260 ラウンド4
遂にぶつかった、バカ王子と私が異世界から召喚んだ『彼女』。
バカ王子相手に善戦していた彼女だったが、実の所、頑張っていたのは子ドラゴン。
姿を隠し、彼女をサポートしていたのだ。
しかし、その子ドラゴンというネタは割れた。
この後の作戦を、私達は知らない。
「……で。人間界から来たという貴様は、どこでそんな個体の竜を手に入れられた? タルトから渡されたか?」
「ぅんにゃ。説明が面倒いんで省くけど、まぁ、さっき出逢って仲良くなった子って事で。ねー」
「グアッ!」
「……ふん、どこまでもふざけたヤツだ。人間界のサルに、竜が懐くはずも無いだろう」
「おいおい、目の前の現実を否定するのかい? 往生際の悪い男は格好も悪いぜ?」
舌戦。
いや、彼女からすればただの煽り合い感覚か。
「まぁいい。実力を認めよう。そのドラゴンの、な。俺はその個体に興味がある」
バカ王子ならそう言うだろうとは思った。
……試合前の。
私とジージョが、彼女に協力した手合わせの段階で、子ドラゴンの力は判明していた。
私達も驚いたものだ。
まさか、子ドラゴンにここまでの実力があるだなんて、と。
しかし、彼女はそれを『最初から知っていた』風だった。
ジージョに炎魔法を撃たせて、先程、試合で見せたような魔法弾きをしてみたり、背中にくっつけて飛ぶ練習をしたり、火球を吐かせてみたり、と。
それは、手合わせというよりは、彼女の『確認作業』。
同時に、子ドラゴンへの教育の場、だった。
まるで、十数年は共に過ごしたかのように、彼女は子ドラゴンの使い方を理解っていた。
因みにだが……
子ドラゴンが今対峙しているのは、自分を殺した張本人(という前提で進める)であるバカ王子だ。
個人的な恨みは無いのか? と当人に手合わせ中に訊いてみたが……
『覚えてない』
『どうでもいい』
『ご主人! ご主人!』
と、グオグオ鳴いていた。
当人が言うように、既にどうでもいい相手なんだろう。
今戦っている状況ですら、ただ、彼女の役に立ちたいというだけの忠義。
子供とはいえ、誇り高きドラゴンが、ここまで人間に従うなんて……。
「タネが割れたな。さあ、次はどう動く? 人間よ」
「んー? やる事は変わらんさ。この子のスペックはまだ見せ切れて……おや?」
「クァー……クァ」
「おやおやドラちゃん、眠くなった?」
「クァー」
「まぁ復活ったばっかりだもんね、疲れちゃったか。そのまま寝ていいよ」
「クァ」
フッ……
『なんと! Uが落下を始めました! そういう作戦でしょうか! モレク王子相手に! リングの上で決着を着けようと誘っているのでしょうか!!』
子ドラゴンは羽を畳み、スヤスヤと彼女の背中で眠り始めた。
忠義はあるが、彼女を母親として見ているような部分もあるのだろう。
戦闘中だというのに、ベッドの上のように安心し切った様子だ。
まるで、彼女の背中は『絶対安全』とばかりに。
スタッ
リングの上に着地する彼女。
……それで、この後どうするつもりだ?
何か策はあるのか?
私とジージョとの手合わせは、子ドラゴンがいる前提での戦闘訓練。
彼女一人での確認作業は、何もしていない。
素直に、彼女がバカ王子に命乞いをしてこの場を乗り切ってくれる可能性は……皆無だろう。
彼女がそんな真似をする気がしない。
「姫」
「ええ。いざ、という時は飛び出して止めるわよ」
「はい」
ジージョも分かっているようだ。
既に『いざ』という場面な気がするが。
……ステージの上では、バカ王子は未だ浮いていて。
彼女はその王子を見上げていて。
「ほう。自ら俺の眼下に下るか。命乞いか?」
「したら許してくれるって?」
「そんな詰まらん終わりなど認めん。貴様がこれで手詰まりだとは思わんしな。更に奥の手を隠していて、俺を楽しませてくれるのだろう?」
「期待されてるねー、どうだかねー。僕も『出したい』とこなんだけど、まだ無理でねー」
「ふん、何の話だ。兎に角、無理矢理にでも奥の手を引き出させるぞ。『何をしてもな』」
フッ
バカ王子が消えた。
いや。
まるで瞬間移動のように素早く移動し。
彼女の背後に回った。
狙うは子ドラゴンか?
機動力を奪おうと?
眠っているのはブラフと判断したか?
子ドラゴンに手を伸ばすバカ王子。
彼女自身は未だ正面を向いていて。
このままでは
ゴシャ!
…………
……
あ?
『フッ』
その次に聴こえたのは、実況の小さな笑い。
『っと。おおっと!? 何が起きた!? モレク王子が! あのモレク王子が!? Uに頭を掴まれて! リングに頭を埋められているううう!?』
「おっと、子ドラちゃんが狙われたからつい」




