234 サキュバスと真犯人
人魚伝説の残る清廉島へと流れ着いた僕とアンドナ。
殺人事件やらなんやらがあったけど、現在はそれももう落ち着いた空気で。
落ち着いたと思ったら、今度は島の当主である幼女の豆ちゃんと、世界的に有名な霊能力者山田さんとのバトルが始まっていて。
それもまぁ、なんやかんやで終わって、今は豆ちゃんから『ネタバラシ』を聞いていた(前話参照)。
「貴方は……私の使う『霊力』に似た力で、島に来た者の『精神』を操り、殺人や自殺などの凶行に走らせていた……違いますか」
(何者かに)倒されて気絶していたと思ったら、しっかり豆ちゃんのネタバレを聞いていた山田さん。
「概ね合っておる。しかし、山田よ。主がどこから今の話を聞いていたのか知らんが、兎も角、ワシの目的は『死』じゃ。主の目的からは外れんじゃろう? 理解したのなら、大人しく引いて貰えんか」
「俄には信じられませんね……誰が、貴方を殺せると?」
「『それ』は主が気にせんでも良い話じゃ」
相変わらず物騒な話は続く。
「信じられぬ理由はもう一つ……その貴方の目的は、貴方がこの島に『死を呼び込む』事と一切繋がりません……」
「だろうな。人魚の血に釣られ、不幸にもこの島で死んだ者らは、不運としか言えん」
「どの口で……」
「だが、身勝手ながらワシには必要な犠牲じゃった。主のような『コチラ側の者』を釣るには正解だったろう?」
「……それだけの……理由で」
ギリリ
山田さんの悔しげな、奥歯を噛み締める音がこちらまで聞こえて来る。
無理をしてでも立ち上がり、今にも豆ちゃんに飛び掛かりそうな空気。
なので、
「はーい、あーんしてー(コロン)」
「むぐっ」
「ウカノ君!?」
「今食べた(押し込んだ)木の実で、山田さんの『ここ数日の記憶が消える』よ」
「な……なぜ……」
「後は任せて」
ガクリ
再び、山田さんはお休みタイムへと入った。
「なにしてんのウカノ君……」
「いや、なんか話が長くなりそうだったんで。よっこいしょ」
僕は立ち上がり、
「そろそろ次の展開行こうぜ」
「次の展開?」
「この『島から出る』って話よ」
「今から帰るの? 流石に外も暗くなって来たよ? てか、帰る手段あったっけ?」
「さっき外に出た時に『船』を呼んどいたから」
「船って……『まさか』?」
「ま、待ってくれっ、主らに今帰られたら困るっ」
焦ったように声を張り上げる豆ちゃん。
そんなに僕らにまだいて欲しいのか。
「なにか勘違いしてるね豆ちゃん。『君も来る』んだよ?」
「な、に……? ワシも?」
「勿論、メイちゃんも、ね」
「わたくしも、よろしいのですか?」
「うん。なぁに、サッと行ってサッと帰ってくるだけだからお出かけの準備も要らないよ。……いや、場合によっちゃそのままもう『ここには戻らない』かも? 兎も角、そろそろ船着き場に『着いてる』だろうから、みんな、行こうぜ」
「ど、どこに行こうと……?」
「ひ、み、つ(はぁと)」
僕は可愛く口元に指を添え、ウィンクした。
「ロクでもない場所でしょ」と呟いたアンドナは後でおしおきな。
神社から出て、洋館の方に来た僕達は、ふと……
「(人を覆ってそうな)ブルーシート……? あっ」
「ウカノ君、もう殺人事件の事、忘れてたでしょ……」
アンドナに言われ、全てを思い出す。
「まぁ、ほぼ全滅エンドみたいなもんだったし。あれ、そーいえば、スーツのリーマンは?」
「野々宮息子さんの事? そーいやいないね。縛ってもいたのに」
「メイさんが気絶させたまでは覚えてるけど……豆ちゃん、どこかに殺っちゃった?」
「いや、知らん。それに……実の所」
豆ちゃんは言いにくそうな顔で、
「今回、ワシは事件に何ら関わっていない」
ほぉ? それは意外な供述。
今更嘘なんて吐かないだろうし、本当なんだろう。
「つまり、今回の殺人事件は全て『人為的』なもの、という事か。まぁ僕は始めからその前提で動いてたが?」
「犯人さんは相当上手くやったもんだね。青沼さんと野々宮奥さんの死因は明らかに操られたような死に方……いや。それは『あの人』の証言だから、その様子は誰も見てないわけか」
「おっと。これは『僕の好きなオチ』が待ってる可能性? まぁいいや。みんな、今は取り敢えず船着き場まで行こうぜっ」
「野々宮息子さんの行方はいいの?」
「多分、彼はもう……」
僕は意味深に呟きつつ歩き出す。
アンドナや豆ちゃんは何か言いたげ(メイさんは無表情)な感じだったが、黙って僕に着いて来た。
そうして、島の海側……船着き場に到着。
「おや」
着いた時、メイさんが何かに気付いたように呟く。
「館の所有物であるモーターボートが消えていますね」
僕とアンドナは現物を見てないから知らないが、実際ここには繋がれていたんだろう。
「夕食の時に言ってたやつ?」
「そうです。そこまで大きくないボートで」
「嵐で流されたとか?」
「簡単に外れるものではありませんが、その可能性もありますね」
「安いもんじゃないんだしもう少し慌てようよ……」
アンドナはそういう感覚だろうが、金持ちはそれぐらいじゃあ動揺しないんだろう。
「それか、『彼』が乗って逃げたのかもしれんぜ?」
「……まぁ、そう考えるのが自然かもね。ボートの鍵とかは?」
「普段からフロントの方に吊るしていますので誰でも使えた状況でした」
「つまり、だ」
僕はキリッとした顔で、
「殺人事件の犯人は野々宮息子だ!」
「嬉しそうにドヤ顔で……」




