262 ラウンド6
遂にぶつかった、バカ王子と私が異世界から召喚んだ『彼女』。
魔法が使えぬ彼女だったが……バカ王子を、単純に、力で捩じ伏せた。
しかし、追い討ちを掛けようとせず、ウダウダとリング外の私と話し始める彼女。
その舐めた動きが、リングに埋まっていたバカ王子を激昂させた。
全身に炎の魔法を纏い、彼女へと襲い掛かる。
最早、目では追えるスピードでは無く、バカ王子が通った路に残る炎の残像しか追えない。
ブシャアアア!!!
『おおっと! あまりのリングの熱血さにより! 決闘場の(水魔法)スプリンクラーが火事と勘違いして誤作動を起こしました! し、しかし『この水』は!』
落ちて来るシャワー。
だが……
「熱ぃ!」「熱湯だぁ!」「冷却魔法使えるやつぅ!」
それも、一瞬で熱湯に近い温度まで上昇し、観客らを襲う。
「姫」
「分かってるわよっ。『氷結世界』!」
私は天井に向けて手を掲げ、魔法を放つ。
一定範囲を氷結世界へと変える魔法。
落ちて来る熱湯は、一瞬で『雪』へと変化したが……
ボフッ
「ちっ! なんで魔力っ、すぐに蒸気になるっ。まるでサウナねっ」
「ですが、先程よりはマシな状況でしょう」
「こんなの長い間維持出来ないわよっ」
早く決着を着けて貰わないと私がもたないっ。
てか……
この状況でなんで『まだ着いてない』のよっ。
『よ、避けています! モレク王子は俊敏過ぎてミエマセンガ、そんな猛スピードの猛攻撃をっ、Uは避け続けていますっ』
クネクネと身体を動かしダンスしているだけにしか見えない彼女だが、今の所、負傷している様子は無い。
彼女には、バカ王子の攻撃が見えているのか……?
だが……反撃出来ている様子も無い。
このままでは消耗負けは避けられない。
「ねー! タルトちゃーん!」
ふと。
彼女は踊りながら、私を呼んだ。
「な、なによっ。てか大丈夫なの!?」
「そこは平気ー。でも、ちょっと『長引いてる』しー、恥を捨てて訊くねー」
「な、なんの話よっ!?」
「魔法を撃つコツ教えてー」
コツって……今?
そんなもの、私は考えた事も無い。
魔法というものは『使えて当たり前のもの』。
アドバイス出来る事なんて……
「姫」
「え?」
ジージョは私を見て、
「彼女であれば、魔王様の『あの御言葉』で理解する筈です」
「あの言葉って……」
アレは、魔法を使うアドバイスでもなく、理屈も何も無い、ただの心構えで……
「タルトちゃーん、僕ピンチだよー」
ッ!
余裕そうに聞こえるが、強がりかもしれないっ。
考えてる余裕なんてない!
ダメならジージョの所為にする!
「いい!? 魔法は『心象世界』よ! 成りたい自分や理想とする自分を想像しなさい! 魔法に『出来ない事は無い』!」
『おっと。こりゃまずいな。しーらない』
「おっけー、方向性は掴めたよー。さて……何でも出来る、か。なら『この場面に相応しい理想とする自分』……いや、参考にする『相応しい灼熱い人』は……」
本当に、あんなアドバイスで伝わるのか? と。
私は、踊っていた彼女を注視していた。
……ふと。
彼女の白銀の髪色が、徐々に、『緑色』へと変化していって……
「ばんっ」
カッ
遠くに見えていた山が。
消えた。
↑↓
「えー、熱帯エリアの生態系はですねぇ、最近、若が連れて来た新入りによって…………ええ!?」
「るっさ。どうしたんですかプロメ? 急に発狂なんかして」
「よ!」
「よ?」
「召喚ばれたんですけど! 若に!」
「ウー君によばれたって?」
「……若っ、いま魔界で戦ってるみたいです!」
「魔界? 今日はカヌレちゃんの日だと思いますが、彼女が連れて行くわけがないし……んー……『面倒な事』になりましたねぇ。とりあえず、喚ばれたというのであれば、ウー君の手助けをお願いします」
「若に手助けが必要ですかねっ?」
「おさめる役、という意味で頑張りなさいな、プロメ」
「厄介な親子だなぁ!」
↑↓
ゴゴゴゴゴ…………
地響き。
ゴゴゴゴゴ…………
目の前の光景を。
まだ、脳が処理しきれていない。
キノコ雲。
遠くの、山があった場所に、『大爆発』でも起きたようなキノコ雲がモクモクと上がり、空へと吸い込まれていく。
あんな現象は、勇者らが進撃に来た際、自爆しようとした僧侶を移送魔法で海に落とした時、以来か。
いや、規模はあの時以上だ。
そして、リングの上の状況……
指を銃の形にしたままの彼女と。
全身から炎が消え、ポカンとした顔で尻餅をつくバカ王子。
もしかして、今の魔法を『彼女』が……?
トクン トクン
……鼓動が。
普段よりも早い事に気付く。
身体も、熱い。
今更、火の魔法の応酬による熱にのぼせたか?
周りの客のように、試合を見ての高揚感?
それとも……
『草。プロメちゃんおるやん』
『じゃなかった。み、みなさん! リングをご注目下さい! Uとモレク王子の他に! もう一人! 誰かが居ます!』




