210 謎の世界と謎の女の子11&【特別編3】
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翌朝。
「ご苦労様でした」
あいつを見送った直後、いきなり背後からお袋が現れた。
今日もいつも通りな黒い着物。
朝からこんな暑いのに、いつもの涼しげな顔。
「今までどこにいたんだよ」
「見守っていましたよ。お客様との時間を邪魔せぬよう、陰ながら」
「そうか……」
「全く。あれほど教えた接客の『せ』の字も出来ていませんでしたね」
「べ、別にいいだろ。接客は心って教えたのはお袋だぞ? 本人が満足してればいいんだよっ」
「はぁ……『同じ部屋で寝ろ』とまで指導してはないでしょう。何故『皆』似たような行動を……『何か』あったらどうするつもりです」
「何かってなんだ?」
「貴方にはまだ早い話です。兎に角、あとで反省会ですね」
言って、お袋はこの場を去ろうとする。
……これは、決して反省会から逃れようとしているわけじゃないが……私は、お袋を呼び止めた。
「お袋。話がある」
お袋はピタリ止まり、振り返った。
お袋は、まるで私が何を言うか分かってるみたいに、少し、嫌そうな顔を向けて。
「はぁ……やはり、そうなりますか」
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「じゃあお袋! ちょっくら行ってくるわ!」
「ええ。お体に気をつけて」
「別に今生の別れってわけじゃねぇだろっ」
タッタッタ
「さて。僕らは今、遊園地の奥を抜けた先にあった荒野を更に抜けこんなのどかな土地に来たわけだが……んー? 今すれ違った着物の子は誰だろう?」
「なんなのその前半の説明? にしても……ああ……よりにもよって『この瞬間』に立ち合うなんてね」
「ん? アンドナ、今の子知り合い?」
「いや、知らない人だよ」
「でも、言われたら確かに、僕もどっかで見たような……?」
「……まぁ、そのうち思い出すんじゃない?」
「変なアンドナっ。まぁいいや。あ、セポネさんだ。おーい、セポネさーん」
「(ポツリ)ある意味では今生の別れ、なんですよね」
「セポネさん?」
「え? あ、あら、ウカノ坊ちゃん、どうしてここに?」
「ほら、前に遊園地でゴタゴタした時あったじゃん? あの時初めて知ったんだよ、あそこと『かねこりの館』が繋がってるって。で、今日改めて確認しに来たってわけ」
「そ、そうですか」
「いやー、道中長かったよ。いつもあんなとこ往復してんの?」
「いえ。遊園地から直通の道もありますよ。複雑な手順は踏みますが」
「案内の看板立てといてよー」
「他人に気軽に来られても困りますので」
「あっ。アンドナは初めましてだよね? この人はセポネさん。ママンの部下で自称『冥府の女王』を名乗ってて、今はそこのお宿、かねこりの館の女将さんだよ。で、セポネさん。この子はアンドナって言って、サキュバスであり僕のコレよ(中指を立てる)」
「立てる指おかしくない? なんか前もこんなやり取りしたな……」
「はぁ、貴方が……プラン様からお話は聞いてますよ、よろしくお願いしますね。……それで、このかねこりの館を訪れるという目的は達成したんですよね? 坊ちゃん」
「なぁに? そのトゲのある言い方、早く帰って貰いたいみたいじゃん?」
「お引き取り願います。せめて、話すのであればここ以外の場所で」
「酷くない? ねぇアンドナ?」
「まぁ長居されると迷惑っぽいし、帰ろっか」
「お? なんだなんだ?」「知らない人がいるー!」「こらアンタ達っ」
「お? なんだなんだ? メスガキが湧いて出たぞ?」
「こらー、まねするなー!」
「なにおー! 年上に向かって失礼だぞー!」
「ぎゃー! ほっぺひっぱるなー!」
「へっ! メスガキが! 思い知ったか!」
「大人げないよウカノ君……」
「ほら貴方達客人の前で失礼ですよ。中に戻りなさい」
「おきゃくさまー?」「わたちたちと遊ぼっ」「ほらっ、女将さんに迷惑だからみんな行くよっ。もう……冥子姉がいたらチビ達を纏めてくれるのに、どこに行ったんだか……」
「あー、行っちゃった。しかし、噂は本当だったんだねセポネさん。労基無視して未成年に労働を強いてるばかりか、ほぼここに監禁状態だって」
「人聞きの悪い。前も言いましたが、私も、好きで子供のお守りをしているわけではありません」
「にしては、随分チビ達に慕われてるっぽいけどね。『本業』ほっぽり出して、もう何年もここにいるんだろう?」
「何年どころか『百年以上』居ますよ。色々あって『押し付けられて』……私も、早くプラン様の元に戻りたいのですが」
「んー? 変な単位聞こえたけど気の所為か。そーいえばさ、ここ来る途中変な『集落』が見えたんだけど誰もいなかったんだ。家の中は出来たばっかみたいに凄い綺麗だったけど、あそこ、なに?」
「ああ……前にプラン様達『魔王軍一行』がここに遊びに来た時の名残りですね。かねこりでは手狭だったので、プラン様が一時間ほどで用意した宿泊所です」
「えー? 僕そのイベント知らないんだけどー?」
「坊ちゃんが産まれる前の話ですからね……」
「ならまたやろうぜっ、お泊まり会っ。ママン達呼んだらすぐ来るでしょー(スマホすっ)」
「やめて下さい」
電波
「あ、ここ圏外だったんだ。WiFi設置してくれよー。まぁ今はいいや。取り敢えずさぁ、僕ら一泊させてよ。お泊まりセット背負って来たんだ。セポネさんの上司の息子の頼みだ、断れないよね?」
「お帰り下さい」
「なんだよっ。見た感じ客居なそうじゃんっ。金落とすからっ」
「ここは営利目的ではないので。それに、あの子達におかしなタイミングで『外の世界』の事を知られるのは良くないのです」
「なんだそりゃあ? この場所以外に興味持たれたらマズイってか?」
「話が早くて助かります」
「まるで意味が分からんぞっ」
「あー……セポネさん。彼に掻い摘んで説明しても宜しいですか?」
「ええ。その上で首輪を着けて頂けると」
「なに? なんでアンドナは知ってるって空気なの? 二人とも初対面よね?」
ゴニョゴニョ
「おいおい、そんなファンタジーあるかい?
ここが『死後の世界』で?
あの子達もここに来る客もみんな『死人』で?
一人の女の子が接客する相手(客)は『来世での運命の人』で?
この世界から出るという事はつまり『成仏』を意味してて?」
「いちいち復唱しないでいいから……」
「こんな素っ頓狂なこと言われたら驚くのも無理ないぜ。第一、死後の世界ってなんだよっ」
「ここに来るまでが既に死後の世界だったでしょ……」
「それもそうか。じゃあ何かい? さっき来た時にすれ違った女の子は、まさに客の相手が終わって、客を追い掛けるように外の世界……つまりは来世へと旅立ったって事かい?」
「ん、まぁそういう事でしょ。私も、そこまで詳しくは無いけど……ここに来る女の子(従業員)は『恋を知らずに』死んじゃった子、だとか」
「へぇ、なんだかロマンチックだなぁ。あ、今思えば、さっきすれ違った子、空木ちゃんに似てたね。まさか本人? いや、有り得ないか。時系列無茶苦茶になるし」
「い、いや、私その子知らないから……」
「坊ちゃん達がすれ違ったのは、空木の祖母、冥子ですよ」
「へー、道理で。前に見た時はデカいばあちゃんだったのに、若い頃は随分と小柄…………って、いや、おかしくない? 僕、あの『遊園地騒動』の後、空木ちゃんのおばあちゃん見てるけど、しっかりおばあちゃんだったよ? それはセポネさんも『知ってる』でしょ?」
「簡単な話です。ここは時間の流れが複雑に絡み合っている、それだけの話。ここを出た子達はそれぞれ、生まれる時代がバラバラだったりしますし」
「もう何でもありだなー」
「ウカノ君ほどじゃないと思うけど……」
「あー、でも、『あの時』セポネさんが言ってた意味深な事、今思えば色々腑に落ちるねー」
「あ、あの、女将さん、これ……」
「お、従業員ちゃんだ。みんなでお茶しない?」
「坊ちゃん、絡まないで下さい。それで、どうしたんです【美兎】? それは……カメラ? はぁ、全く。あの子、また忘れて……渡しておきます」
「し、失礼しますっ(タッタッタ)」
「美兎……? まぁいいか。てかそれ、あの時のカメラ? なんだっけ、『撮った写真の中の世界にいつでも戻れる』ってやつ(花嫁道具)だっけ? 過保護だねぇセポネさんは」
「別に。皆に均等に、似たような物は渡しています。ここを出た後変な事故に巻き込まれて死なれても、寝覚めが悪いですからね」
「てか、考えたらそれ渡したせいで『あんな事』になったわけじゃん? やらない方が良くない?」
「そうはいきません。物事はそう単純では無いのです」
難儀な性格だねぇ。




