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236 サキュバスとてんごく

人魚伝説の残る清廉島へと流れ着いた僕とアンドナだったが、殺人事件やらなんやらのイベントを終わらせ、今は島から出た直後。

島で出会った幼女の豆ちゃんとメイドのメイも一緒に『特別な』クルーザーに乗り、とある場所へと向けて航海中。



豆ちゃん曰く、自身の目的(前話参照)の為に、島の中でワルさをして注目を集め、異形の悪者専門の討伐隊なりを呼び寄せようとしたらしいが……


「(そういうの)無いの? アンドナ」

「まぁ……存在るにはあるけど……」

「けど?」


「基本忙しいもんだから、『島で人が死んだ』くらいじゃ動かない、というか……」


「だってさー。大人し過ぎたね豆ちゃーん」

「ううむ……匙加減がわからんのう……」


マニュアルが欲しいよね。


「その子の言う事は聞き流しといて豆ちゃん。……因みに、今ここでウカノ君が『海の動物達』に声掛けして『盛大な遊び(マリンフェス)』でも始めようモノなら、『秘匿第一』な組織の人達がすっ飛んで来るから、今のうちに釘刺しとくよ」


「遊ぶだけなのにっ。おもしれぇっ、僕の自由を止めれるもんなら止めてみせろよ『犬』どもがぁっ」

「言わんこっちゃない……ただでさえ、君の母親であるプランさんを筆頭に、『箱庭家(ウカノの家)』の関係者は『組織』から毛嫌いされてるんだから、君は大人しくしててよ」

「親の業を子が背負うなんて……納得出来ないっ」

「どっちかというと共犯でしょうや君ら母子おやこ

「ちぇ。その犬どもを召喚して、豆ちゃんに一目見せようと思ったのに」

「気を遣わせたのぅ」

「見せ物感覚で召喚して良い人達じゃないんだけどなぁ……」


どんぶらこっこ どんぶらこ


「ああ、そういえば、夢を見てのぅ」


ふと、豆ちゃんが語り出す。


「人魚は凶兆を予言する、と言ったろ。ワシの場合はそれを『夢』として見るのじゃが……見たんじゃよ。夢の中で主らを」

「ほぉ? どんな夢? みんなでローション相撲を?」

「正夢にしようとしないでね……」

「いや……主らがワシの『願いを叶えてくれる』……そんな夢じゃ」

「抽象的だなぁ。僕らは夢で具体的に『なに』をしたんでい?」


「ワシを殺してくれる夢じゃ」


ここからが本題……というか、神社での話の続きらしい。


「ふぅん。なんとも物騒な夢だねぇ」

「ワシにとっては良い夢じゃよ。もしそれが今すぐに正夢になっても、後の事は、全てメイに伝えてある」

「後の事? なんの話?」


「話を聞くに、主らは異形の中でも相当の上位種と見受けられる。本来であれば、ワシ程度で手を汚させる事すら畏れ多いモノなのじゃろう。足りるかは分からんが……礼は、ワシの財産でどうか……」


「後の事ってそういう意味ね。でも、礼とか言われてもさぁ。そもアンドナ、色々試した豆ちゃんが死ねなかったって話なのに、僕らに『人魚(不死の生物)を終わらせられる力』なんてあるのかい?」


「『ある』よ」


余裕、とばかりにあっさり言い放つアンドナ。


「まぁ『僕ら』というより、その夢のメインもやっぱりウカノ君だろうさ。 なんてったって、君は創造主かみさまの力を受け継いでる。はじめる力があるんだから、当然、おわらせる力もある」


「創造主とか知らねーけど、具体的にどうしろって?」

「難しい事なんて無いよ。深く考えず、普段のように草とかゴキとかむしる感覚でイケばそれで終わり」

「僕は雑草をむしったりは出来ても、ゴキちゃん相手に無益な殺生とかしない主義なんだけどなぁ」


ゴキだって場合によっては益虫なのに。


「てか草とかゴキって豆ちゃんの事? 例えひどない? 僕が幼女に手を掛けるわけないだろっ」

「私は君のどんな考えや決断でも『尊重』するから。まぁでも、君だって、考えがあってこの【船】を呼んだんでしょ?」

「うーん、君には敵わないな」


「そんなわけで、主のような『死神』ならば、信頼出来る。ひと思いに、ワシを終わらせ(殺し)てくれ」


ふぅむ。

豆ちゃんの覚悟は完了しているというわけか。


「そんなに『生』に飽きたのかい?」

「……ああ。長命種の苦悩など、容易に想像つくじゃろう。親しき者が次々逝き、自分だけが取り残される……『子』が居た頃もあった」


けれど、子供は普通の人間だった。

いや、それは喜ばしい事だったと。

何故って、子に、同じ呪いを背負わせずに済んだから。


「親は、子より先に死なねばならんのにのぅ」


愛する男も、愛する子も、看取らなければならなかった苦しみは、想像もつかない。


「ワシは、もう飽き(つかれ)たんじゃよ」


彼女が心という臓器から吐き出した言葉は、今日聞いた言葉の中で、最も本音しんじつの音がした。


「言っとくけど、君は愛した人達と『同じ場所』には行けないぜ?」

「ふっ……その口振りは『行った事』があるという様子じゃな。そんな事は解りきっておる」

「そ。ならもうすぐ到着くぜ」

「着く……?」


地獄てんごくにさ」



どんぶらこっこー…… ぴたー……


クルーザーが、港で動きを止める。

約一時間くらいの航海。

深く気にした事は無いけど、全国のどの港から出発しても、『この島への到着時間は』大体これくらいだな。

今更ながら、この港の所在地って何処なんだろうか?


「ここは……」

「森?」


豆ちゃんとメイさんが、伸び伸びとビルぐらいの高さにまで伸びた木々達を見上げながら、素直な感想を漏らす。


「夜だというのに、この昼のような明るさは?」

「ああ。樹だったり、タンポポみたいに飛んでる種だったり、動物や虫だったり……と、光る生き物が多いからね。十二時を過ぎたら一斉に暗くするって暗黙のルールがあるから、それまでは明るいよ」

「周りに配慮出来るしっかりした方々ですね」


地獄へようこそ。

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