233 サキュバスと掃除機
人魚伝説の残る清廉島へと流れ着いた僕とアンドナ。
殺人事件やらなんやらがあったけど、現在はそれももう落ち着いた空気で。
今は豆ちゃんの『自殺願望』についてのお話を聞いている。
人魚である彼女は、凡ゆる手段を用いても死ねなかったらしいが……
「人魚の呪いすら超える『異形』の存在ならば、終わらせてくれると考えた」
「ふむ」
単純ではあるが、正解だろう。
実際、僕の『実家の森』にも『不死の植物』が何百種以上もいるが、より強い獣がひと吞みすればそこで終わっているし。
まぁ、その獣のうんこから再生出来る子もいるが……
兎に角、豆ちゃんのアプローチは間違っていない。
「そうしてワシは、異形と出会う為に凡ゆる手を尽くしたわけじゃ。しかし……」
「その様子だと上手くいかなかったようだね。因みに、異形さんらに出会う為の手段ってのは?」
「まずは調査じゃな。信用出来るメイの家に会社を設立させ、財力にものを言わせて世界中を調査させた。怪しい宗教団体やら僻地の村、軍団やらNA〇Aの管理する施設など……しかし、主の推測通り、結果は芳しくなかった」
「へぇ。アンドナ、君らみたいなの(異形)見つけるのって、そんな大変なの?」
訊ねると、アンドナは「まぁ……」と言いづらそうに、
「上手く周りに溶け込んで暮らしてるのが大半だからね。君も少しは自覚してよ? 周りがフォローしてるんだから」
「あん? 僕は一般人だぜ? てか、溶け込んでるというわりには、僕、変な子とよく会うが?」
「君の場合、無自覚に引き付けてるんだよ。いや、引き寄せてる、が正確かな」
「掃除機だったかぁ」
「本来、『異形同士』ですら正体を隠してるんだ。寧ろ、より警戒される。だからこそ、豆ちゃんは同類を見つけられなかった。ウカノ君は理解すべきだよ。君の『特別』……いや、『異常』さを」
「つまりカリスマって事だなっ」
「まぁ、それでいいや。そんなわけで豆ちゃん、『連中』は努力やお金じゃあ絶対に会えないって事」
「ふぅん。面倒くさい連中だねぇ」
「その(面倒くさい)筆頭が何を」
「豆ちゃん。お金と時間、無駄にしちゃったね?」
「いや……案外、そうでもないぞ」
言葉の通り、豆ちゃんに後悔の色は見えない。
時間は不死ゆえに無限だし、お金もまだまだ余裕があるから、とか?
「そーいえば豆ちゃんて、こんな島にこもって、莫大な資金とやらはどう稼いでたの?」
「ふむ………主は『人魚は瑞兆や凶兆を予言する』、という逸話を耳にした事はあるか?」
「んー? 初耳かな。予言の力を持つって妖怪なら、クダン(人の顔を持つ牛)だの神社姫(竜宮城からの遣い)だのは知ってるけど」
「その神社姫も人魚の一種じゃよ」
「ほーん。すると、豆ちゃんにも予知能力が? それでお金稼ぎを?」
「まぁ、な。株だの投資だの、色々と手を出した。細かい事はメイの家の会社にやって貰い、ワシは口を出すだけじゃが」
「かっこいーなー、未来予知っ。アンドナはやり方とか知らない?」
「……君は、大抵の望みを自力で叶えられるでしょ?」
「夢がなーい」
女の子にバカ受けなスピリチュアルな特技が欲しいってのに。
今の僕にやれるのは花占いくらいだ。
「まぁ、こんな場所にポツンと住むのも悪目立ちするからの。時には警察と協力し、この力を捜査に役立たせたりもしていた。勿論、その事実を知るのは『上の一部』のみ。警察には色々と借りを作ってある」
「警察に借りがあるってセリフ、僕も言ってみたーい」
「それこそが……この清廉島で『殺し』を見逃されている理由、ですか?」
お?
気絶してると思った山田さんが、意識を取り戻したようだ。
「目覚めたようじゃな。それとも、とっくに覚めていて、話を聞いていたか?」
「どちらでも良いでしょう……今訊ねているのは、警察との繋がりの話です」
「殺しを見逃している、というのは語弊があるぞ。警察に罪は無い。あ奴らには『怪死事件』にしか見えぬのだから」
「やはり……認めるんですね、この清廉島で起きていた『奇怪な事件の犯人』だと」
「否定した記憶はないがのぅ」
肩を竦める豆ちゃん。
「アンドナー、奇怪な事件ってなんだっけ?」
「えーっと確か、この島には定期的に人がやって来て、その度に来訪者が変な死に方をする、って話の事かと」
「今日の事件みたいな事かぁ。そりゃあ警察からすりゃあお手上げだね。現実的に考えるなら、犯人は催眠とか洗脳で被害者を自殺させてる、とかになるだろうけど……それって罪になるのかな?」
「どうかなぁ。その現場の映像を押さえてたんなら、自殺教唆だとかの罪に問えそうだけど……」
兎にも角にも、今の日本じゃ犯罪と呼ぶには曖昧なラインという事だ。
とは言っても、毎度のこと何人も死ねば、警察も明らかにおかしいと思うだろう。
しかし、『捜査の協力』やら『表沙汰に出来ない不祥事』やらという借りもあって、豆ちゃんに手錠を掛ける事が出来ない、と。
良くも悪くも、彼女は警察にとってアンタッチャブル(不可触)な存在というわけだ。




