じてないだろうね」


「友情は感じてるぜ? なんやかんやで魔界を楽しませて貰ったし、メシも奢って貰ったしなっ」

「普段から弱肉強食と言いつつ、女の子には甘いんだから。言っておくけど、魔族からしたら君の助けは侮辱に近い行為だからね?」

「僕の手の届く範囲に居るのが悪いんだよなぁ」

「一方で、私を守る素振りは見せなかった癖に……」

「カヌレは強い(問題無し)って知ってたからなぁ」


「ああ言えばこう言う」とカヌレは呆れた声を漏らしつつ、


「君には、『そこにいる』ジージョの潔さを見習って欲しいよ」


ジージョさん。


さっきまで、観客席から一人、姫の戦いを見守っていた彼女。

彼女は、最後まで手を出しはしなかった。

ここ(リング)までやって来たのは、ついさっき、世界樹ちゃんでタルトちゃんを守った直後だ。


「全く。ジージョさんは何もせず、姫を見捨てるつもりだったのかい?」


「そのつもりでした。姫にも『動くな』と命じられていたので」

「結果、姫が死んでもかい?」

「はい。死よりも優先すべきは一族、そして姫自身の矜持。姫の顔に泥は塗れません」

「君ら魔族は生き急いでるねー」


「っと。長話もなんだ、そろそろ退散しようか。騒がしくなって来た」



『おおっと!? 動きがありそうです! なにやら口論を続けていた陣営同士でしたが、別の場所で再戦でもするのでしょうか!!』



ツルギさんが上手い具合に誤魔化してくれたので、この機会を利用して……


「世界樹ちゃーん」


ヒュン


僕の思ってる事を読み取って、世界樹ちゃんが僕ら全員(タルトちゃんやジージョさん含め)を触手のような枝で掬い上げる。


それから ギュン! と一気に僕らを世界樹の樹冠天辺へと運んで……


「おー、絶景絶景。魔界は夜みたいに薄暗いから見辛いけど、よく見りゃ禍々しい山とか建物とか色々あるんだねぇ。冒険してぇな?」


「え! この場から去るって流れじゃないの!?」

「帰る以外の選択は許さないよ?」

「二人とももっと景色を楽しむ余裕を持てよっ。仕方ないなぁ……世界樹ちゃんっ 『滑り台』!」


メキ メキ メキ


僕のお願いに、すぐに意図を読み取ってくれた世界樹ちゃんは、ものすごい早いで自ら枝を変形させていって……


十秒も掛からず、


「デンッ!」


「いや、デンッて言われても」


「見ての通り、ギューン! とあちら側まで伸びた『ロング滑り台』さっ。ここから滑って降りれば数キロ先まで一気に移動出来るぜっ」


「そもそもなんで私達急いで逃げようとしてんのっ? てか私達なら【コレ】使うより自力の方が早く移動出来るよ!」

「うるせぇ! ロマンだよ! はよ滑れ! (ゲシッ)」

「うわっ、蹴っ! …………きゃああああああ!!!」


シャー!


「おー、早い早い。楽しそうだねぇ。しかしプロメさん、オバサンなのに キャーって」


「オバサンは関係ないだろ……」


「不思議なのは彼女が滑り台ごときで悲鳴上げてる事よねぇ。百戦錬磨で、普段の『植物園の仕事』でも高い所から飛んだり跳ねたりで恐怖心なんてとうに無い筈なのに」


「恐怖の種類が違うから……」


「では、私達も失礼します」


「お、ジージョさん、タルトちゃん抱えたまま滑る?」

「はい。姫が落ちないように」

「君達は無理に滑ら(付き合わ)ず普通に場を去って良いと思うが……?」

「萎えるような事言うなよカヌレー」

「行きます」


シャー!


「おー。二人な分、重さもあって逆に滑るのも早いね」


「はぁ……」

「ようやく二人きり、だね? (はぁと)」

「今更そんな色気のある空気になれるか」

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