216 お嬢様とヒーロー
子供の悪霊達から逃げて来た空木と美兎だったが、外に出ても逃げ切れはしなかった。
空木は、美兎を連れては逃げ切れないと判断して…………
希望的観測だが、ここでの扱いを見るに、美兎はすぐに命を取られないと思う。
あちらさんは、美兎を仲間に加えたいようだからな。
もしかしたら、あの中にいる美兎のダチが忖度的な意味で関わってるのかもしれない。
最悪、また美兎が取り込まれても、やってきたウカノ達がどうにかしてくれるだろう。
……こんな言い方をすると、美兎の為に、私が犠牲になりそうなアレだが、死ぬ気なんざ一切ねぇ。
「お前(美兎)は多分狙われないだろうから、その隙に、私だけ逃げても文句は言うなよ?」
「ええ。お互い、利用し合いましょ」
「達観してやがって……」
「……あっ! やっと繋がった!」
「あ? お前、さっきから何を……」
目の前の敵から意識を逸らせないんで、美兎が何をしてるか検討もつかない。
と、その時、
えいっ! つぎはかえしてね!
一斉に放たれた複数の竹とんぼ。
先程とは比較にならないほどの荒ぶった風切り音。
ッ! 全部避け切れるか……!?
カ ッ !
……不意に。
真横からカメラのフラッシュを炊いたような眩しい光。
今度は何だ!
と、これ以上の状況悪化を危惧したわけだが……
「……おー? (キョロキョロ)もしかして、ワープ(移動)った?」
「なんというか、色々と都合の良すぎる展開ですね」
「てか何この竹とんぼ? 全部キャッチして良かったん?」
光が収まった時。
その場に現れたのは…………望んでいた混沌、だった。
9
↑↓
「やーやー空木ちゃんに美兎ちゃん。見た感じ、ピッタリなヒーローの登場タイミングだったかな?」
「……はぁ、遅ぇよ」
「ふぅ、全くね」
安堵の息を漏らす二人。
彼が来た事で、まだ敵がいる状況だというのに、緩和した空気に。
それほどまでに、緊張の連続だったのだろう。
生と死が隣り合わせ。
実際、こんな異界(敵の結界内)で素人が二人、よく生きていたと思う。
まぁ。
彼に関わった時点で、無意味にのたれ死ぬ因果とは無縁になる呪いを掛けられたようなものだが。
「てかほんと、この竹とんぼ何? 下にも落ちてるけど、ここで遊んでたの?」
「いや……それはもう気にしなくていい」
「そ。にしても、僕らもなんでここに来られたのか分からんのだよね。電話をとったらこうなったけど、スマホで繋がれた感じ?」
「わかんない。私はダメ元で掛けただけ。よく、怖い話で別の世界と電話が繋がるってのを見てたから……」
「ナイスムーヴだね美兎ちゃんっ。今度また異世界に来たら電話してねっ、楽しそうだしっ」
「こんなトコ、二度とごめんだわ……」
そりゃあ、彼にとっては遊び場が増えただけの感覚だろう。
「で、状況は? 絶体絶命?」
「……どうだかな。さっきまではそんな気持ちだったが」
「アンタ、大口叩いてるんだから、どうにかしてくれるんでしょうねっ」
「僕、大口叩いたっけ? まぁ、やれるだけの事はやるけど」
彼はちらり、視線の先にいる着物の子供に目をやる。
子供達は、彼を前にしても物怖じする様子はない。
そもそも、そんな感情は有してないのだろう。
ただの雑兵。
本人の魂がある分、こちらの良心に訴えかけるという意味で厄介だが。
次に……彼は、奥の方にいる『呪いの源泉』を視認する。
「へぇ」
と、彼は感心したように頬を緩ませた。
彼が興味を示すぐらい、黒い着物の『彼女』は特異な存在だ。
その強さや『背景』も含めて。
何より、あの存在は彼と全くの『無関係では無い』。
あの顔の黒いモヤさえなければ、彼も『正体に気付けた』ろうが。
「おいおいヤベーぜわらびちゃん、奴さん、思った以上にヤるみてぇだ」
「そうですね」
「なんだかムラムラして来た……生命の危機時特有の(子孫を遺そうとする)反応ってやつじゃあねぇか?」
「貴方は常に危機を感じて生きてるんですか」
「俺らはまるでホラーですぐ死ぬエロ枠のバカップルだなっ」
「まぁ確かにB級映画みたいな話ですね、今回のは」
どうせ、『私の時』は口だけで手を出そうとはしない癖に。
「荷が重いなぁ。さ、どっちから行こうかなー」
なんて、バイキングの料理を選ぶように彼が余裕ぶった態度を見せていると……
おしくらまんじゅう! おされてなくな!
ド ガ ッ!
…… 一人の子供が一気に間合いを詰め、彼をお尻で吹き飛ばす。
その衝撃は全速力のトラックに轢かれたソレで。
彼は、側にあった数体の地蔵を薙ぎ倒し、地面に倒れ、
どれだけじゃんぷできるか! しょうぶね!
ヒュゥゥゥゥゥ ズ ン ッ !
追い打ちを掛けるように。
空から、竹馬に乗った子供が落ちて来て、隕石が落ちたような衝撃と共に、彼を踏み潰した。
衝撃で地面の砂煙が舞い、状況は把握出来ない。
……やはり、あの子供達は魂がある分、攻撃も強力だ。
これほどの霊体を産むのは容易な作業では無いのだが……流石は『あの人の』、という所か。
「な、何も見えなかった……気付いたらアイツが吹き飛んでて……うそ、だろ……?」
「え? もしかしてウカノさん、やられちゃった……?」
隣の二人は、安堵から一転。
何事も無く、彼が全て解決してくれると思ってしまったのだろう。
チラリ……
私の顔を一瞥する空木さん(だったか)。
私の反応でも気になるのだろうか。
まぁ、彼女の目には、私の顔が冷めているように映っているだろう。
その解釈は間違いではない。
最も、それは冷めというより『呆れ』に近い。
私は呟く。
「遊んでいないで早く終わらせて下さい」




