253 会長(不在)とキャンパスライフ
カヌレと健全な一泊二日の温泉旅館デートを楽しんでいたわけだが……
僕は外で、怪しげな赤い封筒を拾ってしまう。
直後、別世界にワープさせられる僕。
なんと、その世界は【魔界】で。
その場所は、【魔王城】だった。
そこでは、魔王の娘こと竜族の姫タルトちゃんが僕を待ち構えていた。
彼女は僕を婚約者にして、周りから決められた婚約者であるイケ好かない王子との婚約を解消したいらしい。
彼女の考える、その婚約解消の手段とは……強さで名を上げた王子を、僕がコテンパンに倒す事。
↑↓
ガラガラガラ……
ピタリと竜車の移動が止まる。
辿り着いたそこは……
「おー、ここがマジックアカデミー……!」
「魔法学園ね」
「入りましょうか」
スタスタと学園内を歩き進む二人の後ろを、僕はひょこひょこついて行く。
まるで古くからある大学を思わせる、煉瓦造りの広大な校舎群。
U◯Jにある感じの、ふわふわ浮いてる謎の丸い巨大なオブジェ。
ホウキやらデッキブラシやらを使って、空を飛ぶ練習と思われる授業風景。
「うーん。なんだか楽しそうなとこだね」
「そう? 私にとっては日常だから新鮮味がないわね」
「にしても、あっさりと部外者が入れたもんだ。ガバガバセキュリティだよ」
「制服着てるし大丈夫よ。生徒も多いから一人増えた所でバレないわ」
「女子の制服じゃん。(乳袋が作れるタイプの)巨乳専用みたいな制服だから、胸元がスカスカで寂しいぜ」
「お似合いです」
「ったく、立派な大福を持ってる二人には理解らんだろうさ。あー、拗ねたらなんだか甘いものが食いたくなってきた。約束してた、スイーツが頂ける学食はあるんだろうね?」
「どういう情緒よ……」
「こちらです」
てか、こんなに僕ら、のんびりしてていいんだっけ?
そもそもなんで学園に来てんだっけ?
……まぁいいか。
学園観光を楽しもう。
学食は、食堂のようにカウンターで注文するシステムでも、作り置きの惣菜を自分で選ぶシステムでもなく、レストランのようにその都度ウェイターさんに注文するシステム。
テーブルも椅子も中の雰囲気も、高級なとこって感じだなぁ。
僕はぱらりとメニューを開く。
幸い、言葉も僕視点では日本語に翻訳されていて……
「んー? 『人間界風』? 『腐海風』? 『地獄風』? よく分からんけど、イタリア料理の悪魔風みたいなもんかな? ジージョさーん、なんかフルーツいっぱいのヤツ頼んでー。この際【ガラナの実】みたいな目玉っぽい見た目のフルーツでも良いよー」
「かしこまりました」
「ふう。注文終えた後ってのは一仕事終えた感あるねー(グデー)」
「寛ぎすぎでしょ……」
「こんなお堅い感じじゃなく、ファミレスみたくタッチパネルでいいのになー。魔法学園らしく、魔法で動くロボット店員的なものは導入しないの?」
「ここ以外の学食には居るわよ、魔法人形は。『大衆向け』の方だけど。ここは少し『お高い』の」
「やだねー金持ちってのは。つうか、ここはボンボンだけが集う坊ちゃん嬢ちゃん学園じゃあないんか?」
「魔法の才能さえあれば、一般の家の出の者も通えますよ。と言っても、余程の特待生でも無い限り、このレストランへの出入りは難しいでしょうが」
「そんないい場所じゃなくても良かったのにー。どーやらタルトちゃんは、思った以上のお嬢様だったか」
「現魔王且つこの学園の長の娘、ですからね。その立場故に、大衆向けの方には足を運べないのです」
「おー、コテコテなお嬢様。ラーメン屋とか回転寿司屋に連れてって『くっそうめぇですわ!』って言わせたいねー」
「よく分からないけど、何を食べようが絶対そんな言葉遣いしないから……」
高級レストランというのも忘れつつ、ついでに目的も忘れつつダラけていると……
「ふんっ、ここにいたか」
若い男の声。
顔を上げて見れば、赤い髪の毛の、いかにも主人公って感じのビジュアルな少年が。
一瞬にして、タルトちゃんがしかめツラになり、「例のバカ王子のモレクよ」と不機嫌さを隠さず呟く。
「未来の夫となる男にわざわざ足を運ばせるとは、相変わらず罪な女だな」
「はぁ……頼んで無いし。なんの用?」
「なに、貴様に土産だ」
ドンッ
王子の従者らしき若い男が、大きなタルを、地面に置く。
それからは、あまり嗅いだ事の無い生臭さが漂って来て……
「…………アンタ、喧嘩売ってんの?」
レストランは、一瞬で冷えた空気に。
タルトちゃんは冷めた声色だが、その感情は激昂と言って良いだろう。
タルの中には、赤いドラゴンの生首が入っていた。
竜族である彼女に対してのこれは、やはり挑発か?
「誤解するな。俺は賊に拐われていたドラゴンの死体を回収しただけだ。お前ならば、どこの地域のドラゴンかは分かるだろう? せめて、死体だけでも住処に返すべき、とは思わんか?」
「ご立派な行動ね。因みに、このドラゴンの死因は?」
「俺が殺った。賊に操られていたんでな」
「……相変わらず、アンタと会話していると気分が悪くなる。早く消えて(手ヒラヒラ)」
「ふん、貴様も相変わらず俺に対してその態度……ますます気に入ったぞ。式の日が待ち遠しい」
「あー、そうだ。私、そこの子と結婚するから、アンタとの話は無しね」




