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217 お嬢様と庭掃除

意気揚々と現れたウカノだったが、すぐに子供達の霊にボコボコにされてしまう。

絶望する空木と美兎だったが…………



「遊んでないで早く終わらせて下さい」


私が声を漏らすと、


カラン


それは、竹馬が地面に転がったような音。


モクモクと視界を遮っていた砂煙、それが晴れた先には……


あれぇ? あしがきえちゃったー


下半身が消えた竹馬使いの子供幽霊と、


「いや、遊んでないでって、遊ぶのが攻略法(正規ルート)でしょ?」


当たり前のように無傷で、体についた砂埃をパンパンと払う彼がいた。

それから、最初に彼をおしくらまんじゅうで吹き飛ばした子供の方は……


あはは! おしりがないよー!


と、笑っている。


『彼に触れた』。

それが、どちらの子供にも言える共通点。



ちょくちょく、彼の強さについては触れて来たが……

話は単純明快。

彼の溢れ出るほどの強い生命力は、幽霊の体(幽体)には猛毒なのだ。

その毒は、一気に全身にまで侵食し、存在ごと葬り去る。

彼本人はそうとは知らず、『幽霊とは脆い存在』としか思ってないようだが。


そう。

それほどまでに、彼と幽霊の相性は最悪…………だからこそ、ここの子供達の霊体は、そこいらの粗悪品よりだいぶ丈夫だ。


今も、子供達の体は徐々に崩れてはいってるが、完全に消えるまでまだ時間が掛かるだろう。

体が半分に千切れても、一週間以上は生きている虫のように。

まぁどちらにしろ、あの状態では何も出来ないが。



ズズズ…… ズズズ……


ふと、何かが地面を引きずる音。

それは、彼の手にある【竹馬】が地面を擦る音だった。

……嫌な予感。


「僕にはね、昔からまともな遊び相手が、妹とか実家の方にいる大人達とか、あとは動植物ぐらいしか居なかったんだ。いや、案外居たな、遊び相手」


突然の自分語り。

その語りを向けているのは、子供達の奥にいる親玉に、だろう。

自分の配下を倒され、何か反応があるかとも思ったが……特に怒っている様子も無い。

力はあっても、所詮は決められた事しか出来ない『プログラム』か。


「その子達以外は大抵、僕がヤンチャなばかりか相手に怪我させちゃってね。君達は……僕の友達になれるかな?」


ヒョイと、竹馬を両手で持ち、さながらバッターのように…………


「二人とも、伏せて下さい」

「「えっ!?」」



フワッ

その一振りは、一瞬、周囲から風を消し……

……

……


「…………あ?」


伏せていた空木さんは顔を上げ、数秒、現状を呆然と眺めたのち、


「み、耳、『おかしくなった』か?」

「わ、私も……」

「心配せずとも、どちらも耳は正常ですよ」


両耳を触って、自らの聴力を疑う二人に、私は告げる。


「今の技には『音が無い』だけなので」

「お、音が無いって……こんな、地蔵も洋館も何もかも無くなるような『更地』にしたのにか?」


木枯らし、と呼ぶには理不尽。


彼が『しっくり来る』獲物を手にした状態で、思い切り振るった際に起きる、破壊の暴風。

その風は、音すら殺す。

結果、相手は無音でチリとなって。

断末魔すら、誰の耳にも届かない。


敵の背後にあった洋館も、痕跡すら無い。

恐らくは『かねこりの館』であったろう洋館。

まぁ、壊しても問題ないだろう、『ここなら』。


「あーあ、良い竹だったけどバキバキに壊れちゃった。風もそよ風レベルだったね」


……もし、彼が学園祭で手にしていたような(神具の)木刀を振るっていれば、被害はこんなものでは済まない。

この結界(世界)ごと消えていた。


いや……これでも、まだマシな方か。

彼が『木枯らし』を選択してくれたから。

そもそも、彼にとって『木枯らし』は技ではない。

『周り』が技扱いしてるだけで、彼からすればただ、獲物(武器)を振るってるだけ。

便利な『掃除術』くらいの認識。

だからこそ……彼が『敵』と認識した者だけに使う『木漏れ日』や『金木犀』を、ここで戯れに放っていたら……

その先は、考えたくもない。


「さぁて。僕の友達候補は(生き)残ってるかなぁ?」


肝心の、彼に矛先を向けられた幽霊達の被害だが…………予想通りというべきか。

残っていたのは、あの黒い着物の、だけ。

子供達の幽霊は、消え(解放され)た。


「お前、さっきの中に……」

「ええ。ウカノさんには感謝しかないわね」


隣の二人の会話の意味。

それは、先程の子供達の中に美兎さんが追っていた友人がいた、という意味だろう。

遊園地に入ってすぐ、おばけ屋敷まで私達を案内したあの子供幽霊。

今回の本筋ともいえる仕事(では無いが)とも思ったが、彼は件のその子を、箒で庭掃除でもするように消し飛ばしてしまった。


けれど、一応、彼も『確認』は取っていた。


『木枯らし』を放つ前、チラリと、美兎さんを見て、『いいの?』と目配せ。

それに美兎さんは頷き、応じていた。

彼女なりの決別わかれは既に済んでいたのだろう。


吹き飛ばされる直前、子供達が笑っていたように見えた……のは、こちらの都合の良い解釈かもしれない。

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