214 殺し屋と遺品
怪しい洋館にて、再び子供達と鬼ごっこ。
何とか目に付いた部屋に美兎と逃げ込んで……
「にしても、なんでお前だけ(葬式してる部屋で)操られたんだ? 私がたまたま助かっただけとは思えんが……」
「……関連性を考えるなら、私も、あの遊園地に関わってるって事かしら」
美兎のダチが消えたあの日、場合によっては自身がその『ダチ側』になってもおかしくなかった、と。
「消えるのは『出逢いのおまじないの結果に産まれる子』なんて話もあるけど定かではないしね。最近まで、あの子の母親の霊が私を遊園地に導いていたのが、何よりの証明よ」
「厄介だな……友人やら近しい奴も巻き込むタイプか。まぁ……その辺は人間と変わらんか」
しかし、人間はまだ会話が出来るし最悪(物理的に)黙らせれば終わるが、『色々と通じない相手』はその限りじゃねぇ。
『規格外な奴ら』以外、そいつらを黙らせる事は困難だろう。
「はぁ……全く。今の所身体に異常とかは無いけど、後でまた急におかしくなるとか無いわよね……?」
「アイツらが部屋に近付いたら耳塞ぐとか、まぁやれるだけの事はやってみろよ。……てか、お前やアイツらは、あの部屋で何をやってたんだ?」
「知らないわよ。単純に、見たまんまのおままごとでしょ。ああやって毎日、あの部屋でああして遊んでるのよ。地縛霊ってのはそうやって、同じ事を繰り返すものらしいから」
あの葬式を、あのままごとを、毎日繰り返してる……その光景を考えるだけでも背中がゾワリと寒くなる。
「けど、さっきギリギリで助けて貰って感謝してるわ。もう少しで泥団子を食べるところだった」
「まぁ、腹壊すだろうしな」
「いえ、その程度で済めば良い方よ。アレを口にしていたら私はここの一員になっていたわ。恐らく、ね」
「一員?」
「よもつへぐい、ってやつよ」
言葉は知ってる。
異世界のものを食ったらそこの住人になってもう出られない、とかいうアレだ。
「古事記に出た概念ね。ほんとかどうかは知らないけど、昔の教えや教訓には従うべきね」
「どっちにしろ、泥団子なんて食いたくねぇがな」
「でも、泥団子を私に食べさせようとした『あの子達』に、悪意は感じられなかった。恐らくは、ただ単純に『家族を増やしたい』だけだったのかも」
多分だの恐らくだのが多いな。
まぁ悪霊どもの気持ちなんざ理解のしようがないし憶測するしかないんだが。
「……ねぇ、アレって」
不意に、美兎が部屋の奥の暗がりを指さす。
何か……積み重なっているのが見える。
おかしな気配は感じない。
ただの【モノ】だ。
パッと、スマホのライトをそちらに向ける美兎。
直後 「ッ!」 美兎は息を呑んだ。
骨だ。
骨が、奥の方に積み重なっている。
私は、そろりと歩み寄り、それを調べる。
「……頭蓋のサイズからして、子供の骨、だな」
「子供って……『そういうこと』?」
「さぁな。まぁ、そうかもしれねぇ」
そろりそろり、美兎も近付いてくる。
思えばまだ中坊だってのに、悲鳴も殆ど上げたりしねぇのは肝が座ってる。
人骨を見る機会なんざ、人生で葬式くらいしかないだろうに。
仕事柄、見慣れた私と違ってな。
「……『あの子』の骨だわ、これ」
「あ? 分かるもんなのか?」
「ええ。ほら、手の中に、何かあるでしょ」
言われて目を凝らすと、骨になった手の所に、キラリと光るナニか。
「なんだ? 兎のキャラの……ブローチとかピンバッチとか、そんなやつか?」
「それ、当時の私がその子にあげたやつなの」
「……そうか」
それで、色々と察せた。
「あげた、というよりお互い髪飾りをプレゼント交換した感じね。それが手元にあったんなら、もしかしたら何かの突破口になったかもしれないけど、残念ながら今は普通に家にあるわ」
「……不粋なことを言うが、コレが本人の骨かは分からんぞ? これだけ数人分の骨が積み重なってちゃあな」
「でも、この中には居るのは確かでしょう。それで十分よ」
言いながら、美兎はその髪飾りを拾う。
「持ち帰るわ。骨(持って帰るの)は違う気がするし」
「……そうか」
私に何かを言う権利など無い。
のんびりした口調で、穏やかそうに見える美兎……だが、その目には、静かな怒りの色があった。
その心中は、まぁ想像に難くない。
長い間、心のしこりとなっていた友人。
そいつとようやく『再会』出来たのに、当の本人はこんな雑に積み重ねられてたって現実。
私も、この骨のガキどもに思い入れがあるわけじゃないが……色々と、侮辱してるのは分かる。
十年以上、こんな場所に魂が縛られてるのだ。
……もしかしたら、ウチのババアが遊園地に通ってたのも、この辺(救われぬガキどもの魂)が関わってたのかもな。
「私はやっぱり、解放してあげたい。もう、悪事の片棒を担がせない」
「気持ちは分かるが、どうやるつもりだよ」
「当初の予定通り、ウカノさんに、やってもらう。他に縛られてる子達も含めて、ね」
「アイツにか……多分、容赦無く『消す』と思うが、いいんだな?」
「ええ。その方が良い」
「……まぁ、アイツらと合流しない事にはな。それまでに、ウチらがミイラ取りにならなきゃいいが」
廊下の方の気配を探る。
「…………よし、気配はねぇ。一気に外まで走るぞ」
「ええ。……待っててね」
ボソリ、呟く美兎。
それは私にではなく、後ろの骨に言ったんだろう。




