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235 サキュバスとどんぶらこ

人魚伝説の残る清廉島へと流れ着いた僕とアンドナ。

殺人事件やらなんやらがあったけど、現在はそれももう落ち着いた空気で。

かと思いきや……意外な人物が真犯人と判明!



「殺人事件の犯人は野々宮息子だ!」

「嬉しそうにドヤ顔で……」


ビシィ!

僕は夕日の沈んだ海に向かって指を差す。


「つまりはこうだ。彼はこの島の『人魚伝説』の噂を利用して三人を殺したんだ。さも『呪いで死んだ』かのように見せ掛けて、ね。気弱なマザコンを演じ、身内すら油断させる……全く、役者だぜっ」


「犯行の流れは? トリックの詳細は?」

「わかりませんでしたっ」

「ウェブのクソ記事みたいな返答やめて」

「んー、なら、なんか催眠術的な?」

「雑……」


「と、まぁ『コト』を済ませて最後まで巧みに道化を演じた彼は、その場を去る機会を伺っていた。なんなら僕らも『消せたら』万々歳だったろうけど、そこは諦めたんだろうね。その後、メイさんに気絶させられて、僕らが場を離れるという好機が訪れた。どうにか目を覚まし……ボートでここから逃げた、ってわけ」


上手くどこぞの港に着いた後は、不幸な事故に巻き込まれた者として親の財産でのんびり生きて行くか、『事件により腹が据わり覚醒した者』というシナリオで会社のトップに立つか……彼の未来は無限大というわけだ。


「探偵的には逃げられた時点で負けじゃあ?」

「ふっ、してやられたぜっ」

「犯人に憤らない探偵の必要性とは……」

「しかし、罪をなすり付けられた豆ちゃんの憤りは察するに余りあるね。君の呪いの電波が(島を出た)彼にもう届かなそうなら、今度捕まえてここに送り返してもいいぜ?」

「電波って……」

「いや、気にしとらんからいい」

「そぉ?」


豆ちゃんが優しくて救われたなぁ野々宮息子。


「しかし……そも主らならば、今回死者を出さず、全ての者を救う事も出来たのでは?」

「んー? それ、アンドナにも言われたけど、買い被り過ぎだよ。世の中の名探偵だって、全員を救えてないだろう?」

「君の場合は見捨てただけなんだよなぁ……で、ウカノ君、これからどうすんの?」

「どうも何も……もう『来てる』よ」


チャプッ チャプンッ


【ソレ】は、僅かな波音だけを飛沫かせ、船着に現れた。


「これは……クルーザー、か?」

「照明も点いておらずエンジン音もなかったので、接近に気が付きませんでしたね」


訝しむ豆ちゃんとメイさんだが、そんな暇などない。


「さっ、みんな乗った乗ったー」

「なに? コレが主の言う船か?」

「うん。エンジンが『特殊』な、世界一の『エコ』クルーザーだぜ?」

「エコ……? まぁ、それはいいが、どこに行こうというのじゃ?」

「今の豆ちゃんの『望みが叶う場所』さ。ほら、乗った乗った」

「ホント、説明しないな君は……」


アンドナがため息を吐いた。



どんぶらこっこ どんぶらこ


無灯火クルーザーに乗った後、ライト『のみ』を点けると、クルーザーは『目的地』へと進み始める。

僕らはクルーザーの外(前方にあるくつろぎスペース)に出て、ただ、夜の海を眺めていた。


「むぅ? 最近のはエンジンを掛けんでも自動で動くものなのか?」

「時代は進んでるんだよ豆ちゃん。あとは目的地まで自動運転さ」

「『ものは言いよう』だね……」


アンドナはこのクルーザーの『正体』を知ってるらしい。

悪魔は物知りだなっ。


どんぶらこっこ どんぶらこ


「そーいや豆ちゃん、島から離れた事は?」

「んー? いや、殆ど無いな。用も全てメイの家にして貰っていての。この容姿が悪目立ちするからというのもあるが……最後に島を離れたのは、何十年前じゃったか」

「つまり、僕は引きこもり娘を外の世界に引っ張って来たのか。カウンセラーの才能あるね」

「君の場合引きこもりに『取り敢えず外に出ろ』って根性論を押し付けそうだなぁ」

「僕がカウンセラーになった時のプランはこうだ。無人島の鬱蒼とした森まで連れてって『一週間生き延びろ』と置いて行く」

「ショック療法が過ぎるなぁ。ライオンが子を落とす千尋の谷と変わらないよ」

「それは愛故にだろ? 僕のはドラゴボでピッコ〇さんが幼少期の〇飯にやった感じだよ。いや、アレも一応愛故にか」

「いや(その解釈の違いは)知らんけど」

「で、忘れてなかったら迎えに来るんだ。出来れば自分の力で船でも作って戻ってきて貰いたいけど、そこは甘やかそう。一週間自力で生き延びられたら、社会での生活なんてヌルゲーだろ?」

「辛さのベクトルが違うじゃないかな……他人が居ない分、森の方がマシって人もいるかもね」

「わかるー。まぁそれならそれで森の民になって貰っても構わんよ。どちらにしろ引きこもりを家の外に出すって依頼は達成だからね」

「これ何の話だっけ?」

「大自然の素晴らしさについて?」


「ふっ……しかし、実際に引きこもりのワシをこうして外に連れ出してくれたのは、主らだけじゃ」


苦笑する豆ちゃん。


「ほらぁアンドナー」

「なにがほらぁだよ」

「結局、誰も変な人(異形)は来なかったんだっけ?」

「うむ。情報らしい情報も手に入らなんだ。先程も言ったが、ワシが悪行を繰り返していたのも、注目を引く目的があった。『異形の蛮行を取り締まる組織』だの、当然あると思ったからのう」

「無いの? アンドナ」

「まぁ……存在るにはあるけど……」

「けど?」

「基本忙しいもんだから、『島で人が死んだ』くらいじゃ動かない、というか……」


大人し過ぎたか、豆ちゃん。

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