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272 会長とヒエヒエ

囚われの姫たる僕を救いに、カヌレが南の魔界までやって来た。

来て早々、世界樹くんことドリーを凍らせるというド派手な登場をしたかに見えたが……


「そんな事が可能なのは『側に居たあの子』だけよ」


なんて言い放つタルトちゃん。



「確かに。実は僕の(放った)氷魔法じゃないか?」

「若は何もしてなかったよっ。なんであのタイミングでドリーを凍らせるのさっ」

「赤くなってた(ほろ酔い暴走モード)からクールダウンしてあげようとしたのかもしれん」

「自分で始めといて行動が意味不だよっ。若なら途中で気が変わってやりかねないけど!」



「そもそも、貴方は氷魔法なんて使えなかった。魔族が使える魔法は『一つの系統』。淫魔風情の貴方が使えたのは、役にも立たない『誘惑魔法』だけ」


「そうだったか? まぁ努力したからな」

「第一、淫魔が王だなんて、その時点で北の魔界は普通じゃないのよ。何故父が今すぐにでも攻め入らないのか理解出来ないわね」


「母や国への侮辱で私の心を乱したいのであれば無駄だぞ。私はそれほど魔界に思い入れも無いし、淫魔が治めるとは言いつつ母も殆ど魔界に顔を出さないから王として失格なのは事実だ。北に攻め入りたいのであれば、好きにすればいい」


「ただ」と。


カヌレは グイッ 僕と握っていた手を自らの方に引き寄せた。

必然的に、僕は抱きかかえられる形に。

まるでお姫様扱いな僕。


そして。


必然的に、僕が引き寄せられという事は、僕の反対の手を掴むタルトちゃんも一緒に、というわけで。


「クッ!」


攻撃と判断してか、仕掛けて来たカヌレに手を伸ばすタルトちゃん。


ガッ!


その手を、カヌレは握り返す。


力比べみたいな構図だけど、変形式の仲直りの握手かな? と思ったが、そんな空気では無いようで……


「タルト。お前が私の心を乱そうという試みは、既に成功している」


「何を言って……」


「私がどんな思いで、全速力でここに来たか、お前に分かる筈もない。お前は、私の触れてはならない領域に手を伸ばしたんだ」


パキ パキ パキ


モノが凍っていく音。

さっきは僕の服だったが……いま凍り始めているのは、『タルトちゃんの腕』。


「こ、コイツ……! 私と力比べしようっての! 舐めるな! 『アイシクル』!」


キシキシキシ


タルトちゃんは一瞬で、頭上にロールケーキみたいな太さの【鋭い氷柱】を複数生成させる。


両手が塞がっていてもこの精度……タルトちゃんが魔族でも上位者と呼ばれるだけはある。


ビビッッ


そんな氷柱つららが、まとめて、カヌレ目掛けて放たれた。


前述した通り、僕ら三人とも両手は塞がれ、攻撃を防げぬ状況(カヌレがタルトちゃんの手を離す選択肢はあるが)。


「カヌレ! ピンチだぞ!」

「なら少しは守る素振りくらいしてくれっ」


氷柱が刺さる!


……と、思いきや。


サラララララ……


「あら涼しい。粉雪?」


僕の顔に、冷たいパウダースノーが降ってくる。


「直前でつららを変化させたって事だねっ。タルトちゃん悪戯っこだなぁ」


「変化させたのは『私』だよ」

「急に手柄自分のものにするじゃんっ」

「……まあ、手柄などどうでもいいが……どうするタルト、続けるか? この子は君の立場を慮ってくれてるが?」

「冗談!」


ビキビキビキ


今度の氷柱の数は、先程の倍どころでは無い。

360度包囲の槍。

カヌレどころか、自身や僕ごと巻き込む覚悟だろう。

僕なら大丈夫という信頼だろうが、もっと僕を労って欲しいねっ。


「魔族の戦いは力の見せ合い、だったか。忘れていたな。『それ以上に過酷や世界に居た』もんだから」


ゴギッ ゴギッ ゴギッ


図太く、硬く、骨の折れるような不快な音。

それもまた、聴こえて来るのは頭上から。


タルトちゃんの氷柱の更に上。

そこには ズゥン と存在感を放つ、大木のような巨大な氷柱が一本だけあった。

まるで、その一本だけで、タルトちゃんを『確実に貫く』という意志の現れのように。


「これ……は……」


「教えてやろうタルト」


「は、はぁ? 何を……」


「お前の父、南の魔王がなぜ北の魔界侵攻を燻っていたな。それは、南の魔王が『賢い』からだ」


「わけがわからないわ!」


「王として、『最初はなから勝てぬ闘い』を避けるのは当然の判断だろう」


「安い挑発ね。北の大陸ごときに臆すとでも?」


「王は知っていた。我が大陸の『急激な成長』を。『ある日』を境に、『淫魔』は魔界で最も恐ろしい『魔族集団』へと変貌したんだ」


あー、それってあれかな?

前に聞いた話のやつ。


昔、姉妹の母であるシフォンさんらサキュバス集団が人間界に来た際に遭った『不幸』。

人間界の、たった一人の『強者』に潰され、拉致られ、そのまま『雇われた』って話。


僕は、チラリと『実況席』を見る。


当時サキュバスを辱めた『当事者』である解説のツルギさんは ワーワー と実況しつつ、僕の視線に気付き、ニコリと微笑んで、ヒラヒラと手を振ってきた。


サキュバス集団が、拉致され『遊園地』に雇われた流れだってんなら、まぁ『強制レベルアップ』も納得が行く。

というか、まともに仕事出来なきゃ『死ぬだけ』だしね。


そうやって、この魔界では、サキュバスが『最強の種族』になったという事か。


まー、そんな事実も、南の魔界こっちじゃ誰も信じてくれないだろうが。


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