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227 サキュバスと雨上がり

旅行中嵐に遭い、どこぞの島へと流れ着いた僕とアンドナは、近くの館の住人に客人としてもてなして貰う。

だが、そこで殺人事件? が発生。

先に館に来ていた客人らの一人が、外で首を吊っていた。

疑心暗鬼になる登場人物達。

すると、その客人の一人、霊能者の女性が『殺人』ではなく『呪い』だと発言して…………



「……山田さん、だったか? 今我々は真面目な話をしているんだが」


興奮していた野々宮息子も、突然の横槍に少し冷静になったようだ。

しかし、山田さんはまるで独り言のように、


「ここ『人魚島』は『死者の絶えない場所』」


人魚。

そう、その面白そうな情報は、僕らもメイさんから軽く聞いていた。

ここ、清廉せいれん島は通称『人魚島』と呼ばれるような『人魚伝説』がある。

実際、沖縄の方にもそんな人魚島があるとは聞くが……探偵ものだと定番だよね、人魚。


「……ええ、噂は。ですが、都市伝説の類でしょう?」

「いえ。実際、ここでは多くの死亡事案が起きています」


ある者は突然吐血し、ある者は喉を掻きむしり、ある者は同行して来た者を殺した後に自殺……


「しかしそれらは全て事故や凶行として処理され、大ごとにはされない。警察も何かを恐れている。呪われているのです、この島は」

「……俄には信じられない話ですね。つまり、父は呪いで死んだ、と?」

「はい。このままでは……『皆死にますよ』」


ガタガタガタ

食堂内はシンと静かになり、聞こえるのは外の暴風だけ。

あ、僕の(夕食中の)ポリポリという漬物の咀嚼音は除いて。


「ははっ、死ぬとは物騒な。貴方は有名な霊能力者と聞く。その貴方でも太刀打ち出来ないと?」

「ふふ、失礼ですよ、青沼さん」

「はい。人魚というものを一目見たいと好奇心で来たまでは良かったのですが、どうやら誘い出されたようです。私自身すら、自己を守りきれないでしょう。呪いの根源をどうにかせぬ限り」


「呪い……それは、まさに『人魚の血を求め死んだ者』の怨念、という所かな?」


青沼部下の問いに、山田さんは何も答えない。

肯定も否定もしない。


「……自分は、部屋に戻らせて貰います」


席を立ち、フラフラと場を後にする野々宮息子。

「ふむ。では我々も」「失礼しますわ」と、青沼部下と野々宮母も退席する。

チラリ……山田さんは去り際、僕達に視線を寄越したが、特に絡んで来る様子も無く、去って行った。


食堂に残されたのは、僕とアンドナ、メイさんと豆ちゃん。

豆ちゃんはさっきから黙ったまま、僕らの遣り取りを眺めていた。


「ううむ、ホラー回終わったばっかだってのに、またホラーな予感。(ホラーは)わらびちゃんの担当なんだよなぁ」

「ホラーかどうかはまだ分からないじゃん?」

「つまり、今回はミステリー回だと? 確かに、探偵モノじゃ多いよね、呪いと見せ掛けて人の手の犯行ってやつ。……ふぅ、ごちそー様でした」


席を立った僕は、空になった皿を重ねる。

「そのままで結構ですよ」とメイドのメイさん。


「いや、タダ飯食らいもね。せめて片付けくらい手伝うよ。ね、アンドナ」

「そだね」

「……では、お言葉に甘えて」


先に自分達が使った皿を厨房の洗い場まで持っていき、食堂へと戻ると、メイさんが離席した者達の皿を片付けていて……


「なんだい、殆ど残してるじゃないか、勿体無い」

「人が亡くなった後です、仕様がありません。単にお口に合わなかったのかもしれませんし」

「いーや、アイツらはそんな繊細タマじゃないねっ。これだから金持ち(ボンボン)はっ。贅沢な物しか口に合わないと来てるっ。ここのご飯だって十分贅沢なのにさっ」

「君も坊ちゃんだよね? まぁ、後半の意見には同意だけど」

「食い物の恨みは怖いぞっ。ふんっ、最後の晩餐にならなきゃいいがなっ」

「あー、もうこの子、ここにいるメンツ以外誰も助ける気無いな……」



三人で片付けると終わるのも早い。


「主ら、暇なら『ウチの神社』でも見に来んか?」

「お? いーねー。アンドナも異論無いだろう?」

「異論は受け付けない癖に」


静観していた豆ちゃんの突然の提案に、快諾する僕達。

神社があるのは洋館の隣。

建物同士繋がってはいないので、一度外に出る必要がある。



玄関ホールの方まで移動して、

ガチャリ

玄関の扉を開ける。

遺体は今も桜の木に吊るされブラブラと……していない。

既に『棺の中』に移動済みだ。

検死等は後で来る警察に任せればいいだろう。

そして……


キラキラ ぽたぽた


周囲を温かく照らす陽光、首吊り死体をぶら下げていた桜の木から落ちる雨上がりの水滴。

嵐は止んだ。

台風の後のような生暖かい風は吹いてるが、気になるレベルではない。

夕食後……だっていうのに、さすがは夏、昼みたいに明るいな。


「いやー晴れた晴れた。今なら、船があれば帰れそうなんだけどねぇ」

「まぁ一隻だけの小型ボートだけだと、ね」

「主ら、こっちじゃ」


【それ】は、既にここから見えていた。


大きな赤い鳥居、大きな赤い本殿。

洋。

神社と洋館が隣同士にあるのは、意外にもアンバランスには感じない。

どちらも良い具合にくたびれ(レトロ)てるのもあるからかな。


「シ〇〇ニアファミリー 〜赤い神社と呪いの洋館〜」

「物騒な捏造シリーズ作らないでね」

「中まで来い。茶でも出してやろう」

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