241 サキュバスと不思議の国のアリス
慌ただしかった、アンドナとの一泊二日デートも、その一日目が終わろうとしていた。
今は、僕の家の所有物であるクルーザーに乗って海上デート中。
クルーザーの動力源はクジラのケトス。
牛車や馬車のような、アナログかつ地球に優しいエコシップ。
で、二人でプールチェアーに(縦に)重なって座り、ロマンティックに星を眺めながら今日の振り返り中。
話題は、今日の主役である人魚の豆ちゃんが言っていた『予言』の事。
よく当たる予知夢を見る彼女は、僕らとの出会いを文字通り『夢見て』いたのだ。
そして……自身の望みである『死』を、僕らからもたらされる、という事を。
だが、彼女の占いは外れた。
僕らは結局、彼女を手に掛けていないのだ。
それを、アンドナに『どういう事?』と訊ねると…………
やれやれと息を吐き、アンドナは空に手を伸ばして、
「強者は、運命なんて簡単に捻じ曲げられるって事だよ」
「おっ、キザだねぇ」
僕よりカッコよく決められたら僕の立つ瀬がないが。
「そもそも、今の豆ちゃんの『格』は低級の妖もいいとこ。そんな彼女が見た未来なんて『不安定』なものだよ。星の数ほどある『可能性』の一つの未来を、夢で視ただけ」
「僕も未来が視られる夢のコツ知りてぇなぁ。今度会った時に聞こっと」
「それは『確定』した未来になるからやめてね。……まぁ実際は、豆ちゃんが視た夢の内容は『今日じゃなかった』のかもしれないし」
「今後ヤる可能性もあるって? 今のうちに自首しろアンドナ」
「ヤるなら君でしょ?」
醜く罪をなすりつけ合う僕達。
「んふふ、なんやかんやで仲良しだね僕達。この旅行で絆も深まったようだ」
「はぁ……能天気な。兎に角、清廉島で一晩過ごしたらさっさと帰るよ」
「おいおいお疲れかい? まだ一泊二日の一日目だぜ? 明日はもっと楽しくなるよね、アン太郎?」
「どこのハムスターだ。なんならもう帰りたい……残りはアパートで一日のんびりしよ?」
「明日は本来の予定のウサギ島だよー」
「……明日は変なの引き寄せないでね」
その後……
僕らは清廉島に戻り、霊能者の山田さんが未だスヤスヤなのを確認した後、(冒頭でイチャついた)館の部屋で一泊。
翌朝……
目が覚めたら、既にメイさんちの関係者(スーツ集団)がパタパタと屋敷の中を動いていて、僕らの存在に気付くと、総出で頭を下げて感謝された。
『どうか御礼を』と言われたが丁重に断り、その人達に島の死体の処理や豆ちゃんを慕っていた猫達、山田さんの事を任せ、僕らは清廉島を後にした。
良い事をした後の良い気分のまま、ケトス船で本来の目的地へGO。
昨日最初に乗った行きの船と違い、今度のケトス船は優秀。
なんで、嵐が来ようが槍が降ろうが沈没したりの心配は無い。
で、何事も無く某(広◯)県にある猫島ならぬウサギ島に到着した僕達。
ここには管理された九百羽以上の茶色いモフモフ(ウサギ)が、ぴょんぴょんと逞しく島中を飛び跳ねていて、
「きゃー! かわいー!」
と、ウサギを見た瞬間女の子らしい一面を見せるアンドナだったが、
「あ、ウカノ君が近付くとウサギが逃げるから、ちょっと離れててね」
と、僕には少し冷たかったです。
「ねー、ひどいよねー君たちぃ」
「クークー」
「お? いいねー君たち。来たお客に媚びないその毅然とした態度がいい。ウサギ科なのに猫科っぽいな」
「クー? クークー」
「うんうん。株価がねー、世知辛いねー」
「クークー」「クークー」「クークー」
「お? どーしたどーした君達、僕の周りに集まり始めて」
「クックック」
「むっ、君は他の子とは雰囲気違うね? 上だけタキシードみたいな服着て、頭にはシルクハット。背中に巻き付けてるのは懐中時計かな?」
「ククッ」
「僕に『ついて来てほしい』って? ふふん、面白い。宛ら僕を『不思議の国のアリス』にしようって魂胆か。その誘い、乗ってやるぜっ」
「乗るなよっ」
「お、アンドナ。見て見て、なんか面白そうなイベントが起きそうだぜー?」
「起こすなって言ってんでしょっ。無視しな無視っ」
「でもなんかウサギちゃん達、困ってそうだし……僕は困ってる子は放っとけないタチだし……」
「昨日も似たような事言って事態を悪化させたでしょっ。流石に二日連続で厄介ごとに巻き込まれないでっ」
「まーまー、さわりだけ。イベントのさわりだけっ。ほらっ、行くよっ」
「手ェ引っ張らないでー!」
その後、ウサギに案内された先の世界でディ◯ニー映画のようなファンタジー体験をする羽目になったのだが……
それはまた、別のお話。




