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240 サキュバスとギシギシ音

僕とアンドナのデートは一日目から大騒ぎ。

なんやかんやあって、デート中に出会った、人魚の豆ちゃんとメイドのメイさんを僕の実家(がある島)に連れて来て、住まわせる事に。

二人を運ぶ足代わりとなるのは、巨大モルモットのラクタちゃんだ。

そんなこんなで、僕らは別れの挨拶を済ませてる途中で…………



プシュン! ガタンッ!


後ろで『早くしろ』と急かしてくるケトス。

せっかちな湯沸かし器め。


「ふむ。死体の事はワシが顔の利く警察の方に連絡しておこう。迅速に処理をするだろう。主らに迷惑は掛けん。それと……もう『人魚の呪いは消えた』とも伝えておく」


「頼むねー」

「島の猫の件は私の家に連絡し、引き取ってお世話しますので」

「死体云々よりそっちの方が重要な話だったねー、頼むよメイさん」

「君の優先順位……」


「しつこいようじゃが……本当に世話になったな」


「ありがとうございます、お二人共」

「私は何もしてないけどね……」

「じゃ! 僕もまた、近いうちにここ(実家)に戻って来るから、豆ちゃんがまだ生きてたらまた会おうねっ」

「どういう別れの挨拶?」

「ラクタちゃん、後は頼んだよっ」

「キュッ!」


爽やかな最後の挨拶を交わして……僕らは、来た時とは別の方向へと進み出した。



どんぶらこっこ どんぶらこ


「んー(伸び伸び)……はぁ。よーやく色々片付いたねぇ」


「自分から厄介ごとに首突っ込んだ癖に……」

「今回に関しちゃあ巻き込まれ系主人公だぜ?」

「それはそうなんだけど……君は厄介事を引き寄せるから」

「でもそのおかげで、楽しかったろ?」

「楽しかったのは君だけだよっ」

「うーん、非日常を好まぬとは、夜の女王サキュバスと言えど、結局君もイマドキ女子ってわけかぁ」

「そんな煽る感じにガッカリされても……」


僕は船の上でストレッチしながら、


「僕は身体動かすデートが好きなんだけどなー」

「逆に、君とのデートそんなんばっかだよ……まぁ今回は(船から放り出されて)泳いだ以外、そこまで身体を動かしては無いけど……おかしいなぁ、ウサギ島でウサギと触れ合う予定がどうして……」

「明日行くから我慢しろ。ほら、それより見上げてごらん」


僕は空を指差し、


「星空に優しく浮かぶあのムーンを。クジラの上で見るこんなオツなロケーション、僕ぐらいしか出来ないぜ?」

「……まぁ、そりゃあどんな猛獣遣いだってこんなん(デート)は不可能だけども」


「けど、星空を見て女の子は何が楽しいんだろうな?」


「ムードぶち壊してくるじゃん……まぁ、私もそこまで(星観測に)キラめかないぐらいには女子力低いけど」

「女の子は占い好きだからなぁ」

「浅い発言するじゃん……」


それから……

僕はクルーザーのくつろぎスペースに一つだけある白いプールチェアーに「よいしょ」と足を伸ばし、寝転がる。

僕だけくつろぐのもアレなんで、


「ヘイカマーン」

「どう見ても一人用なんだけど?」

「だからほら、前からでもお尻からでもカマーン」

「……もう。自由すぎるメイドだなぁ」


僕をクッションにするように、お尻を下ろしてくるアンドナ。

体勢的には、後ろからハグしたまま仰向けに寝てるような感じで……


サキュバスの名に恥じない彼女の肉付きの良いお尻の感触と、コスプレとは違う本格的巫女服の生地の肌触り……


外で(メイド服で)スカート姿だという開放感の後押しもあって、僕は今のシチュに満足していた。

最近は彼女の悪魔耳尻尾も見てなくて、姉妹と見た目が変わらないというサキュバス要素が皆無なアンドナさんだけど。


ミシミシ


「くぅ、プールチェアー君が悲鳴を上げてるぜ。君がサバ読みしてるアイドルの体重くらい(軽い)ならこんな音は鳴らないけど、しっかり健康的な体重みたいだねっ」

「もう降りるっ」

「まぁまぁ」


僕はアンドナの人肌を感じながら、うっとりとした声色で、


「ほら、こうして寝転がらながら星を見ると、まるで宇宙を漂ってる感じに思えないかい?」


「はぁ……なんか、こんな風に寝転がりながら星を眺められるプラネタリウムのデートスポット、あったよね、そーいえば」

「僕ならそこで寝ちゃいそうだなぁ。やっぱり、紛い物の星よりも生よ生。てかアレ、魚座じゃね? ほら、あそこ」

「んー?」

「魚座の魚とは人魚の事。今回のお話にピッタリだぁ……」


「いや、魚座が見えるのは確か秋から冬にかけてだよ。星座の形も、二匹の魚がリボンを引っ張る様子を表してるやつだし、人魚関係無い」


「君空気読めないって言われない?」

「鏡見て?」

「オラっ、彼氏のウンチクにスゴーイ! って感想漏らせっ(ギリギリ)」

「ぐええ……抱き締めすぎ……内臓が口から漏れる……」

「(パッ)ほら、やり直しっ。ロマンチックな会話なっ」

「はぁ……プラスチックみたいな無機質な会話しか出来ないと思うよ」

「ほら、なんか振ってよ」

「しかもこっち任せ……別に、クルーザーに静かに寝転んでるだけで十分ロマンチックだよ」

「あ。星と言えば占い、占いといえば、豆ちゃんの予言が外れたね」

「結局君から振るじゃん……予言って?」

「もう忘れたのかい。『僕らにコロコロされる夢を見た』って奴だよ」

「転がすだけにしか聞こえないけど……」


やれやれと息を吐き、アンドナは空に手を伸ばして、


「強者は、運命なんて簡単に捻じ曲げられるって事だよ」

「おっ、キザだねぇ」


僕よりもロマンティックな事が言えるイケメン彼女だぁ。

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