259 ラウンド3
遂にぶつかった、バカ王子と私が異世界から召喚んだ『彼女』。
試合は、意外にもすぐには終わらなかった。
大口を叩いていた彼女は、その自信に違わぬ実力があったらしい。
バカ王子の攻撃も軽くいなし……遂には、飛んだ。
それに合わせるように、バカ王子も炎の魔法を駆使し、宙へと舞う。
リング上で浮かぶ両者。
前述の『一般的』な浮遊術を使わずに両者が宙を舞って対峙するこんな光景は、決闘の歴史の中でもそう見られるものではない。
「へー、君も飛べたんだねぇ。灼熱い灼熱い。それで、次はどんな大道芸を見せてくれるの?」
「ぬかせ。貴様がこの魔法『火神』以上の俺の力を見る事は、無い」
「おっ?」
ギュン!
脚から炎を放出させ、一気に彼女へと接近するバカ王子。
その勢いのまま、『炎を纏った右腕』を振るう。
ギィンッ!
まるで、金属同士がぶつかったような激しい音。
バカ王子の右腕は……彼女の『目前で止まっていた』。
「なぁんだ。新しい魔法見せてくれたじゃん。それはなんてーの?」
「……炎帝剣を止めるか。『それほど』とはな。流石に、そろそろ嘲笑えんぞ」
「えーなんで? 面白いじゃん?」
ヒュン!
バカ王子が、彼女にでは無く『自身の背後』に、炎を纏った腕『レーヴァテイン』を振るう。
ギャリリリリ!!!
伸縮自在な炎の剣は、そのまま、リングの地面と防壁魔法を斬り付ける。
地面に関しては、レーヴァテインが通った道が『溶解』を起こしたかのようにポッカリ抉れていて。
防壁魔法の場合は、損壊こそ無いが、レーヴァテインの斬撃痕が生々しく残留していた。
『な、なんという破壊力だレーヴァテイン! 皆さんもご存知のように! この防壁魔法は名の通りの絶対防御! かの大賢者が作り! あの勇者達の激しい襲撃にも耐えました! それが今まさに! 損壊の反応を見せています!』
本来は透明な防壁魔法。
それが現在は、数秒感覚で磨りガラスのような半透明な点滅を見せている。
それほどの威力。
だが、彼女はその炎剣を……
「ただの【マッチ棒】くらい、防ぐなんてワケないさ。あ、この世界にマッチある? 『ちっちゃい火を点ける為の道具』なんだけど」
「ふん、減らず口を。俺が『気付かないと思ったか』?」
「お?」
スッ と、バカ王子が彼女に手の平を向ける。
一見、何もしていないように見えるが……
ユラリ ユラリ
彼女の身体が『歪み』始めた。
だが、それは『実際に』という意味ではなく、『景色が』という意味で。
つまりは『陽炎』。
砂漠地帯でよく見る、熱と空気密度の不均一による光の屈折で、対象が歪んで見える現象だ。
そのように熱を発するバカ王子に対し……彼女は、警戒するでもなく、腕を組んでほくそ笑む。
何故、『そんな事』をされているか理解しているだろうに。
彼女が今、それほどの余裕を見せる意味とは……
「俺を前にして『姿を隠す不届き者』、その正体を見せろ」
陽炎は、ゆらゆらと景色を歪ませていって……
『み、見て下さい! 歪んでいたUの身体を! よく見ればナニかが! Uの背中の方にくっついています! アレは……【ドラゴン】です!!』
ザワ ザワ
再び……いや、開始ってからずっと、観客はざわついているか。
そう。
彼女はずっと、背中に『小さなドラゴン』をくっつけていた。
彼女に懐いていたあのドラゴンだ。
姿を消せたのも、己の出す熱で陽炎を起こしていたからで。
飛べたのも、ドラゴンの翼で。
火球を出せたの、ドラゴンの息で。
レーヴァテインを防げたのも、ドラゴンの腕で。
全て、ドラゴンが彼女に従属し、彼女を護っていた。
バカ王子も、早めに気付いていたんだろう。
彼女の背中からの、違和感のある熱源や、火球が彼女の『肩付近』から出ていた事などから。
こうしてネタバラシすれば、そこまで複雑な話でもない。
だが……ドラゴンの性質を知る者からすれば『異常事態』だ。
そも、一般的なドラゴンに、バカ王子の攻撃を凌げるほどの強さは無い。
それは、子ドラゴンだから、という意味ではなく、成体のドラゴンですら、容易にバカ王子に狩られるだろう。
実際、アイツは学園に来る前に、火に耐性のあるレッドドラゴンの成体を狩って来てるし。
バカ王子と戦えるようなドラゴンは、それこそ魔王や、過去の伝説で語り継がれる竜王族ぐらい。
気に食わないが、バカ王子の実力は本物だ。
……なのに。
あの子ドラゴンは、そのバカ王子に一度殺されたレッドドラゴンが(未だ信じられないが)復活した個体で。
ドラゴンの強さは本来、その成長した年月に比例する、というのに。
現実、子ドラゴンはバカ王子相手に戦えていた。
それは、会場の皆が目撃者だ。
バカ王子が、未だ手心を加えているのは分かっている……が、実際、アイツ自身も、ここまで食い下がっている事に驚いているのが分かる。
天才ドラゴン。
その一言で片付けられたら、どんなに簡単か。
あの子ドラゴンは、天才ではなく『突然変異』だ。
最早、私達『竜族』という種から外れている【ナニカ】。
「王子様ー。一応訊くけど、この子(子ドラゴン)が『仲間』扱いて事になって、2VS1で僕の反則負け、って事になったりする?」
「ふん、貴様は本当に決闘のルールを何も知らんのだな。貴様がその竜を従えているというのであれば、貴様は『魔獣使い』としてリングに立っているという事になる。問題は無い」
「そ、ありがと」




