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208 謎の世界と謎の女の子 9

男が目覚めると、そこは見覚えのない山の中。

近くにある宿泊施設の従業員、着物少女の冥子めいこに起こされ、なんやかんやあって『おもてなし』される流れに。

夜、お祭りを満喫した後は、謎の祠の中にあったインスタントカメラを持ってお散歩。

『仕掛け人』が用意した矢印の道筋に沿って、俺らは進んで行く。



リーリー カナカナ ゲコゲコ


「んー……夜に虫と音を聞くと、夏って感じだね。鈴虫とかコオロギは秋だったかな」


「あん? ああ、虫の話か。名前は聞いた事あるが、見た事はねぇなぁ、そいつら」

「え? わりと一般的な虫なんだけど……そうか。まぁ、居ない地域もあるんだろうね」

「そもそも、その『秋』って季節を見た事がねぇ」

「え? 秋が、来ない?」


耳を疑ったが、どうやら事実のようで。

ここは、一年中常夏日和な世界らしい。

沖縄みたいな地域……と思えばいいのか?


「でも、田んぼがあったよね? 稲は普通、秋に収穫じゃあ……?」

「さぁな。夏に収穫してるからそういう品種じゃねぇの?」

「まぁ……ここならなんでもありか」

「私が来た頃からこんな感じだが、前はずっと『冬の時代』もあったらしいぜ」

「時代って……かねこりの館はいつからあるんだ」


冥子さんもそれは知らないらしく、特に返答は無かった。



なおも俺らは矢印に従って歩いて…………辿り着いたのは河原。


昼頃、遊んだ河原だ。

ザーッ と、日中は穏やかに見えた川も、夜に見ると少し怖さを感じる。

そして……目の前には、川を跨ぐように伸びた【木造の橋】が。

コレ、あったかな?

ここは、昼に遊んだ場所とは大分離れた所なのだろうか。


「へー、こんな場所があったなんてな。明日、ガキどもにも教えてやるか。すぐに遊び場になるぞ」


どうやら、冥子さんも知らない所だったようで。

十数年ここにいるらしいが、そんな事もあるのか……?


「じゃあ渡ろうぜっ。下見は大事だっ」

「この先はただの森(竹林)なんじゃ……?」


俺は冥子さんに手を引かれ、流されるままに橋の上を渡り始める。

昼に見た時はなんとなく、川の奥へは『渡ってはならない』と本能がざわついていたが……このままだと冥子さんは好奇心で一人ででも渡りそうなので、放ってはおけない。


トコトコ トコトコ トコトコ


丈夫で立派な橋だ。

歩いても、特に軋む音はない。

……1つ、気になる部分があるとするなら。

【花】があった。

橋の端っこ(洒落じゃなく)、手すりの下……そこに、等間隔で点々と、赤い花が生えていた。

見た事はあるけど、名前が思い出せない花。

なんて名前だっけ?

あの、お彼岸の時期によく見るやつ。


「どうかしたか?」

「いや……」


何故か引っかかるが、まぁ、大した疑問でもない。

冥子さんに訊いても、花の名前とか(食べられるのしか)知らなそうだし。


「アレだよ。まだ、向こう岸が見えないなって」

「ああ……確かに、この橋、長いな」


昼に見た時もモヤがかっていて向こう岸は見えなかったが……それでも、川の幅、こんなにあったかな……?


フワ フワ


ふと。

視界の先、川の上で妙なものを捉えた。


ピカッ ピカッ


それは『点滅』していた。

フワフワと【ソレ】は宙をたゆたいながら光を放つ。

ホタル?

とも思ったが……『デカイ』。

光の大きさは、野球ボールほどもある。

まさか……


「人魂っ!?」

「いやホタルだぞアレ」

「え、ホタル……?」


ズシリ

不意に、手に持った提灯が重くなる。

目を凝らし、よく見ると……

デカい虫が引っ付いていた。

カブトムシ大の黒い虫。

……見れば、お尻が黄色の蛍光色のように光っている。

その明るさは、この提灯を消しても周りが見えるであろうと思うほどに眩い。

じっくり、普通のホタルを見た事がないのでこの虫がジャンボホタルなのかは不明だが……世界には色々な生き物が居るんだな(思考停止)。


「よく捕まえては夜遊びの灯り代わりにしてたわ。部屋に持ち込んだりな」

「ホタルってすぐ死んじゃうんじゃ……?」

「いや? 普通に次の日の朝もピンピンしてるぞ。『死んでるのは見た事ねぇ』な………………おっ?」


ブゥン と、ホタルが提灯から飛び去るのと、俺らが橋の終わりに辿り着いたのはほぼ同時で。


「なんだ、別に誰も待ってなかったな。って、また看板あっし」

「『この道を真っ直ぐ進め』って、直線の矢印だね」

必要いるか? これ」

「森を切り拓いたような真っ直ぐな道だけど、変に寄り道されたら困るんじゃないかな」

「お袋め……人を落ち着きのねぇガキみたいに馬鹿にしやがって……」


ぷりぷり怒る冥子に強めに手を引かれつつ、俺らは先を進む。

思えば、今日彼女はずっと、こうして俺の手を引いてくれた。

判断の遅い俺には、こんな引っ張ってくれる女性ひとが合っているのかもしれない。


……なんて。


こんな気持ち悪い台詞を吐いたら、彼女はドン引きするだろうな。

そこまで深い意味に取らないかもだけど。



その後の道中も、森の中では何事も無く、静かなものだった。

いや、ここに来てからというもの、心臓に悪いビックリポイントは全て、冥子さん由来だったが。

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