24ちょろいサキュバス
「ふー、ごちそー様ー」
「……さま」
「んだよー、まーだむつけて(むくれて)んのかぁ? あ、そうだ。食後で落ち着いたついでに別の女の話していい?」
「この流れで!?」
「相談だよ相談」
僕は今日の出来事を一通り話す。
カヌレの妹わらびとの邂逅。
楽しい漫喫デート。
お祭りでカヌレとバッタリというハプニング。
「ーーてな感じのバタバタした一日でね。なんであの時空気がギスッたのか」
「……因みに、君の考えは?」
「状況だけで考察した結果、姉妹の中がクッソ悪いからという結論に至った」
「バカチン!」
ずぶしっと僕のホッペに指を突き立てるアンドナ。
「だえがばかやー」
「君だよっ。女心どころか人の気持ちすら分かってないなんてっ」
「人の気持ちなんて分からないくらいが上手くいくんだよ」
「それっぽい名言言って誤魔化さないのっ。まさか君がここまでの社会不適合者だったなんて……」
「社会には適合しないくらいが上手くいくんだよ」
「それはもうただの迷惑な人だよっ」
「サキュバスが世間体を慮るなよ」
頭を抱えるアンドナ。
「はぁ……どうしてこんな捻くれ者に育ったのか……」
「お前は僕のオカンか。いや、僕のオカンはこんな扱いやすくないな」
僕は、彼女が何を言いたいのかと一考して、
「なんてーか。君は、僕を普通にしたいの?」
「え? そ、それは当然だよっ。君が常識ある真人間になってくれたら……」
「ーーそれは、つまりこの先、僕と『長い付き合いをしたい』って事?」
「……なんで?」
目をパチクリさせるアンドナ。
「だって、サキュバス試験? 検定? 課題? でやって来た君がここらに短期滞在予定なら、僕の人間性なんて気にする事じゃあないだろ?」
その辺の事は一切語らないアンドナだが、こうして男の元に現れたんだ、『最終目標』か何かは有るのだろう。
その中身も、何となく予想はつく。
本来、サキュバスは『一夜だけの関係』。
魔眼と色香で洗脳、籠絡させ、『食べる』。
一人の人間に執着するようなイメージは無い。
なのに、今の彼女の挙動は……まるで、普通の、一人の女の子。
アンドナは、『何を今更』と言いたげに唇を尖らせて、
「……私は、長い付き合いをしたいと思ってるよ。君だって、『逃すつもりはない』みたいに言ってたじゃん」
「そうだね。だからこそ言っとくけど、僕を、君や世間一般基準に更生させるのは『無理』だ」
「断言!?」
「コレはもう僕の中に染み付いた使命観でね。箱庭家家長である僕のママンに昔から『言われてた事』があるんだよ」
「な、何を……?」
「『孫は最低十人連れて帰れ』って」
「最低で!?」
「『君が気に入った女の子なら人数問わない金ならあるから先は気にするな』って」
「最低な使命感だよっ。親にしてこの子ありだよっ」
「ウチは代々『植物的な繁殖思想』らしいからねぇ。隙あらば子孫を増やしたがるもんなんだと聞いたよ」
「……『君の母親なら確かに言いそう』だけど……だから色んな女の子にちょっかい出すのを許容しろって?」
「てかこの議論、昨日しなかった? 君許してくれなかった?」
「一日でもう一人増えるとおもわなかったからだよ! 明日にはまた一人か!?」
「ナイナイ、双子の姉妹って言ってたし、コレが最後だよー」
「どうだか……ウカノ君、美人なら誰でも良いみたいだしっ」
拗ねるアンドナに、僕は肩をすくめ、
「普通、一人に一人、運命の相手があてがわれてるんだとしたら、僕はたまたま『三人だった』だけだよ」
「……どうだか」
プイっとそっぽを向くアンドナ。
その耳は仄かに色付いていて。
ホントちょろいなコイツ。
「ホントちょろいなコイツ」
「なんだってぇ!?」
「とまぁこのように、僕は僕に嘘を吐かないし、君にも本音をブチまけてる。--けど、『君は』どうかな?」
「な、なにをっ……」
「君は、僕に何か『隠し事』してるんじゃない?」
「な、何を隠してるってのさ!」
「いやカマ掛けただけだけど」
「この野郎!」
しかし馬鹿は炙り出せたようだぜ。
「その慌てよう、どうやら僕に対して後ろめたい事があるようだな? 僕は君ら三人全員に嘘も吐かず真摯だってのに。ま、君にも隠し事をしてる負い目がありそうだけど?」
「な、ないもん後ろめたい事なんてっ。そんな誘導には騙されないよっ」
「ま、これ以上言及しないでやってもいいぜ? 僕の『条件をのむ』ならね」
「じょ、条件……?」
「世間一般的には、喧嘩の後の仲直り◯ックスは燃えるらしいな?」
「思った以上に直球だった! ま、まだ仲直りしてないからだめ!」
「なら『お風呂』でいいや」
「…………水着なら」
「よーし、じゃー行くぞー」
「……これ、譲歩的交渉術だよね……?」
カヌレもこの子も素直だな。
アンドナは不満げながらも、「水着取ってくるね」と部屋を後にする。
思ったよりも近くに彼女の『滞在先』があるのだろうか。
ーーその後。
すぐに荷物と共に戻って来たアンドナに「先に入ってて」と恥ずかしそう言われ、僕はウヒョーと浴室に全裸に。
風呂はすぐに入れるよう彼女が温めてくれていたようだ。




