242 会長と近場の温泉
サキュバスのアンドナとのドタバタ(人魚島殺人事件)デートを終えた、翌日の……
朝。
ピンポーン
「はーい(ガチャ)」
「おはよーカヌレー」
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」
カヌレとの朝の時間。
毎日のルーティンと化してるのに、何故だか久し振りな感覚がある。
不思議だね。
「今日のご飯はー?」
「中華風お粥に挑戦してみたんだ」
「珍しー。てか女の子ってお粥好きだよねー」
「そうなの……?」
「悪い意味じゃなく見たまんまの感想だよ。ショッピングビルのレストラン街とか行くと、お粥のお店に並んでる女の人多いし」
「まぁ……見た目もオシャレ? で消化も良いからね。いや、私も何であれだけ並んでるのか疑問だけど」
「ご飯にお粥は自分には無い選択肢だから新鮮だね。ほら、食べよ食べよー」
「いただきます」
席に着く僕達。
お粥の入った土鍋の周囲には、いくつかの小鉢が並んでいて。
「うーむ。明太子、ザーサイ、食べるラー油、ピーナッツ、韓国海苔、味玉……トッピングも充実してるね」
「滅多に作るもんじゃないから、少し凝ろうかなと」
「あり合わせの食器でオシャレに彩ってるのも素晴らしいね。今日まで特に食器が増えてないけど、君は『可愛いから』という理由で一度しか使わない小物食器を買うタイプじゃなかったか」
「なんの話……?」
「道具は使う為あるって話さ」
「……そういうの、別に本人が満足なら良いんじゃないか? 年一回しか使わない行事用の食器みたいなものだろう?」
「使わないと食器が可哀想だぜ。別に、儀式用だの神具だの、普段使いしても良いと思うけどなぁ」
「おせちのお重を普段から使うのもね……」
「今度可愛い小物食器でも一緒に買いに行こうか?」
「この流れでよく言えるな……まぁ、私は使うから良いけど」
僕はまずは何も上にのせず、中華粥そのものをレンゲですくう。
ちなみにこのお店で使うような本格的な形の(食べ辛い)レンゲは、普段からカヌレの部屋でお昼に中華を食べる時に使っている代物。
「(パクリ)ううむ、優しい味わい。ごま油の風味も良い。胃に優しそうな主食だね」
「物足りないんじゃない? 好きな物どんどん乗っけていいよ」
「納豆ってお粥に合うのかなぁ?」
「流石に厳しい気がする……」
パクパク ポリポリ
お粥とザーサイと明太子は口の中が不思議な感じ。
まぁ味の組み合わせは悪くはない。
「プゥ。にしても、料理も大分サマになって来たねぇカヌレ」
「流石に毎日作ってたらね」
「『器用だからすぐに上手くなる』と言ったワシの目に狂いは無かった……」
「すぐに手柄にしようとして。私の努力の結果だから」
「おいおい、料理は『愛の力』だろぉ? 僕に食べさせる為にこの短期間で上手くなったんだよっ」
「まぁ、否定しないけど、当人が言うのは傲慢過ぎる……」
「これでようやく上手い一般人レベルだ。君なら更なる昇華を見せてくれるだろう?」
「十分だろ一般人レベルで。期待が重すぎる……」
味玉をレンゲで崩しつつ、
「で、お泊まりデートの件だけどさー」
「あー……」
「希望はある?」
「いや、君、ここ数日(木金土日)連続でお泊まりしてるらしいじゃないか。少しは落ち着きなよ。てか今日は月曜日だよ?」
「何言ってるんだい。今は六連休中だろう?」
「え? 今ゴールデンウィークだっけ?」
「ほら、夏にもサマーゴールデンウィークと呼ばれる連休が、今年から出来たろう?」
「いやいや、夏休みとかお盆休みとかあるのに、更に増えるわけ……」
「夏はいくら遊んでも時間が足りないからなっ。国も理解ってらっしゃる」
「……ホントだ。(スマホで)調べたらそんな祝日が出来てた……」
知り合いの『自称神様』が国に掛け合った結果だとか。
神はやはりいた……。
「ま、まぁそれでも、別に遠出はしなくて良いよ、私は。地元でいい」
「地元でお泊まりぃ? なんだかなぁ」
「別にお泊まりでなくても良いけど……」
若いのに欲が枯れてらっしゃる。
「あ、国内だけじゃなく海外でも良いぜ? 本場中国粥食いに行くとかさっ。通訳は任せたっ」
「いきなり格好悪い……海外なんて落ち着けないよ。てか一泊二日じゃ無謀っ」
「なら異世界?」
「何が なら なの」
「知ってる? あの動物園の隣にある遊園地から行けるポイントがねぇ」
「いや、その話はいい……うん、私の希望聞いてくれるっていうなら、近くの温泉に行きたい、かな?」
「えー」と僕は眉を顰め、
「地味じゃん」
「良いんだよ、地味で」
「近くのねぇ……二つ、温泉で有名なとこがあるよね。秋◯とか作◯とか」
「うん、そこでのんびりするでもいいよっ」
「近過ぎるんだよなぁ……散歩感覚で行けるくらい近い」
「どこでも良いんでしょ?」
「んー……まぁ最近行ってないし、別に良いけど」
「(ボソッ)近かったら、何があってもすぐに帰れるしね……」
「若いのに守りに入るなっ」




