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273 会長とゲームセット

南の魔界のお姫様タルトちゃん、その父こと南の魔王が、何故、北の魔界を攻めなかったのか。

その理由を語るのは、北の魔界のお姫様カヌレ。


「王は知っていた。我が大陸の『急激な成長』を。『ある日』を境に、『淫魔』は魔界で最も恐ろしい『魔族集団』へと変貌したんだ」


だから南の魔王は北を攻めなかった、と。

負け戦になるから、と。


しかし、それに納得するタルトちゃんでは無いだろう。


「淫魔が恐ろしい集団、ですって? 低俗魔族が幅を効かせるようになるなんて、世も末よ」


「正確には、淫魔が人間界で得た『戦い方』を他の(北の)魔族らにも伝えた、それゆえに、全体的な底上げ(レベルアップ)が成されているんだがな」


「同じ事よ。淫魔に支配されるような北の魔族なんて、どれも同じ、雑魚でしょ」


「相変わらず、この世界は弱者や種族に対する偏見に歯に衣着せないな。その『強さこそが正義』というシンプルな思考は嫌いでは無いが、人間界こちらならヘイトスピーチと批判殺到だ」


「で? そんな話を聞かせて、私にどんな反応を期待して?」


「簡単な事だ。二度と関わらないと、ここで誓え。いや、私や北の魔界に対してならどうでもいいが……『この子』に、な」


わいー?


「話題に上がったみたいだから、そろそろ会話に参加していい?」


「ダメだ。黙っていてくれ」


「ふふ、余裕がないわね、別に良いじゃない。『彼女の意思』が大事、でしょう?」


「話の腰を折るな」


「はぁ……で? 『彼女』を諦めろ、だっけ? そんなの、皆が見てるこんな場で誓うと思う? 例え誰も見てなくても、するわけがないでしょう?」


「だろうさ。なら、魔族同士の単純な話(解決法)で決めよう。『どちらかが消えればいい』」


「わかりやすいわね」


ボ ボ ボ ッ! ! !


グ ォ ン !


二人が先ほど(前話)から頭上に待機させていた『大小様々な氷柱』が同時に放たれる。


カヌレは、タルトちゃんの放った多数の氷柱も、先程(前話)同様処理出来るのか?

そしてタルトちゃんも、カヌレの放ったあんな巨大な氷柱、対処出来るのか?


答えは分からない。

分からないんで……


「えいっ」


ヒュン ペシッ



『なっ! ここで世界樹ッ! ゴミを払うかのように! 全ての氷柱を! 葉の付いた枝で吹き飛ばした! まるでハタキだぁ!!』



「余計な真似を」

「良くやったわ!」


バッ!


掴んでいた僕との手を離すタルトちゃん。

だとしても、(前話参照)があるからその場から動けないはず……と思いきや?


いつの間にやらタルトちゃんは、(前話で)カヌレに凍らされていた腕の氷を溶かしていた。

皆が氷柱に注目する中、隙をうかがって魔力で中和したのだろう。


拘束が(氷なだけに)解け、真っ先に、カヌレを潰そうと グンッ! と手を伸ばす彼女。


その手は、人の見た目のソレから、ドラゴンのような硬い鱗と鋭い爪を持つソレに変化していた。

竜族たる彼女だからこそ出来る状態変化。


岩をプリンのように木っ端微塵にしそうな、野球グラブほどに肥大したドラゴンクローだ。


そんな爪に、カヌレの柔肌どころか全身が引き裂かれる想像……


一瞬、なにかゾクゾクとしたものを覚えたが、生憎、僕はそれで興奮出来るほどまだ上級者でも無い。



「その子の手を離した時点で、お前の負けだ」



ド ッ ッ ! ! !


物凄い衝突音。


放たれたタルトちゃんのカッコいいクロー。

それをカヌレは、こともなげに、手の平で受け止める。

僕を相変わらず、カヌレの小脇に抱かれたまま。


「力比べなら勝てると思ったか?」

「くっ!」


グイッ!


カヌレはタルトちゃんの太く逞しくなった指を掴み、引き寄せる。


綱引きでバランスを崩したように、タルトちゃんはこちらに倒れ込んで来て……


ガッ!


結果的に。

タルトちゃんが顔面から地面にダイブ……という惨状にはならなかった。

いや、『そっちの方がマシ』だったかな?


メキ メキ メキ


カヌレが、タルトちゃんの顔面をアイアンクローしていたから。


「ぐっ……あ、あんた……私を馬鹿にしてるの……」


「ああ、そうだな。勿論、魔族同士の戦い、中途半端では終わらせない。


少し眠ってろ」


グンッ


カヌレは、タルトちゃんの顔面を掴んだままに、彼女の後頭部を地面へ叩きつけて終わらせようと勢いを付けて──



………………

…………

……



「ふぅ。ここまで離れたら大丈夫だね」


『あの後』。


学園から逃げるように去った『僕ら』。

やんややんやとここ、学園都市の出入り口辺りまで辿り着いた所で、一呼吸置く。


「全く……もうドタバタする展開は充分だよ」


「それは僕のセリフだぜカヌレ。さっきまでムキになってた癖に」

「アイツ……タルトに追って来られたら面倒だからね」


「ありがとうございます」


「ん? なんの感謝だいジージョさん?」

「タルト様を助けて下さった件で、です」


ジージョさんの背中には『きゅ〜』と目を回すタルトちゃんがいた。

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