237 サキュバスとイルカに乗った少年
なんやかんや(前話参照)あって、人魚の幼女豆ちゃんと、それに仕えるメイドのメイさん、一般サキュバスのアンドナと共に『とある島』へとやって来た僕達。
その島は、僕の『ホームグラウンド』。
つまりは……
「ようこそ。ここが僕の『実家』だよ」
「この島が実家……? お主、森の民か何かか?」
「森に住んでるのかって? まぁ森の中でも余裕で暮らせるけどもさ、『居住区』とかは森の中心にある感じだね」
「ふむ……主は『坊ちゃん』であったか。ならば、ワシの財産などには興味もなかろう」
「別に、豪華な生活させてくれる家じゃないけどね。『家業』だって、『主なもの』はこの森の中にある『植物園』くらいで、そこまでお金持ちでもないだろうし」
「そうか…………それで。ここに連れて来た目的を訊いてもよいか?」
「言ったでしょう? ここは地獄だって」
キーキーキー!
グチャ ゴリッ ボキッ!
ドスンッ ドスンッ!
「……成る程、のう」
「この森はこの島で一番安全な場所だよ。けれどまぁ、『一般人』にはちとキツいかな」
豆ちゃんは耳を澄ませるように目を閉じ、
「……身を切り裂きそうな程の鳴き声、岩でも喰ろうてるのかと思うほどの咀嚼音、巨人が歩いてるかのような地響き」
「盛り上がってるだろ?」
「ああ……まだこれだけ森から離れているというのに……(森を)一目見た瞬間から、肌が粟立っておる。まるで……怪物が大口を開けて今か今かと待っているかのようじゃ」
実際、侵入った瞬間襲ってくる子もいるんで間違いじゃない。
「怖気づいたかい?」
「……うむ。ワシの中で埃を被っていた恐怖の本能も飛び起きたわい。生物の、これ程の躍動感や凶々しさは……ワシの長い生涯でも、一度として感じた事がない」
森を見上げながら『ゴクリ』、豆ちゃんは喉を鳴らす。
まぁ確かに、この中にいる子達(動物や植物)は、外の世界じゃ見られない見た目とデカさをしている。
余程、この島の土地が栄養豊富で空気も美味いのだろう(前にN◯K教育で見た恐竜時代の回では、昔は酸素濃度が濃い影響で殆どの生物がデカかった、って言ってたし)。
いうて、僕からしたらみんな、子供の頃から馴染みのある遊び相手だけども。
「あっ、【ケトス】ちゃん、運んでくれてありがとねー。『あーん』してー」
「ケトス? お主、なにを……」
クルリ、海の方に振り返った僕はしゃがみ、『出て来る』のを待つ。
そこにあるのは一見、クルーザーだけだが……
ポコポコポコ…… バシャン!
大きな水飛沫と共に、『顔』が現れた。
「こ、コレは……【クジラ】か?」
「でかいイルカだよ。いや、それがクジラか。まぁ兎に角、このクルーザーはこの子が運んでくれてたんだ」
「ケトス、ケトース……確か、神話に出てくるクジラの怪物だったか。もしや、本物……?」
「いや? 電気ケトルに因んで」
「独特の(ネーミング)センスじゃな……しかし、なんとも……上手くこのクジラを飼い慣らしたもんじゃ」
「ただの友達さ。どうせなら、嵐の中でその優秀さを見せたかったなぁ。どんなに海が荒れようと、クルーザーの中は穏やかそのものだぜ?」
「荒波に左右されぬほどの安定感の持ち主……海の支配者であったか」
あーんと、大きく口を開けるケトス。
ポイポイ 僕はその中に木の実を放り投げた。
パクリ プシュン! ガタンッ!
ご機嫌なのか、頭(背中?)から潮を吹き、勢いで上のクルーザーが少し浮いた。
うーん、この撒き散らした潮が霧っぽくなって、それが湯気に見える感じ……やっぱり沸騰中の電気ケトルっぽいな。
因みに、普通ならクルーザーの中の機材などが今のジャンプで崩れてそうなものだが、ケトスはそれも上手く着地させているのか、カップに入ったコーヒーすら溢さない、という技巧派。
それでも万が一を考えてクルーザー自体を固定しろよという話だが、本人(鯨)がベルトだのを嫌がるので。
「ちょっとここで待っててねーケトスー」
ヌメリとした鼻の部分を撫でると、ジャパン! 再び顔を海に沈ませた。
「さてっ」
僕は振り返り、三人の女の子達を見る。
豆ちゃんとメイさんは少し緊張面持ち、アンドナは平常時のようにポケーっとした顔。
「ここの子達の食事方法は子によってアッサリから残酷まで十人十色だけれど……オススメは一口で丸呑みしてくれる『ヒトトリソウ』かな。痛みも無く一瞬で消化してくれる筈だ。見た目はデカいハエトリソウで……何となく、イメージはつくだろ?」
「お主の考えとは、つまり……」
「うん。僕に出来る事(殺人依頼)なら、この森の子達でも出来ると思うんだ。どうする豆ちゃん? この森の養分になる覚悟はあるかい?」
ポツリ……アンドナが、
「はぁ。ウカノ君……責任取りたく無いからってわざわざここまで連れて来るなんて……」
「ち、違うわいっ」
「ワシの覚悟など……遠の昔に出来ておる」
「そっか」
ならば『君には』何も言うまい。
「主らへのこの恩は、生涯忘れん。まぁこれから死地へと向かうんじゃがな」
「わはは、ほらアンドナ、わろとけわろとけ」
「笑えるか」




