263 ラウンド7
私が喚んだ『彼女』とバカ王子の決闘。
バカ王子の超高速の攻撃を避けつつ、魔法を放つのに四苦八苦していた彼女であったが。
私のアドバイスで漸く放てたであろうその魔法は。
音も無く、遠くの山を吹き飛ばした。
『み、みなさん! リングをご注目下さい! Uとモレク王子の他に! もう一人! 誰かが居ます!』
決闘管理委員の声でハッとなる私。
よく見れば
今、リングに居るのは『三人』。
増えたその一人は……
『赤く揺らめく炎のようなドレスを着た女性』。
恐ろしきは、その女性が纏う『魔力』。
私には、分かる。
本人は上手く内に留めているが、まるで凝縮した魔法爆弾庫。
爆発すれば、誇張でなく、山どころかこの南の大陸が『消し飛ぶ』。
正直、アレほどの『化け物』はお目に掛かった事がない。
パパ……『魔王』を遥かに凌駕する魔力。
どうして、そんなのが突然、あのリングに……?
「あん? なんでプロメさんが居んだよっ」
どうやら、彼女の知り合いらしい。
本当、人間界の者の癖に、一体どういう人生を歩んで来たのやら。
プロメと呼ばれたあの『乱入者』。
見た目こそ、凛と美しく、威厳あるオーラを纏う女性で……
「こっちのセリフだよ! ここどこ!? 若は何しでかしたの!?」
そのイメージは、一瞬で崩れたが。
『あの女性は!? 乱入でしょうか!? それとも……もしやUによる! 伝説の召喚魔法!? であれば! これほどの規模の破壊も納得でしょう!』
破壊……
そ、そうか……
先程の魔法は『彼女が』ではなく、あの『謎の女性の魔法』、か。
一分ほど前……
リング上の彼女は、私の送ったアドバイス未満の言葉を受け取り、手を銃のような形にした。
子ドラゴンと共闘していた時の攻撃時のポーズと、同じ形。
数分前の彼女は魔法が使えなかったんで、その時は、子ドラゴンの存在を誤魔化す為のただのポーズ、だった。
だが…… 一分前の彼女に限っては『何かを成し遂げそう』な凄みを纏っていた。
美しい銀髪の長髪も、露骨に色が(緑に)変わっていたし。
そして……指先からあの魔法は放たれた。
私が確認出来たのは、『赤い一本の線』。
その線は、花火の火花レベルの矮小さだった。
だが。
その赤い線は針のように『防壁魔法を突き抜け』、彼方へと消え……
ワンテンポ遅れるように、
じゅわ
音も無く、通り過ぎた軌道上の全てを『蒸発』させた。
わたあめが水の中に落ちて消えるように。
軌道上にあった(リングを取り囲む)防壁魔法も、三階席まである客席も。
赤い光が通った後には『全て消えた』。
お陰で、学園の外の平原が丸見えだ。
赤い光はそのまま、あの遠くに見える山まで至って。
そして、大爆発。
今なお見えるあのキノコ雲を生んだ。
そんな、地形を変えるレベルの大魔法……
確かに、彼女の仕業というよりは、あのプロメという規格外の『魔女』が放ったというならば、納得がいく。
にしても……あの決闘管理委員の実況の『言葉』が引っ掛かる。
『皆さんもご存知の通り! 魔界では召喚魔法は喪われし大魔法! 最早教科書や魔導書でしか見ぬ存在! 風や火などの精霊の力を借りる魔法と違い! 召喚魔法は精霊そのものを従属させる行為! つまり! 天災を意のままに操るに等しい神の如く大魔法なのです!』
カラスや黒猫を魔法陣などから喚び出す魔法は確かにある。
だがそれらの小動物は使い魔と呼ばれ、伝達や諜報活動に使える程度の存在で、召喚魔法という大それた名では呼称ない。
彼女をこの世界(魔界)に召喚んだ魔法アイテム【ラブレター】が貴重、といったのもそれだ。
人ひとり召喚するだけのアイテムでも、一つの国を作れるほどの金銭的価値がある。
だからこそ……
プロメは、まごう事なき天災と呼ぶにふさわしい存在。
そんなシロモノを、彼女は、本当に召喚したのか?
大前提として……
召喚魔法は、自分より強い相手は呼べない、という言い伝えがある(アイテムは別だが)。
それは、つまり。
彼女の実力は、そんな天災である『プロメをも凌ぐ』という事に……?
「召喚魔法だって。そうなのプロメさん?」
「に、似てるようで厳密には少し違うかなっ。てかっ、ここ魔界なんだねっ。……てか! あそこ(実況席)にいるのクソ野郎じゃない!? なんで!?」
「テカテカうるさいなぁ。ホント『幹部は』ツルギさんの事嫌いだねぇ。ま、あの人の奇行はいつもの事でしょ。それより、召喚魔法じゃないって?」
「うーんっ、そこんとこは少し複雑なんだけどっ、今風で言うなら『私というデータを3Dプリンターで作った』って感じっ?」
「プリンターねぇ。つまり、目の前のプロメさんは本物じゃあないんだ」
「んー、それは『本物とはなにか』という定義によるかなっ。実際っ、今の私はリアルタイムで『植物園にいる方』との記憶の共有が出来てるしっ?」
「二人が揃ったら五月蝿そうだなぁ。で、今更ながらなんでプロメさんも当たり前のように魔法だの魔界だの知ってんだよ?」
「そ、そりゃあ来た事あるからさっ! でなきゃこんなスムーズに魔法なんて使えないっしょ!」
「それもそうか。じゃ、そろそろ帰ってくれ」
「容赦ないよ!?」




