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26女騎士サキュバス

ーー追い焚きした事で、ジワジワ、温かくなるお湯。


再加熱された湯が出る(浴槽内下部にある)湯口は当然熱いので、湯口側にいる僕は両脚を浴槽から出す。

浴槽の縁に両足を置いてるので、側から見たらM字開脚である。


「ぐぐぐ……この体勢辛いから前後交代しない?」

「いっそ、あったまるまで普通にお風呂から出なよ……」


それからすぐに、丁度いい温かさになったようなので、浴槽にドボン。


「はふぅ……ん? てかさ、君、今更だけどこのバランス釜、よく扱えたね? 今時の子なんて触れる機会事態無いだろうに」

「え? な、なんとなく見れば構造分かるでしょ?」

「そうかなぁ」


ここは古びたアパートだ。

お風呂のシステムは全てコレだろう。

僕はこういうギミック好きだから気にしないけど。


「でも、お風呂のいれ方が分かるんなら、アレ出来るね」

「アレ?」

「『お風呂にする? ご飯にする? それとも……あ、ー、し?』てラブラブ新妻的なアレ」

「……まぁ、出来るね。なんで設定がちょっとヤンキーっぽい奥さんなのか分からないけど」

「けどアレ、冷静に考えたら旦那の選択肢によっちゃお互いお風呂入る前に『する』って事になるけど、なんかヤじゃない? 奥さんは兎も角旦那は汗臭いよ。ベストは風呂! あーし! 飯! の順だと思う」

「そうかな? 私は汗臭いの嫌じゃな……あっ」

「ふぅん」

「へ、変な意味で取らないでねっ。好きな人なら汗臭くても構わないって意味っ」

「歪んだ性癖だね」

「割と普通だよっ。健全な部類だよっ」


僕には理解出来なかった。

スポーツ後の汗に混じった制汗剤の匂いとか濡れた髪の匂いは好きだけど。


「……(イジイジ)」

「あん? 人の後ろ髪、触って楽しい?」

「楽しーよー。改めて凄い綺麗な銀髪だなーって見惚れてる。水に濡れて更にキラキラしてるし手触りも良い。よくここまで傷まずに腰付近まで伸ばせたねぇ」


ふんふんふーん

ご機嫌なのか、鼻歌を漏らすアンドナ。


「君『の』鼻歌は『音痴』だねぇ」

「うるさいよっ。君は黙ってたら綺麗なお人形さんなんだから、静かにするっ(イジイジ)」

「怖い事言うなぁ、まだ髪いじってるし。いいのかい? 僕の髪の毛は『いたずら好き』だぜ? 綺麗な花にはトゲがなんちゃらさ」

「えー、どゆことー? ……ん? あ、ごめん。ちょっと、君の髪先が私の『水着に引っ掛かって』ーー」

「フイイイッシュッ! (バシャァ!)」

「水着(上)を吊り上げた!?」


僕が浴槽から立ち上がると同時に、後ろ髪に確かな手応え。


「よいしょっと(スッ)」

「何事もなかったように私に背中預けないで! い、今上何もつけてないんだよ!?」

「知ってる」

「だろうね! 水着返して!」

「はい」

「そ、そこは素直なんだね……あの……くっついたままだとつけられないんだけど……」

「知ってる」

「だろうね!」

「ごめんね、手癖ならぬ髪癖が悪くて」

「そんな寝癖みたいな日本語初めて聞いたよ……」

「自然、僕の意識は自らの背中にいく。確かに感じる、先程とは違う肉の柔らかさ。布の感触は去り、僕らを隔てるモノは何も無い。プックリと、背中を突き刺さんばかりに固くなった二つのソレは、まるで素直になれない彼女の思いを代弁しているかのように純粋で素直で、そして風呂の湯より熱かった」

「地の文みたいに解説しないで! か、固くなってないからっ。なってても生理現象だからっ」

「焦り過ぎだよ。所詮布一枚の守りだったんだ、大して違いは無いさ」

「全然違うよぉ……ぅー……君の思い通りに行ってるみたいで釈然としない……」


彼女も諦めたのか、ポイッと水着(上)を浴槽の外に落とした。


「ついでに下も脱げば?」

「ついでに、じゃないよっ。この砦は守るからねっ」

「ま、別にそれはそれで全裸よりエロくて僕は構わないけど」

「よくそれで人の性癖がどうとか言えたね……」


ふと、

ゆらりんーー

湯と混じるように揺れるアンドナの黒髪が、意思のある触手が如く僕の胸元を擽る。

濡れた夜色の髪はキラキラと光を弾き、まるで天の川のよう。


「あ、そうだ。髪、洗ったげようか?」

「え……? 何か企んでる?」

「人間不審なサキュバスだなぁ。今更『髪洗ってる最中にエッチな悪戯』なんて定番はしないよ」

「それ以外の斬新な事ならされそう……」


訝しみつつ、「振り返らないでねっ」とアンドナはバシャンと立ち上がり、浴槽から出る。

それから、浴槽の側に座り込み、僕に無防備な白い背中を向けて、


「くっ……殺せ……!」

「女騎士サキュバスって貞操観念ゆるそう。じゃ、シャワーに切り替えてー(シャー)これ勢い弱いんだよねー……よし、丁度良い温度かな。せば、いくよー」




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