270 会長と女の戦い
魔界編はここまでヒロイン不在でやって来たわけだが、ここでようやく、ヒーローのように、彼女は現れた。
「ここ(魔界)に来てからも、頭の片隅ではずっと君の事考えてたんだよ? 『今頃焦ってるやろなぁ(笑)』って」
「今回君が巻き込まれた件は君にとっては不可抗力だけど、次、故意的にやった(消えた)らぶん殴るからなっ」
「まぁ兎に角っ、見て見てっ、僕魔法使い(ウィザード)になったんだっ(カヌレが凍らせた世界樹ぽんぽん)」
「……プロメさん」
「いや! 私は止められなかった云々の前に喚ばれた存在だからね!」
「まぁ、そうでしょうね。この顛末の責任は『別の者』にあります」
カヌレが『誰か』に対して怒りの感情を漏らしている。
彼女が怒るなんて珍しいな。
僕はよく怒られてるけど。
「てか、現れて早々世界樹ちゃんを凍らせるなんて酷いやカヌレ。可哀想だと思わん? 寒い寒いと言ってる(気がする)よ」
「……いや、その世界樹……ドリーなら『この程度の魔法』、自力で剥がせると思うよ」
「そうなのかい? ドリー……いや、今は世界樹ちゃんと呼ぼう」
ピキピキピキ バリッ
ズンッ!
ドンッ!
ひび割れ剥がれ落ちた氷が、観客席や地面に『隕石』のように落ち、『ワーキャー!』と周囲を騒がしくさせる。
拘束の解かれた世界樹くんは、ワキワキとストレッチでもするように枝やら樹冠を揺らした。
頭も冷えたのか、赤かった身体も元の夜色に戻っている。
「なぁんだ、心配したよ。それとも、心配して貰いたかったから暫くフリーズしてたのかい?」
サワワ……
「誤魔化しちゃってさ。でも、いきなりカヌレに奇襲されても怒らないなんて、世界樹ちゃんは偉いね」
「私に攻撃の意思が無いのをドリーも理解してるからね。でなけりゃ私みたいなちっぽけな存在、一振りで粉々さ。そも、このドリーは今、君の支配下だろ? 君が私に敵意を向けない限り、私は安全だよ」
「ふぅん。ならせいぜい僕の機嫌を損なわないよう媚びへつらえよ?」
「媚びるくらいなら粉微塵を選ぶかな……」
姫騎士のように高貴な女よ……。
「にしても、よくここに僕が居るって分かったね?」
「アレだけのキノコ雲を発生させる爆発なら、北の魔界からでも観測えたよ」
「なんか爆発あったっけ?」
「若が山消し飛ばしたでしょ!」
「アレはプロメさんだろぉ?」
「都合良く擦りつけるなー!」
「一応、説明すると、あの時は決闘中だったんだ。南の魔界にて今が旬のツヨツヨ王子様とね。魔界に来て早々、貴族同士のゴタゴタに巻き込まれちゃってさぁ。結局、最後まで彼の『本気は見せて貰えなくて』、気付いたら彼、どっか行っちゃったんだけど」
「そ、そうか……災難だったね(相手が)」
「でっ、相手(王子様)が消えたから、仕方なくプロメさんとポコポコとバトルして場を繋いでたんだよっ」
「よくもまぁスラスラと都合の良い捏造を!」
「でも正直、消化不良なんだよねぇ。君ら(姉妹)も王女なら、一人や二人、タカビー(高飛車)なお王子様の許嫁とかおるやろ? そういった輩を、一般人の僕が返り討ちにしたい欲求がビンビンなんだよっ(パンチシュッシュ)」
「血の気が多いな……母さんは、娘にそういう縁談を持って来るタイプじゃないし……というか、君も立派な王子様だろ……?」
「そうだよ! 高飛車な部分もまんまイキり王子って感じだしっ」
「そうか……本当の敵は自分、と」
「まぁ、それでいいんじゃないかな(どうでも)」
「つまり、僕を複製出来れば楽しいバトルが出来そうなのに……いや!? そうか! それも魔法でやればっ」
「やめて!」
「とりあえず……詳しい話は後にして、『元の世界』に帰ろうね」
「待ちなさい」
おっ?
ヒュッ タッ
軽やかに、一人の少女がリング上に降り立った。
『おおっとぉ!? 謎の少女の次はタルト王女が乱入だぁ! これ以上の争いが始まると言うのかぁ!?』
ツルギさんは楽しそうだなぁ。
「っと。やぁタルトちゃん。色々あったけど、約束通り王子様を理解らせたよ」
「色々あり過ぎなのよ……でも、ありがとう」
「いーや、僕も楽しかったからね。じゃあ僕も満足したんで、そろそろ」
「まぁ、そんなに急がなくてもいいでしょ。この後祝勝会でも」
ザッ
と、会話する僕らの間に割り込むのは……
「久し振りだね、タルト」
まるで、イケメンのような振る舞いのカヌレ。
「ええ。何年振りかしら。十年?」
「そのくらいじゃないかな、正確に覚えてはいないが」
「そう。まぁ思い出話するほど仲も良くなかったしね。北と南の姫同士、『立場上』仲良くも出来なかったし」
「なになにー? 北と南の魔界ってギスってんのー?」
今度は僕が間に割り込む。
同時に向けられる二人の視線。
「いや? 少なくとも『北に』敵意はないよ。会ったのも、確か北と南交流パーティーだったね」
「ええ。昔は知らないけど、当時も今も争いは無いわ。『不干渉』とも言えるけど」
「やーん、ギスってるー」
「女同士の会話を楽しそうに眺めるな」
「姫といえば、(カヌレの妹こと)わらびちゃんの方はお姫様しなかったの?」
「ああ……あの子はあまり面には出ない子だったから」
「今と変わらんねぇ。昔の話、もっと聞かせて?」
「後でね」
焦らすなぁ。




