264 ラウンド8
バカ王子と決闘していた『彼女』であったが……
その彼女が高度な召喚魔法を使い、規格外の精霊プロメを喚び出して、遠くに見えていた山を炎の魔法(?)で消し飛ばした。
この後、彼女と精霊の二人がどんな行動を取るつもりかと見届けていたが……
「じゃ、そろそろ帰ってくれ」
「容赦ないよ!?」
「悪いけどっ、若が変な事しないよう見守っててとプラン様に今言われたから!」
「ママンが? 面倒いなぁ。なら取り敢えずプロメさん、リングから下りてよ。なんか今、プロメさんが『凄い奴』みたいな空気になってて、僕が大した事ないみたいな空気じゃん」
「いやっ、このまま召喚された者として居させて貰うよっ、保護者として!」
「なら隅の方で座っててよ。魔法少女ウカノに成長した僕の勇姿を見ててくれ」
「少女てっ! よく見たら女子の制服着てるしっ!」
「ドレス着ておめかししてる奴に言われたくないねっ」
「こ、これは『精霊としての正装』で……!」
『Uと召喚された精霊の二人が何か長話をしています! 決闘に集中して欲しい所ですね!』
「うるせぇ! 若との間に入んなブチ焼き殺すぞ!」
「うるさいよプロメさん」
「で! カッコよく魔法使いたい、だっけっ? あーっ、でもさっ、若は魔法の使い方を『理解』したっぽいけどっ、若の『やりたい感じ』の事は出来ないと思うよっ?」
「僕の事を知った風に言うんじゃねぇっ。若者のフレッシュな思考におばちゃんがついていけるわけねぇだろっ」
「おばちゃん言うな! ど、どうせ結局アレでしょ! やりたいのって火の魔法とか雷の魔法とか水の魔法とかそんなアレでしょ!」
「光と闇の魔法を組み合わせたりしちゃうぜっ」
「だと思ったよっ。悪いけどそれっ、私みたいに『他の精霊が来るだけ』になるよっ!」
「なにっ! なんでそんなゾロゾロとおばちゃん達が来る事態になるんだっ!?」
「それは若の『魔法のイメージ』が『私達』になってるからだよっ。若は火のイメージで私を思い浮かべたでしょっ? だから私が召喚たのさっ。ほらっ、闇魔法なんて【セポネ】ってイメージでしょっ?」
「じゃあ闇魔法出したらセポネさんが来るのかよ、これ以上保護者を増やしたくねぇっ」
「セポネも召喚ばれたら絶対嫌な顔するから魔法の乱雑はオススメ出来ないよ!」
「そ、そんな虚言言って、僕のやる気を削ぐ作戦なんだろっ」
「なら試しに放出したい炎魔法をぶっ放してみなっ。若の手からは何も出ずっ、イメージしたその魔法は私が放つ流れになるから!」
「なにおう!?」
決闘そっちのけで口論を続ける両者を、呆然と眺めていた私達。
ふと、
オオオアアアアア!!!!!!!!
何処からか、けたたましい怒号が聞こえて来た。
と、言ってもまだ、私だから聞こえるような距離感はある。
その方角は、ついさっき、プロメの魔法によって見通しの良くなった観客席の……そのずっと奥。
目を凝らすと……十数キロ先から、数十もの武装した敵軍が、この学園目掛けて進撃して来る様子。
たまにあるのだ。
勇者一行のように、魔族を恨む人間達の国の軍が、ここのような魔族の施設を潰そうとして来る時が。
プロメの目立つ魔法で、学園に何か問題があったと判断したのだろう。
叩くならば今が好機、と。
厄介な連中だ。
鎧を見れば、最近力を付けて来ている国の魔法剣士兵達と分かる。
現状に気付いているのは、私や、同じ様に耳の良い奴らだけ。
さて……この場に居る魔族をどう動かしたものか(兵として運用しようか)、と。
この南の大陸をおさめる魔王の娘として数秒、頭を働かせたが……
私は、ハッとする。
何故か失念していた。
この場に居る……今までの常識が通用しない『化け物達』の存在を。
「舐めるなお節介プロメめっ(バッ)うおおおお『煉獄の夕立』あああ」
彼女が右の手の平を天に向けると、同時に、プロメも同じ動きを取った。
直後、プロメの手『だけ』が光を放ち始める。
それからすぐ、二人が手の平を向けた方角の空に『黄金色の雲』が現れ、瞬く間に天を覆い……
ド ド ド ド ド ! ! !
……普通なら。
私ですら、数キロ先の雨なんて、目を凝らさなければ視認出来ない。
しかし、この雨の土砂降りは、この闘技場にいる殆どが見届けているだろう。
その雨は、流星のように輝いていて。
降り注いだ大地を、文字通り火の海へと変えていく。
あの雨は、言うなればマグマの雨。
勿論、ただのマグマではなく『精霊の放った魔法のマグマ』で。
火に耐性のあるレッドドラゴンなどの生物は勿論、高い魔法防御力を持つ強者でも、骨すら残らないだろう。
黄金色の雲が広がる範囲は、街を二つ分飲み込むほどの広さ。
あんな雨の中、雨宿り出来る場所(逃げ場)などどこにもない。
ギャアアアア!!!
そして、不幸にも。
その豪雨地帯には、丁度、敵軍が進撃して来たところで。
断末魔は、すぐに海に呑まれていった。




